if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯
震える声、震える腕、震える瞼。
シャツから覗いた白い肌。
2日経っても、あの体温が忘れられなかったし、頬を打たれた痛みが残っている。
いや、キスしたかったなーとか、そう言うのじゃなくて、なんであの時さっさと謝れなかったのかなって思うのだ。
「オレの馬鹿ぁぁあ……。スクアーロぉお……どこだぁ……?」
ディーノはフラフラと歩きながら、ぐずぐずと鼻を鳴らしていた。
どう考えたってあれはやり過ぎだったって言うのはわかっているし、今すぐにでも謝りたい。
なのに、だって言うのに、昨日から1度もスクアーロに会えないままなのだ。
スクアーロがどこにいるか聞き付けてその場に行っても、入れ違いで会えない。
フラフラと町を歩いていても会えない。
これはもう、避けられているととっても良いんじゃないだろうか。
「ロマーリオともはぐれちまったし……つぅか、ここどこだ……」
スクアーロを探して歩き続けて、ディーノはいつの間にか迷子になってしまっていた。
並盛町には今まで何度も来ているが、こんな場所は知らない。
本当にどこだここは。
「どっかに地図ねーのかな……」
そのままフラフラと歩いて、地図や見覚えのある道を探す。
だが何も見付けられないまま、ディーノは近くにあった公園に立ち寄った。
ベンチに座ってぼんやりと公園を眺める。
公園には、人がほとんど居なかった。
寂れた遊具に人のいない砂場。
そしてディーノの視界の端、公園の隅の植え込みの側に一人の女の子が、後ろを向いてしゃがみこんでいた。
不思議に思ってそろそろと近付く。
「……」
一度目を擦り、もう一度見る。
だが何度目を擦ったところで、ディーノの前の出来事がなくなることはない。
少女はしゃがみこんで、小振りなナイフで鳩を滅多刺しにしていた。
「……あの、何か用ですか?」
「えっ!?あ……いや、何してるのかなぁって……」
「鳩を殺してます」
「うん……それはオレにもわかるけど……。鳩、何で殺してるんだ?」
「趣味だからです」
「んー……変わった趣味だなぁ……」
小学生……いや、中学生か?
京子達よりはだいぶ幼い外見だが、その物言いはだいぶ大人らしい。
淡々とディーノの問いに答えながら、鳩を刺し続ける変わった少女は、行動こそ奇怪だったが、その容姿は人形のように整っている。
「それ……その趣味、楽しいのか?」
「まあ、そこそこ」
「ふぅん」
「……」
「……」
会話が続かない。
ディーノは目の前の犯罪をただぼんやりと見ていた。
鳩は刺され過ぎて羽が禿げてしまっている。
ピンク色の肉と赤く濡れた傷口が痛々しい。
少女がズブズブと鳩の腹にナイフを刺すと、数多ある傷口から血が飛び出て、少女の足元を濡らしていた。
「えーと……さ、オレ道に迷っちまったんだけど、並盛中学までの道って知ってる?」
ディーノはとりあえず、少女に道を聞いてみる。
普通なら怒るなり気味悪がるなり、別の反応をすべきなのだろうが、彼女の場合はそれがあまりにも自然なことのように思えた。
鳩を殺して、自然な女の子っていうのは、些かおかしな響きであるけれども。
「私はお兄ちゃんとここに来ただけなので、道はわかりません」
「お兄ちゃん?」
「私のご主人様です」
「うん?」
「私はお兄ちゃんの奴隷として、お兄ちゃんのお仕事をお手伝いするために着いてきただけなので、ナミモリ中学という場所までの道はわかりません」
「ええっ!?奴隷!?」
少女は行動だけでなく、話す内容も奇怪であった。
というかお兄ちゃん?
お兄ちゃんなのにご主人様なのか?
というかお兄ちゃんさん、何者なんだろう。
ディーノの疑問は尽きないが、何となく働いた勘が、『これ以上掘り下げるとまずい』と言っているような気がして、彼は咳払いをしてその話を強引に終わらせた。
「あー……知らないならしょうがないよな。ありがとなお嬢さん」
「いいえ、お役に立てなくてごめんなさい。そう言えば、金髪のお兄ちゃん」
「え?……ああ、オレ?」
「外国の方ですよね」
「うん、まあな。イタリア人なんだ」
「先程そこで、外国の方を見ました」
「え!どんなやつだ!?」
金髪のお兄ちゃん、などと言われて、一瞬戸惑うが、金髪のお兄ちゃんなど自分以外にいるはずもなく、ディーノは首をかしげて返す。
少女はチラリと一瞬ディーノを見ると、変わらず淡々とした調子で話した。
外国の方、もしかしたら仲間かも知れない。
そう思ってディーノは、彼女の話に慌てて食い付く。
「スーツとか着てたか?」
「いいえ、よくあるカジュアルなファッションでした」
「そ、うか……なんか他に特徴とかなかったかな?」
「銀色の長い髪をした綺麗な人でした」
「……え……」
「?あの?」
彼女の、目撃情報に唖然とする。
その特徴は間違えようもなく、ディーノの探している人のモノだったからだ。
「なあ!その人、どこに行ったかわかるか!?方角だけでも良いんだけど……!」
「え、えーと、公園を出て、たぶん、東に向かいました」
「よし!ありがとなお嬢さん!!もしまた会えたらお礼する!」
「?はあ……」
ディーノはあっという間に公園を出て……一度アスファルトの地面で顔面スライディングを披露していたが、そのまま彼女に聞いた方向に走っていく。
そんな彼が去ったのと入れ替わりに、反対方向から一人の青年が現れた。
少女が青年に駆け寄る。
「お兄ちゃん、お仕事は終わりましたか?」
「うん、待たせてごめんね、崩子ちゃん」
二人は揃って公園を出ていく。
青年が1つ、不思議そうに呟いた。
「それにしても、姫ちゃんはこんな町に何の用があるんだろうね」
まあ、後で聞けば良いか。
呑気にそう言って、彼は並盛町を去っていったのだった。
シャツから覗いた白い肌。
2日経っても、あの体温が忘れられなかったし、頬を打たれた痛みが残っている。
いや、キスしたかったなーとか、そう言うのじゃなくて、なんであの時さっさと謝れなかったのかなって思うのだ。
「オレの馬鹿ぁぁあ……。スクアーロぉお……どこだぁ……?」
ディーノはフラフラと歩きながら、ぐずぐずと鼻を鳴らしていた。
どう考えたってあれはやり過ぎだったって言うのはわかっているし、今すぐにでも謝りたい。
なのに、だって言うのに、昨日から1度もスクアーロに会えないままなのだ。
スクアーロがどこにいるか聞き付けてその場に行っても、入れ違いで会えない。
フラフラと町を歩いていても会えない。
これはもう、避けられているととっても良いんじゃないだろうか。
「ロマーリオともはぐれちまったし……つぅか、ここどこだ……」
スクアーロを探して歩き続けて、ディーノはいつの間にか迷子になってしまっていた。
並盛町には今まで何度も来ているが、こんな場所は知らない。
本当にどこだここは。
「どっかに地図ねーのかな……」
そのままフラフラと歩いて、地図や見覚えのある道を探す。
だが何も見付けられないまま、ディーノは近くにあった公園に立ち寄った。
ベンチに座ってぼんやりと公園を眺める。
公園には、人がほとんど居なかった。
寂れた遊具に人のいない砂場。
そしてディーノの視界の端、公園の隅の植え込みの側に一人の女の子が、後ろを向いてしゃがみこんでいた。
不思議に思ってそろそろと近付く。
「……」
一度目を擦り、もう一度見る。
だが何度目を擦ったところで、ディーノの前の出来事がなくなることはない。
少女はしゃがみこんで、小振りなナイフで鳩を滅多刺しにしていた。
「……あの、何か用ですか?」
「えっ!?あ……いや、何してるのかなぁって……」
「鳩を殺してます」
「うん……それはオレにもわかるけど……。鳩、何で殺してるんだ?」
「趣味だからです」
「んー……変わった趣味だなぁ……」
小学生……いや、中学生か?
京子達よりはだいぶ幼い外見だが、その物言いはだいぶ大人らしい。
淡々とディーノの問いに答えながら、鳩を刺し続ける変わった少女は、行動こそ奇怪だったが、その容姿は人形のように整っている。
「それ……その趣味、楽しいのか?」
「まあ、そこそこ」
「ふぅん」
「……」
「……」
会話が続かない。
ディーノは目の前の犯罪をただぼんやりと見ていた。
鳩は刺され過ぎて羽が禿げてしまっている。
ピンク色の肉と赤く濡れた傷口が痛々しい。
少女がズブズブと鳩の腹にナイフを刺すと、数多ある傷口から血が飛び出て、少女の足元を濡らしていた。
「えーと……さ、オレ道に迷っちまったんだけど、並盛中学までの道って知ってる?」
ディーノはとりあえず、少女に道を聞いてみる。
普通なら怒るなり気味悪がるなり、別の反応をすべきなのだろうが、彼女の場合はそれがあまりにも自然なことのように思えた。
鳩を殺して、自然な女の子っていうのは、些かおかしな響きであるけれども。
「私はお兄ちゃんとここに来ただけなので、道はわかりません」
「お兄ちゃん?」
「私のご主人様です」
「うん?」
「私はお兄ちゃんの奴隷として、お兄ちゃんのお仕事をお手伝いするために着いてきただけなので、ナミモリ中学という場所までの道はわかりません」
「ええっ!?奴隷!?」
少女は行動だけでなく、話す内容も奇怪であった。
というかお兄ちゃん?
お兄ちゃんなのにご主人様なのか?
というかお兄ちゃんさん、何者なんだろう。
ディーノの疑問は尽きないが、何となく働いた勘が、『これ以上掘り下げるとまずい』と言っているような気がして、彼は咳払いをしてその話を強引に終わらせた。
「あー……知らないならしょうがないよな。ありがとなお嬢さん」
「いいえ、お役に立てなくてごめんなさい。そう言えば、金髪のお兄ちゃん」
「え?……ああ、オレ?」
「外国の方ですよね」
「うん、まあな。イタリア人なんだ」
「先程そこで、外国の方を見ました」
「え!どんなやつだ!?」
金髪のお兄ちゃん、などと言われて、一瞬戸惑うが、金髪のお兄ちゃんなど自分以外にいるはずもなく、ディーノは首をかしげて返す。
少女はチラリと一瞬ディーノを見ると、変わらず淡々とした調子で話した。
外国の方、もしかしたら仲間かも知れない。
そう思ってディーノは、彼女の話に慌てて食い付く。
「スーツとか着てたか?」
「いいえ、よくあるカジュアルなファッションでした」
「そ、うか……なんか他に特徴とかなかったかな?」
「銀色の長い髪をした綺麗な人でした」
「……え……」
「?あの?」
彼女の、目撃情報に唖然とする。
その特徴は間違えようもなく、ディーノの探している人のモノだったからだ。
「なあ!その人、どこに行ったかわかるか!?方角だけでも良いんだけど……!」
「え、えーと、公園を出て、たぶん、東に向かいました」
「よし!ありがとなお嬢さん!!もしまた会えたらお礼する!」
「?はあ……」
ディーノはあっという間に公園を出て……一度アスファルトの地面で顔面スライディングを披露していたが、そのまま彼女に聞いた方向に走っていく。
そんな彼が去ったのと入れ替わりに、反対方向から一人の青年が現れた。
少女が青年に駆け寄る。
「お兄ちゃん、お仕事は終わりましたか?」
「うん、待たせてごめんね、崩子ちゃん」
二人は揃って公園を出ていく。
青年が1つ、不思議そうに呟いた。
「それにしても、姫ちゃんはこんな町に何の用があるんだろうね」
まあ、後で聞けば良いか。
呑気にそう言って、彼は並盛町を去っていったのだった。