if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「んんー!んむー!!」

スクアーロは暴れた。
それはもう、暴れに暴れた。
だがあの哀川潤に、スクアーロの攻撃など通用するはずがない。
スクアーロだってそれくらい良くわかっている。
だがそれでも抵抗するのは、『人前でキスをされる』という状況がそれだけ屈辱であったからだろう。
哀川潤もその事に気が付いていないわけではないが、スクアーロの必死の抵抗は彼女の加虐心を煽るだけの結果に終わっていた。
一旦、哀川潤は唇を離す。

「ぷはっ……!な、何しやがる!?」
「奪っちゃった♡」
「何だよそれはぁ!!……って!いい加減退けよっ……ひゃわ!?」
「うわははは、相変わらず可愛い反応してくれるじゃねーの。」
「やめろ本当に!ひぁあ!?」

スクアーロの上に馬乗りになりながら、彼女の身体に好き勝手に手を這わせて、哀川潤はご満悦の様子だ。
しかしスクアーロが蹂躙されていくのを、黙って見ていられない者がいる。
横から伸びてきた手が哀川潤の腕を掴み、力尽くで引き剥がす。

「何してやがるテメー……!」
「は、跳ね馬……!」
「わはは……やっとお出ましだな」

ディーノは哀川潤を投げ飛ばし、彼女とスクアーロの間に立つと、ドスの利いた低い声で言いながら睨み付ける。
その睨みを受けた哀川潤は、いつも通りのシニカルな笑みを浮かべたまま、ファインティングポーズを取った。
当然、人類最強とまで呼ばれる彼女に、例えマフィアのボスと言えどディーノが敵うわけがない。
ムチを構えて立ち向かおうとするディーノに、顔色を変えたのはスクアーロだった。

「ま……待て!」
「止めるなってスクたん。別に殺しはしないしな」
「何者だか知らねぇが、スクアーロやうちの連中に好き勝手しておいて、ただで帰すわけにはいかねぇよ」
「あん?……ああ、そういや何人か倒したかもな。しかし帰してくれないってーなら、ここはもう押し通るしかないよな?だよな?」
「っ……潤、いい加減に……、ぁ!?」

慌てて止めようとしたスクアーロだったが、二人の間には余計に緊張が張り詰めていく。
もう一度止めようとしたスクアーロの口を、突然、手が塞ぐ。
遠くにディーノが慌てて振り返る姿を見ながら、スクアーロはあっという間に自分の眼前に来ていた哀川潤を見上げた。

「押し通るっつったけど、スクたんが嫌ならやっぱやめるわ」
「それなら、初めにいい加減にしろっつったときにやめろよ……」
「うはは。……そんでな、あたしはベタベタ王道展開が好きなんだよな。少女漫画はあんま好きじゃねーけど、やっぱ恋愛ものなら結婚エンドがベターだろ?」
「は?何の話を……」

哀川潤はとにかく突然で、唐突だ。
何の前触れもなく話を転換させた彼女は、スクアーロの耳元に顔を近付けると、声を潜めて言う。

「未来の記憶とか言うのか?あれ、あたしも少し知っててな」
「っ!?」
「アイツの事、ちょっとは意識してんだろ?向こうだって満更でもなさそうだし」
「そ、そんな事……!」
「ま、それも含めて、しっかり考えて動くんだな……。未来ってのは、存外簡単に変わっちまうんだぜ?」
「……え?」
「んじゃあ、また会おうなスークたん♡」

最後に、スクアーロの頬にキスを送り、そして哀川潤は去っていった。
綱吉を押し退けて堂々とドアから。
後に残された者達は、ただ茫然と彼女の出ていったドアを見詰めるばかりで、彼らが我を取り戻したのは、遅れてきたロマーリオがそのドアから入ってきた時だった。
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