if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「ディーノさん……」
「ボス……」
「「最低……」」
「ゔっ!」

その後、ベッドにスクアーロを横たわらせ安静にさせてから、ディーノから話を聞いた綱吉とロマーリオは冷めた瞳で彼を見下ろしていた。
一人、リボーンがやれやれとばかりに首を振って『へなちょこめ……』と言っている。

「見損ないましたよディーノさん!!」
「そうだぜボス。いくら何でも、心身ともにボロボロの相手と掴み合いの喧嘩した上、無理矢理キスしようとするなんて酷すぎる。お陰でまた、熱出して寝込むはめになってるしよぉ」
「で、でも……」
「でもじゃありません!!」
「ツナまで……!」

腫れた頬を押さえて、正座で叱られているディーノは、彼なりの言い訳をしていた。

「オレだって、初めはそんなつもりなかったんだぜ!?ただ近くでスクアーロの事見たり、さっきの事恥ずかしかったんだって知っちゃったり……何でかわかんねーけど怖がって震えてるの見てたらさ、何か……クるものがあるだろ!?」
「怖がる女に無理矢理しようとしたのか!?」
「い、いや……そうじゃない……くもないけど、オレ別に元からマウストゥーマウスする気はなかったし……!」
「こんなこと言ってますけど、実際のところどうなんでしょーね、ロマーリオさん」
「ボスは今までそんなに遊びが激しくなかったからな……。その分ここで、って言う可能性も……」
「ないぞ!?」

白けた視線を送る綱吉は本気で引いてる様子だが、ロマーリオは半分以上ディーノをからかう気の冗談のようだ。
クックッと喉で笑いながら、ロマーリオは続けた。

「まあ、今のは冗談として、間違ったならやり直しゃ良いのさ。後でちゃんと謝れよなボス?」
「あ、当たり前だ!オレだって……流石にやり過ぎたとは思ってるし、しっかり謝る!そんで今度こそは、しっかり話を聞かせてもらう……!」
「話……って何の話ですか?」
「山本についてに決まってるだろ?ツナにもバッチリ聞くからな!」
「あ゙っ……!」

そう、綱吉達はここに、スクアーロから人類最強や山本について聞くために来たのだし、ディーノ達は山本やスクアーロに何があったのかを聞くために綱吉を訪ねたのだ。
すっかり忘れていたらしい綱吉は、顔を引き攣らせてリボーンを見る。
リボーンもこの事については、珍しく慎重になっているらしく、暫く考えてから言葉を吐き出した。

「もうディーノ達は哀川潤と遭遇してるしな、隠したところで余計に面倒事を招くだけだぞ」
「じゃあ……話す、のか?」
「……オレから話す」
「えっ……スクアーロ!!」

綱吉の声に応えたのは、彼らの背後に寝ていたはずの、スクアーロだった。
ゆっくりと身を起こそうとしている彼女に慌てて駆け寄り、その背中を支えながら、綱吉は心配そうに聞く。

「大丈夫なのっ!?」
「……話すくらいなら、なぁ」
「あ……それだけじゃなくて……その、ディーノさんとは……?」
「……」

少し赤らんだ顔で、スクアーロはディーノの事を見上げる。
今度は、怖がる様子はおくびも出さずに苛立たしげに舌打ちをした。

「どうでも良い」
「は……」
「今、しなければならないことは、他にあるだろぉ」
「で、でもスクアーロ……オレは」
「……謝る気、なんだろうが、必要はない。リボーン、テメーが話すと判断したなら、オレは話す。これ以上隠して、嗅ぎ回られても困るからなぁ」
「……そうだな。じゃああの後何があったのかも、全部話してもらうぞ」
「ああ……」

そしてスクアーロは話始めた。
だがその最中、ディーノと目を合わせることは1度もなかった。


 * * *


「……山本が……殺人鬼だと!?」
「ディーノさん、信じられないと……思います……。でも、これは山本も自分で認めてた事なんです」
「何より、零崎が抵抗なく受け入れたのなら、もう間違いねーだろうな。山本は理由なく人を殺す、殺人鬼・零崎一賊になった。……そうだな?スクアーロ」
「間違いない。零崎としての名前もつけられていた。山本武の零崎名は、『零崎威識』。いずれは、裏世界のプロのプレイヤーとなるだろう」
「そんな……」
「それから、実は日本に来る前に、1つ情報が入っていた」
「なに?」
「……沢田ぁ、テメーの命を狙っている組織の情報だぁ」
「ええっ!?オレのー!?」

敢えて、なのだろうか。
それとも偶然だったのだろうか。
スクアーロはディーノの言葉を遮るようにして、淡々と話した。

「ボンゴレと因縁のあるマフィアが、面倒な組織に依頼したらしい。そのマフィアも組織も、日本にいるんだが……それ以上の情報は不明。そもそもお前を狙ってるっつぅ情報も、本当かどうかわからねぇ。オレはそれを知らせるためっつぅ理由もあって、こっちに来たんだが、知らせる前に、余計面倒な事になっちまったからなぁ」
「だがなぜ今、その話をした?」
「……その面倒な組織ってのが、裏世界に属しているらしい」
「ま、また裏世界ーっ!?」

綱吉の悲鳴のような叫びが響く。
それが不快だったのか、僅かに眉間にシワを寄せたスクアーロは、リボーンに向かって、その組織の詳細を語る。

「敵は沢田達と同年代。だが幼少より訓練を積んできたプロだぁ。そして奴らが襲ってくるのは恐らく、3日後から1週間の間」
「なんでそうだとわかるんだ?」
「……これを」
「?何これ?」

リボーンの問い掛けに、スクアーロは1枚の封筒を手渡した。
綱吉が受け取り、封を開け、中から手紙を取り出すと、手紙の上部に炎が燃え上がる。
死炎印、9代目からの物だった。

「これは……何?」
「継承式開催の通告。式への招待状は3日後に送られ、式はそれから1週間後に執り行われる」
「え、継承式?」
「って言うと……ツナの10代目継承の式典ってことか!?」
「手紙にはそう書いてあるぞ」
「嘘でしょー!」
「まあ、それは置いといて」
「置いとかないでよ!?オレ10代目にはならないって言ってるじゃないかリボーン!!」
「黙れダメツナ。それより、その組織が、ツナの継承式の準備期間に襲ってくる可能性があるってことだな?で、その組織の名前は?」
「組織の名前は、『澄百合学園』」
「え……学園?」
「学園とは名ばかりの、傭兵育成機関だぁ。……後で、詳しい事を纏めて報告する」
「そうか、助かるぞ」

最後に、敵の名前を告げたスクアーロは、疲れたようにうつ向くと、ロマーリオに向けて言った。

「……ロマーリオ、少し、寝かせてくれ」
「え?ああ、それは構わないが……」
「スクアーロ、少しだけで良いんだ。オレに話を……」
「疲れてるんだぁ。……後にしてくれ」
「あ……」

ディーノに背を向けるように、ベッドに寝そべり、布団を頭まで被ったスクアーロは、何秒も経たない内に寝息をたて始める。

「……完全に嫌われたんじゃねーのか?」

気まずい空気が、病室に立ち込めていた。
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