if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「ったくカスがぁ。良い年して迷子ってどういう事だぁ!?」
「ごめん……」
「……チッ」

運転していた車のハンドルを、イライラと指で叩きながら舌打ちをした。
ディーノはそれに対して、申し訳無さげに肩を小さく丸める。

「その……スクアーロに会えて良かったっつーか……置き去りにされなくて良かったっつーか……」

まあ自分のしたことを考えれば、あの場に捨て置かれても何らおかしくなかった、と考えて、ディーノは安心して息を吐く。

「それにしても……スクアーロはこんなところで何してたんだ?」
「……それは、答えなければならない質問かぁ」
「え……いや、答えたくないなら答えなくても良いんだけど、さ……」

ディーノは少し気が緩んだ様子で話し掛けたが、スクアーロの返事は素っ気なかった。
やっぱり、まだ怒っているのだろうか。

「スクアーロ……その、この間はごめん、な……?」
「……なにが」
「その……オレが……スクアーロに無理矢理迫った事……なんだけど……」
「……ない、」
「え?」
「お前が、謝る必要ない」
「……なんで?」

スクアーロは眉間にシワを寄せる。
細められた目が、一瞬だけディーノの方を見て、再び前に戻る。
ハンドルを叩く指がピタリと止まり、首を傾げてじっと待つディーノに、スクアーロはようやく答えたのだった。

「……オレは、気にしてねぇ。だから、そんな下らないことで、一々声掛けてくるな」
「……なんだよそれ。下らなくなんかねぇだろ。オレはスクアーロの事怖がらせたって思って、ずっと……」
「怖くなんてねぇよ!」
「うぶっ!?」

キキュッ!と激しくタイヤが鳴いて、車が急停止した。
予期していなかった衝撃に、ディーノの腹はシートベルトで締め付けられる。
スクアーロは、呻き声を上げて苦しそうに咳き込むディーノの胸ぐらを掴むと、その頭を窓に打ち付けた。

「い゙っ!?」
「オレは怖くなんてなかった……!!出鱈目なことを言うな!!」

そう叫んだスクアーロの声は、酷く苦しそうで、ディーノは自分の胸ぐらを掴む手をしっかりと捕らえて、彼女の目を真っ直ぐに見る。

「嘘……つくな!あの時!お前は間違いなく、何かに怯えていた。オレが枕に拳をぶつけたときに……お前はオレじゃない何かに怯えていた」
「そんな……そんな事、ない……!!」

痛みで頭がふらつく。
ディーノはそんな状態の頭に、あの時の光景を思い返していた。
必死に否定の言葉を繰り返すスクアーロの姿は、あの時よりも頼り無さげに見えて、ディーノは彼女を逃がさないように、手をしっかりと握る。

「嘘だ。お前は何かに怯えていた。オレは……それも含めて謝りたかった!」
「もう、良い……もう良いから……!もう……それ以上、オレに、関わらないでくれ……!もう何も、思い出したく、ないのに……」

縋るように叫ぶ声に、苦し気な顔。
そんな表情をしてほしくなくて、ディーノはその頬に手を伸ばし……

「スクア……え?」

そして彼女の背後に迫る、黒いボールのようなものを見た。
見覚えがある。
あれは……あれは、ばくだ……

「ぎゃはははは!あっぶねーなぁスクアーロぉお!!」

突然聞こえた声。
伸びてきた細く長い腕。
そして、次の瞬間、反対側の車線の更に向こうにあった建物が、派手に爆発した。

「なっ……出夢……!?」
「暫く理澄の事頼んだぜ。ぎゃははははははっ!!」
「ヤッホー!スクアーロちゃん!暫く守っててほしいんだねっ!」
「誰だコイツら……ってかあの爆弾はっ!?」
「……そう、か。そうだな。理澄は守ってやらねぇと、な」
「ん?」

スクアーロは、座席に飛び込んできた黒マントの少女を抱え、ディーノを促すと、車から降りて走り出す。

「ぎゃは、スクアーロからはまだ報酬もらってないんだよ。だから、殺すのはもう少し待っててほしいんだよね」

残った出夢はそう言ったが、返ってきたのは言葉ではなく、1つの手榴弾。
それに対して出夢は口許の笑みを深めると、演技がかった仕草で両手を広げた。

「ぎゃはっ!交渉不成立!!」

弾丸のように飛び出した出夢の腕が、迫った爆弾を弾き返した。
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