if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「で、何なんだ」
「だっ、だから、その……アイツは哀川潤っつって……オレの知り合いみたいな……」
「知り合いがあんな風にキスするのか?」
「それは……アイツがちょっとおかしいだけでだなぁ……」
「そんな言い訳通ると思うのか?」
「でも……」
「でも、……なに?」
「……オレだって、好きであんなこと……してた訳じゃ……」
「好きじゃないのにあんなことするんだ?」
「そうじゃねーよ!!」

さて、哀川潤の帰った後の事である。
ディーノは苛立ちを隠そうともせず、スクアーロに尋問……もとい、質問をしていた。
綱吉とリボーン、ロマーリオは、哀川潤に倒されたキャバッローネの組員達の介抱をするために席を外している……と言うのは建前で、ディーノの不機嫌オーラに堪えかねて出ていったと言うのが本音である。
彼らが部屋を出るときのスクアーロは、まるで市場に売られていく子牛のような切ない目をしていたが、綱吉達も自分の身が可愛いわけで、敢えなくディーノの前に一人取り残され、この状況となったわけである。

「だいたい、何でお前にそんな事つべこべ言われなけりゃならねぇんだぁ!?」
「それはっ!そうかもしんねぇけど……、でも常識的にそう言うのってどうかと思うぞ!?」
「だから常識的じゃねぇのはオレじゃなくてあの女で……!」
「なら抵抗するなり何なりすれば良かっただろ!?」
「抵抗くらいオレもしてた!それが通じる相手じゃなかったんだよ!!」

散々言われて、スクアーロも限界だったのだろう。
お互いに激しく言い合い、ヒートアップした二人は、それぞれ胸ぐらを掴んで睨み合う。
そしてそのままバランスを崩し、縺れ合うようにしてベッドに倒れ込む。
直後スクアーロの拳がディーノの腹筋にめり込み、次にはディーノの頭突きがスクアーロの頭に炸裂した。

「でっ!?このバカ!バカアーロ!」
「いだ!!お前こそバカだバカァ!へなちょこのバカ馬ディーノ!!」
「こっちは心配して助けにまで来て、熱出て寝込んでるから安静にさせなきゃとか思ってたのに、帰ってきたら知らない女とイチャついててさぁ!こっちの気持ちも考えろよバーカ!」
「お前がどーとか知らねぇよ!オレ、だって……!潤が何であんなことし始めたのか、ワケわかんなかったし、スゴく嫌で恥ずかしくて、なのに突然お前に責められて!もう嫌だ!何なんだよお前はぁ!バカ!バーカ!」

二人のやり取りは最早、言葉と物理の殴り合いだった。
引っ掻いたり蹴ったりと低レベルな喧嘩の最中に、ディーノが手を振り上げて彼女の頭のすぐ横に拳を降り下ろす。

「ひっ……!?」
「だからっ!スクアーロはもうちょっと人付き合いを考えて……って、スクアーロ?どうかしたのか?」
「っ……な、んでも、ない」

どふ、と間の抜けた音を立てて枕に落ちた拳が、自分に当たると思ったのか、スクアーロは自分の両腕を顔の前でクロスさせていた。
そのまま何も言い返さない彼女を不自然に思い、ディーノがその手首を掴んで退けようとする。
だが腕は固くなって動かず、顔を隠すように更に堅く閉じられていく。

「なんでもなくないよな?スクアーロ、自分で気付いてんのか知らねーけど、腕、震えてるぞ」
「そ、そんな事……」
「さっき、泣いたときみたいだ。何か怖かったのか?何で今、震えてるんだ?」
「……」
「また、何も言わないのか」
「ご、ごめん、なさい……」

腕も、口も、瞼も、スクアーロは堅く閉じて動かない。
まるでディーノの存在を拒絶しているような様子。
哀しいような、悔しいような、複雑な気持ちを抱きながら、ディーノは枕に落とした拳を開いて、もう片手と一緒に素早く動かす。

「……ひゃわぁ!?」
「……」
「は、跳ね馬……何をっ、あで!?」
「ふっふっふ、やっと腕退けたな」

スクアーロに防がれない内に脇腹を擽り、驚いて腕を退かした彼女の額に素早くデコピンをかましたディーノは、勝ち誇った笑みを浮かべた後、きゅっと顔を引き締めて彼女を見下ろす。

「スクアーロはさ、何でそんな頑固なんですか」
「は……はあ?」
「オレも、ヴァリアーの連中も、ツナ達だっているのにさ、なんで誰も頼ろうとしないんだよ?一人で全部やるのは、まあ、カッコいいけどさ。一人ぼっちで何でも出来るはずねーじゃん。バカなのか?スクアーロはバカなのか?」
「ゔっ、うるせぇな!!つーか、百歩譲ってヴァリアーの奴らに頼るのは良いとして!なんでお前らに頼らなきゃならねぇんだよ!!」
「……そりゃ、」

半ば自棄っぱちに叫ばれ、ディーノは少し考え込み、もう一度スクアーロをしっかりと見詰める。

「……未来ではさ、オレはお前が好きで、ずっとずっと、お前の事を心配してた」
「今とは関係ない話だろ」
「そうだな、今と未来は別だ。それに今のオレは、きっとまだ、お前に恋はしていない」
「……そうかよ」
「拗ねるなよ?」
「拗ねてねぇ!」
「いや、でもさ、たぶんオレは、今のお前の事も、少し特別に思ってる。だから、心配するし叱るし、頼って欲しいって思ってる。あと目の前でキスとかされてたら、同性同士でも嫌な気分になる」
「そ、それは……」
「よく考えれば何様だって話だけどさ。気になるんだからしょうがないだろ」

ディーノは頬を膨らませて、怒ったような調子で言う。
スクアーロもスクアーロで、彼の言葉に動揺しているのか、しきりに瞬きをして、目を泳がせる。

「き、気になるって……どう、いう……?」
「別に、言葉以上の意味ねーよ。……でも、ここでそれ以上の気持ちになってみても、良いかもな?」
「は……?」
「だからさ、お前がオレを頼りたくなるような、特別な関係になってみないかっての」
「え……ちょ、ちょっ!待て……!!」
「やだね」

スクアーロの顎を捉えて、固定した。
今度こそ怖がって震えていることがわかる。
ディーノはスクアーロの目を手のひらで覆い、唇を近付けた。
自分の腕が痛いほど強く掴まれている。
途中で止めようと思っていたのに、その反応が可愛らしくて、止まらなくなる。
更に顔を寄せようと動いたとき、ディーノの鼓膜を鋭い破裂音が貫いた。
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