if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

翌日、病室からスクアーロが消えた。

「大変だロマ!スクアーロが!!」
「スクアーロなら今朝、熱下がったって言って出てったぜ?」
「なにっ!?」

……と、思ったのはディーノだけだった。
スクアーロは早朝起床して、自分の熱が下がったのを確かめるとすぐに、ロマーリオの元へと行った。
簡単に挨拶をして、礼を言って、竹寿司に寄ってから沢田家に行く、と言い残して出ていったのだ。

「なんで引き留めなかったんだよ!?」
「熱は確かに引いてたし……無理に引き留めるのも悪いだろう?大体ボスがバカなことしなけりゃ、もう少しは長居してたかもしれねーのによぉ」
「ゔぅっ!!で、でもオレにも教えてくれたって良かったじゃねーか!」
「だってボスが来ると、余計面倒くせぇ事になりそうだったからなぁ。アイツも、顔見たくなくてあんな早くに出てったんだろうし」
「うぐぅ……!」
「まあ安心しろよボス。好きと嫌いは紙一重さ。無関心じゃないだけ、望みはあるぜ?」
「ロマーリオ……お前、大人だな……」
「ボスよりゃ長く生きてっからな」

全力で落ち込むディーノをロマーリオが慰めているその時、スクアーロは綱吉の部屋で、重たいため息を吐き出していた。

「えーっと……大丈夫?本当はまだ熱あるんじゃないの?」
「人相もいつもより3割増しで悪いぞ」
「またリボーン余計なこと言って!」
「……気にしねぇよそんなこと。それに熱はもう下がったぁ」
「そ、それなら良いんだけど……」

確かに顔色はだいぶ良くなったようだが、リボーンの言う通りいつも以上の仏頂面をしているスクアーロを、綱吉は心配そうに見ていた。
今朝、丁度綱吉達が食事を終えた頃にスクアーロは現れた。
玄関ではなく綱吉の部屋の窓から現れたのは……、暗殺者らしいと言うかなんと言うか。
そして綱吉の部屋に入ったスクアーロは、開口一番にこう言った。
『澄百合学園のことを話に来た』と。

「で、澄百合学園と、お前が不機嫌なのは何か関係があるのか?」
「アリだ。大ありだぁ」
「え……どう関係があるんですか……?」

恐る恐る尋ねる綱吉に、スクアーロは視線を向ける。
スクアーロとしてはただ見ただけ、だったのだが、余りの人相の悪さに綱吉は睨み付けられたと思ったらしい。
ヒッ!?と情けない悲鳴を上げる綱吉に、スクアーロは少しだけ表情を和らげた。

「そんなに恐いかぁ?」
「え!?いや……その、普通に話してるとそんなでもないけど……たまに恐いかなぁ~なんて……」
「……目付きが悪いんだ、生まれつき」
「ツナはビビりなだけだから気にしなくて良いんだぞ。それで、澄百合学園がどうしたんだ?」
「……お゙う、澄百合の事については、上の奴らにも報告していてなぁ。そして今朝、起きたらオレの携帯に9代目からの指示が入っていた」
「なんて、書いてあったの?」
「……守れ、だと」
「え?」
「沢田ぁ。テメーの身の安全を、この!オレが!四六時中側に引っ付いて守れって指令が書いてあったんだぁ!」
「なぁぁあっ!?」

自棄になって叫ぶスクアーロの言葉に、綱吉も顔を真っ青にして叫ぶ。
9代目何考えてんのー!?継承式の事も含めて何考えてんのーっ!?という具合に、まるでムンクの『叫び』のような顔で悶える綱吉を蹴り飛ばしたリボーンは、いつもの4割増しに凶悪な顔面になっているスクアーロに、更に詳しい話を聞く。

「つまり、今日からスクアーロがこっちに滞在して、ツナの事を護衛するってことだな?」
「……チッ!そう言うことだぁ。あのジジイ頭イカれてんじゃねぇのかぁ?」
「今回ばかりはスクアーロに同意するんだけど。9代目何考えてんの!?この間までオレ達敵同士だったんだよ!?それを守れとか鬼畜?鬼畜なの!?」
「9代目には9代目なりの考えがあるんだろうな。まあオレは、あくまでカテキョーだから、ツナの護衛は出来ねぇ。お前に協力してもらえると助かるぞ」
「……カスが。守りきれなくても文句は聞かねぇぞぉ」
「構わねーぞ」
「構うよ!……でも、スクアーロでも守りきれないかもしれないくらい強いの?その澄百合学園っていう奴ら……」
「澄百合は基本財力の世界の連中だが……ああ、そう言えば、裏世界の説明は暴力の世界の説明だけしかしていなかったなぁ」
「え!?まだ他にもあるの!?」

驚く綱吉に、スクアーロは神妙な顔で頷く。
リボーンも裏世界にある3つの世界を知っているらしく、スクアーロの言葉を引き継いで説明をし始めた。

「オレ達のいるこの世界は『表世界』と呼ばれている。平和で戦争な世界、残念ながら、マフィアも人類最強もこの世界に属している」
「嘘ぉ!?」
「そして裏世界には、3つの区分けがなされているんだぁ。前にも説明した『暴力の世界』。それ以外の2つが、『財力の世界』と『政治力の世界』だぁ」
「そ、そんなにたくさん……!?」

そう、世界とはそれを知るものの前にはヒトツじゃないのだ。
まあこの際、某魔女の有名な台詞は端に置いておくとして、スクアーロは『財力の世界』について話始める。

「この『表世界』にもっとも近い『財力の世界』、ここに属しているのが『澄百合学園』だぁ」
「じ、じゃあ『暴力の世界』よりは怖くない……んだよね?」

ほっとしかけた綱吉の頭を、いつも通りリボーンの攻撃が襲う。

「いでぇ!!」
「バカツナめ。『財力の世界』でも、相手は傭兵機関だぞ。ヴァリアー相手にするときとおんなじ位、警戒しなけりゃダメだ」
「いや、オレ達の時よりも更に警戒しろぉ。オレ達はあの時、テメーらと正々堂々の勝負をするために、セコい手は使わなかった。だが今回は別だぁ。敵どもはただ、てめぇを殺すために動いている。人質、脅迫、闇討ち、毒殺、どんなセコい手でも使って殺そうとしてくるだろう」
「そ、そんなぁ!!」

今回の敵はヴァリアーと違い、正々堂々とは来ないし、ミルフィオーレと違い、綱吉達の準備は圧倒的に不足している。
改めて状況を整理すると、本当に頭を抱えたくなって、スクアーロは再び重たいため息を吐く。
今度はそれに綱吉のため息も重なった。

「オレ、14歳で死ぬのかな……」
「……そうならないために、出来るだけ手は尽くしてやる」
「ス、スクアーロ……!」
「一番楽なのは、ジジイがテメーに跡を継がせることを諦めて、ザンザスに席を譲る事だがなぁ」
「ま、まだ諦めてなかったんだ……」

当たり前だ。
XANXUSの為ならば、何事にも躊躇わないスクアーロである。
血縁関係がなかろうと、綱吉が継がなければ、XANXUS以外にボンゴレを継げる人がいないのも確かであるし、XANXUSが継いだらそれこそ、逆らおうと思う人間なんてなかなかいないだろうから、スクアーロの言うことには一理ある。
しかしXANXUSが継ぐのはなぁ、と微妙な顔をする綱吉の気持ちも最もである。
人を人とも思わぬ所業。
なんでスクアーロはあんな人の下に付いてるんだろう。

「えーっと……で、話逸れちゃったけど、その『財力の世界』ってどんな世界なの?」
「オレも詳しくは知らねぇが、四神一鏡っつう5つの家から成り立っている。」
「オレも聞いたことがあるぞ。確か……赤神、謂神、氏神、絵鏡、檻神……だったか?」
「あ゙あ。そんでそいつらが神理楽(ルール)とかいう組織作ってるんだぁ。その神理楽の下部組織が澄百合学園らしいんだが、澄百合は基本、四神一鏡や神理楽の専属傭兵機関だと聞いている」
「……ん?じゃあなんで今回はマフィアの依頼なんて受けたの?表世界の人の依頼も受けるの?」
「いや、普通はねぇ。オレは、もしかするとそのマフィアの中に、四神一鏡か神理楽の関係者がいるんじゃねぇのかと思っている」
「まあ、妥当な考えだな」

リボーンとスクアーロが頷き合う。
よく分からないながらも、綱吉もそれに合わせて頷いてみる。
二人の、『お前わかってねーだろ』という視線に晒されて咳払いをしながら、綱吉はとにかく、と話を纏めた。

「スクアーロ、よろしくね!オレも……出来る事は少ないと思うけど、出来る限り自分の身は守れるように頑張る!」
「心意気だけは結構だなぁ。ゔお゙ぉい、リボーン。テメー家庭教師だって言うなら、このガキの事しっかり教育しておけぇ。オレだって、仕事はこいつの護衛だけじゃねぇんだぁ」
「わかってるぞ。ツナ、今日から遅れた分の勉強と、暗殺から身を守る方法をねっちょりぐっちょり勉強するぞ」
「ねちょぐちょヤダーー!!!!!」

スクアーロは本日3度目のため息を吐く。
こんな間抜けそうなガキんちょを守らなければならないだなんて面倒くさい。
何より、長くヴァリアーを空けて、その上沢田綱吉の護衛なんて真似までして、後でXANXUSに何と言われるか……と言うより何を投げられるのかを考えると憂鬱な気分になる。
窓から部屋を出て、スクアーロは護衛の準備と、ヴァリアーの仕事を整理するために仮の住まいへと向かったのであった。
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