「い……て……」

音が弾けて、急激に視界が変化する。
痺れて熱くなってきた頬を手で押さえながら、ディーノは呆然とスクアーロを見下ろした。

「っ……あ……ごめ……」

ディーノの頬をひっぱたいた。
それはあくまで正当防衛だろうし、謝るべきはディーノの方、なのだが……。
スクアーロは思わずという様子で謝る。
その顔は、何かに怯えているようにも見えた。
慌てて逃げるように、スクアーロはディーノの下から抜け出して、ベッドを降りる。

「す、スクアーロ!?」
「悪い……帰る」
「帰るってどこにだよ!?」
「どこでも良いだろ……！」

ベッド脇に置いてあった自分の荷物を抱えて、部屋を出ていこうとするスクアーロに、ディーノは尚も追い縋る。
しかしその手も振り払って、スクアーロは足早に部屋を出た。

「スクアーロ!!」
「来るな……！」
「え……」

肩を掴んだ手も振り払われた。
来るなと叫んだ掠れ声が、震えて、怯えていることが伝わってきて、たまたま合った目は、ディーノから意識的に逸らされた。

「スクアーロ？スクアーロ！ごめん！なあ、話聞いてくれって！本当にごめん！オレ思わず……！」
「っ……うるさい」
「待って……ぁ!?」

スクアーロに押し退けられて、体勢を崩したディーノが転ぶと同時に、部屋のドアが閉められた。
呆然とドアを見上げて、ああ、と嘆息する。
やってしまった……。
ディーノは顔を手で覆って、ため息を吐いた。


　＊　＊　＊


「えーっ!?さっきの女の人が人類最強って奴なの!?」
「そうだぞ」
「そんな大層な奴が来てたって言うなら、この惨状も分からなくはねーな」

キャバッローネのアジトはメチャクチャだった。
まさに死屍累々。
幸い死人は出ていないが、暫くの間、キャバッローネは機能を停止せざるを得ないだろう。

「しかし哀川潤とコネクションを持ってるとは、アイツもなかなかやるな」
「コネ……て言うか、襲われてたけど。あれ本当になんだったのかな……」
「……何があったんだ？オレが来たときにはもう、全部終わってたし……ボスも何故か怒ってたし」
「ああ……まあ、あれは……アハハ……」

綱吉は笑ってごまかす。
あれを口で説明するのは些か恥ずかしい。
特に多感な中学生は余計に嫌がるだろう。
リボーンも特に説明する気はないらしく、ロマーリオはただ首を傾げる事しか出来なかったわけである。

「まあでも、倒された方々の介抱も終わりましたし！早く戻ってスクアーロに詳しい話聞いてみましょう！」
「それもそうだな」
「ボスの機嫌も直ってると良いんだがなぁ。……っと？アイツ何してんだ？」
「え？……スクアーロ？」

３人が病室に足を向けてすぐだった。
騒がしい音を立ててドアが開閉し、そこからスクアーロが一人で出てきた。
３人に気付いていないようで、何の反応も示さずに、ふらふらと反対方向に歩いていく。
その様子を不審に感じた綱吉が駆け寄り、肩に手を掛けた瞬間、彼女の体が崩れ落ちた。

「ちょっ……スクアーロ!?大丈夫……って、スゴい熱!!」
「また熱がぶり返したのか!!でも何で出歩いて……ボスは何してんだ？」
「とりあえず中に運ぶぞ。息が荒いし、熱も高い。意識も朦朧としてる。このままじゃ苦しいだけだからな」
「あ、うん！」

倒れたスクアーロを抱きかかえた綱吉から、ロマーリオが彼女を受け取り、部屋に入る。
ドアを開けた瞬間、ドアノブに手を掛ける姿勢のまま固まっているディーノと鉢合った。

「あ、ディーノさん！スクアーロどうしたんですか!?いきなり出てきたと思ったら倒れて……」
「えﾞ、いや……それは……」

口ごもるディーノに首を傾げながら、とにかくまずは病人の介抱が優先だと、四人は慌ただしく動き始めた。