if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「なるほど、それは十全ではありませんわ。貴女がわたくしを頼ってきたことにも納得ですわ、お友達(ディアフレンド)」

街角の洒落た喫茶店。
その1席に、二人の人間が座っていた。
唄うような声で話す女は、その全身をデニムの服装で包み、長い三つ編みの頭にはハンチング帽を被っている。
編み上げ靴の脚を優雅に組みながら、向かいに座る人間を見てふっと頬を緩ませる。
その様子を見た向かいの人物は、疲れたようなため息を吐いた。

「出来るなら、今すぐにでもイタリアに帰りたい。もう、日本は懲り懲りだぁ……」
「そうとうお疲れのようですわね。ですがため息を吐いては、幸せが逃げてしまいますわ、お友達(ディアフレンド)」
「もう手遅れだろぉ……。小唄ぁ、お前今からでも、オレの振りして仕事代わりにやらねぇかぁ?」
「高くつきますわよ?」
「あ゙~……今金やべぇんだよなぁ……」
「それ以前に貴女、自分が請け負った仕事を他人に任せることを、許せるような性分ではありませんでしょう?」
「……お前の言う通りだった」

三つ編みの女性は、大泥棒・石丸小唄。
そしてその向かいにいるのは、スペルビ・スクアーロだった。
スクアーロは疲れたような表情で紅茶を啜ると、観察するように自分を見ている小唄に言葉を投げ掛けた。

「でぇ、この仕事、受けてくれるのかぁ」
「受けて差し上げましょう、お友達(ディアフレンド)。貴女の頼みですもの、格安で」
「オレは仕事と対等な分の報酬は払うつもりだが……」

スクアーロの言葉に、小唄は優雅に微笑みを浮かべる。
長い三つ編みがさらりと揺れた。

「お友達(ディアフレンド)、ですもの。それに貴女、今は少ない経費からわたくしへの依頼料を捻出するために、四苦八苦しているような暇はないでしょう?」
「あ゙あ?どういう意味だぁ?」

スクアーロが小首を傾げる。
それに合わせるように小首を傾げた小唄は、その笑みを深めて声のトーンを落とした。

「何でも、気になる男(ヒト)がいるとか?」
「ぶふっ!?」
「嫌ですわ、何も噴き出すことないでしょうに」
「なっ!どっ!それっ……!!」
「どこぞの哀川潤に聞いただけですわ。その様子を見るに、本当に気になる方がいらっしゃるのですね?」
「んなわねーだろぉが!!」

思わず叫んで否定したスクアーロに、店内の視線が集まる。
それに気付いて、店内の視線を散らすように手を振ると、声をひそめて小唄に抗議する。

「オレはそんなこと一言も言ってねーよ!!」
「何を言うのですか、お友達(ディアフレンド)。哀川潤は嘘をつかないですわ」
「かもしれねえが、だからって!」
「貴女のような人でも恋をするとは、少し意外でしたわ」
「だぁぁあっ!この性悪っ!!」
「あら、そうと知っていて、貴女はわたくしと付き合っているのではなかったのですか、お友達(ディアフレンド)?」
「ああそうだよ!くそっ、やっぱり全部自分一人でやれば良かった!!」

ぐしゃりと髪を掻き乱して、スクアーロは残った紅茶を一気に飲んだ。
それを微笑ましそうに見ながら、小唄は立ち上がる。

「それは十全ではありませんわ。貴女、今は弱っている様子ですし、無理をすることはよくありません」
「……チッ、出来ないことを無理にやる気はねぇよ。だからテメーを引きずり出したんだしな」
「それは十全ですわ。さて、それではお仕事と参りましょうか。十全を尽くして、最速で情報を盗んでお渡し致しますわ、お友達(ディアフレンド)」
「……頼む」

去り際、レシートを取ろうとした小唄からそれを掠め取り、スクアーロもまた立ち上がった。
小唄は肩を竦めて店を出る。
その後に、会計を終えて店を出たスクアーロは、誰かに勢いよくぶつかられた。

「ってぇな。何だてめ……て、跳ね、馬……!?」
「え……スクアーロ!!良かった!探してたんだよ!!」

ぶつかってきたのは、先程も話題に上っていたディーノで、咄嗟に逃げようとしたスクアーロだったが、腕を掴まれ、その目論見は失敗に終わる。
キッと睨んで、彼に怒鳴ろうとしたスクアーロは、しかしその前に叫ばれたディーノの言葉に固まった。

「なあ、ここどこだ!?オレ迷っちまって……!」
「あ、……はあ!?」

開いた口が塞がらない、とは、このようなことを言うのか、と、スクアーロは思考停止仕掛けた脳ミソで考えたのであった。
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