if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯
「全身赤の女……まさかそんな大物……いや、レア物が絡んで来るとはな……」
「え?リボーンその人の事、知ってるの!?」
「そいつ、何者だ?」
ディーノの話を聞いて、珍しく渋面を露にしたリボーンに、二人の疑問が向けられる。
躊躇うような少しの間の後、リボーンは仕方なし、と言うように話し出す。
「……恐らくだが、ソイツの名前は哀川、哀川潤だ。通称は、『人類最強』だぞ」
「人類、最強……?」
「大層な名前の持ち主だな……」
「チープな名称にも聞こえるかもしれねーが、その名に負けない実力の持ち主だと聞いている」
会ったことはねーがな、と言ったリボーンに向けられる二人の視線は疑わしげだ。
『人類最強』なんて安っぽい二つ名、胡散臭く思わない者はいないだろう。
だが『最強の殺し屋』と呼ばれているこの赤ん坊に、最強と言わせる位なのだ。
それだけの実力はある、という台詞には、納得せざるを得ないのかもしれない。
「オレも、恐らくは山本も、ソイツとのコネは持ってないからな。恐らくはスクアーロと何かしら関係があるんだろうな」
「スクアーロと?」
「ディーノ、お前何か聞いてないのか?」
「いや……そんな余裕なくってな。今から病院行っても良いけど、まだ寝てると思うし、聞くとしたら明日以降になるんじゃないか?」
「仕方ねーな。今から行って叩き起こすぞ」
「お前鬼畜かよリボーン!!」
「鬼畜だぞ?」
「うわー、そっか、鬼畜だコイツ」
ディーノと綱吉の二人が必死に止めようとするも意味はなく、結局は全員で病院に向かうことになったのであった。
* * *
「ん……ぅん?」
真っ白のベッドの上で、スクアーロは再び目を覚ました。
一度、ディーノが傍にいたときに目を覚ましたのだが、体の怠さに耐えられず、そのまま眠りに落ちていたのだ。
スクアーロの目を覚ましたのは、枕元で鳴っている彼女の携帯電話で、大きな欠伸をしながらそれに手を伸ばした。
「ん゙ん……、山本、から……?」
呻きながら寝惚け眼でケータイを覗いた彼女は、不思議そうに差出人の名前を呟く。
どうやら山本からのメールが来ていたらしく、その文面を読んだスクアーロは、気まずそうな顔で返信のボタンを押す。
「なんで、わかったんだぁ……」
メールには、スクアーロの身を案じる言葉が並んでいた。
零崎双識に『殺気に当てられて少し精神的に参っているかもしれない』と言われて気になったらしい。
なんと、見事に当たっている。
最悪だ。
「はぁ……だる……」
ベッドに体を沈めて、問題ない、と簡潔に文章を書き、ついでに相手の様子を聞く。
答えが返ってくるかはわからないが、聞くだけならば、自由だろうし。
送信ボタンを押し、枕に頭を沈め、そこで初めてスクアーロは辺りを見回した。
そう言えば、ディーノの前でぶっ倒れて……その後病院に担ぎ込まれたのだったか。
周りを見て、自分の置かれている状況を飲み込み、またため息を吐く。
何故だろうか、跳ね馬ディーノには、自分の格好悪いところばかりを、見られているような気がする。
「……ここ、誰もいない……訳じゃねぇよなぁ」
風が動いている。
きちんと手入れされた病室の様子を鑑みるに、常に数人がここにいて、管理をしているのではないだろうか。
……そして、遠くから、なにがしかの気配を感じた。
恐らくは、零崎双識の言う通り、彼らの殺気に当てられて、スクアーロは感覚が必要以上に鋭敏になっているらしかった。
誰かの気配を感じる。
だがそれは、風の動きや、匂いや、小さな音を感じるだけで、その詳しいところがよくわからない。
人が多くいるせいか、一人一人に感覚を絞る事が出来なかった。
「……ん?」
いや、そうじゃない。
1つの大きな気配に、その他の気配が掻き消されているのだ。
堂々としていて、そこにいることは自然の摂理だと言わんばかりの図々しい気配。
こんな気配の持ち主を、スクアーロは一人しかしらない。
「……潤?」
「うん?なんだよ、驚かせようと思ってたのにさ」
「なんでここにいるんだお前……」
現れたのはスクアーロの予測通り、全身真っ赤なコーディネートの女性、人類最強の請負人、哀川潤で、ちょっと拍子抜けした様子でドアから顔を出した彼女に、呆れたようにスクアーロはため息を吐いた。
「キャバッローネの奴ら、いただろぉ?どうしたんだぁ?」
「ん?そいつらならさっきちゃちゃっと片付けて来たぜ?」
「いやいや、片付けてくるなよ。つぅかそれ説明するのオレなんだが……」
「そんなことより、風邪だって?調子はどーよスクたん」
結構大事なことだと思うのだが、哀川潤にとっては些事らしい。
そんなことより、という言葉で片付けられ、代わりにスクアーロの体調を聞く。
どこから聞き付けてきたのか、など、今さら聞くのも面倒になり、彼女は疲れたようにその問いに答えた。
「……すこぶる悪いぜぇ」
「確かに顔色は悪いな」
近寄ってきた哀川潤がスクアーロの顎を掴んで、少し強引に上を向かせる。
コツっと額に額を当てて、熱を測る哀川に、スクアーロは控え目に声を掛けた。
「……あまり近付くと移るぞ」
「うん?風邪がか?あたしが風邪なんかひくわけないだろーが。……ま、スクたんのそうやって心配してくれるところ、好きだけどな」
「……冗談を、」
「あたしは嘘はつかねーんだぜ?」
上機嫌にスクアーロの頭を撫でた哀川だったが、今日は流石に彼女に無茶を強いる気はないらしく、そのまま何もせずに離れる。
つまりそれだけ、スクアーロの容態が悪い、とも言えるのだろうが。
「39度7分、確かに高熱だな。スクたんは平熱低いし、暫くはしっかり寝てた方が良い」
「……今日は珍しく真面目なんだなぁ?」
「なになにー?スクたんもしかしていつもみたいに、いやらし~く触られたい?」
「いや、それはねーな。……でも、いつもみたいに、元気に絡んで来てくれた方が、気は紛れる、かな」
なんで額をつけただけでそれだけ正確な温度がわかるのか、というツッコミをすることなく、消えてしまいそうな声でそう言ったスクアーロの顔は、力ない微笑みを浮かべていて、シーツを掴んでいる拳はよく見ると、小刻みに震えている。
今になって、零崎への恐怖が振り返して来ているのかもしれない。
哀川はシニカルに笑うと、しかし存外、冷たく言い放つ。
「あたしを頼りたいんなら、ちゃあーんとおねだりしてもらわなくちゃな?」
「……別に、そんなんじゃねぇよ」
「そんなに震えといてか?」
「……」
「まあ、スクたんには、あたし以外にもちゃんと頼れる人がいるんだから、そいつらの事を頼るんだな」
「……頼れる、人?」
「もうすぐ来るだろ?んじゃ、あたしは仕事あるからそろそろ帰るなー」
「お前……、本当に何しに来たんだぁ?」
「スクたんの様子見に来ただけだけど?」
「……そっか」
スクアーロは、哀川潤が部屋を出ていくのを待たずに、ベッドに寝そべって目を閉じる。
哀川潤のその言葉が聞けただけで、満足だと思っていた。
何だか、人類最強とまで言われる彼女が、とても近い存在に感じられたから。
……だが、哀川潤はそれでは満足していなかったらしい。
「……なーんて、このあたしが逢っただけで満足するわけないだろ?」
「え……?っん……!」
気配を一瞬断って、スクアーロのすぐ側まで忍び寄った哀川潤は、その白い腕を掴んで仰向けにし、次の瞬間、薄く開いたその唇に噛みついていた。
驚いて目を見開く彼女に気付いてはいたが、キスをやめてやる気はない。
例え、途中にドアが開いて、人が入ってきたとしても。
「おい!スクアーロ、無事か……っはあ!?」
「え、ええー!?」
「コイツ……哀川潤っ!?」
カオスなこの状況に、スクアーロが泣きたくなっていたということは、言うまでもない。
「え?リボーンその人の事、知ってるの!?」
「そいつ、何者だ?」
ディーノの話を聞いて、珍しく渋面を露にしたリボーンに、二人の疑問が向けられる。
躊躇うような少しの間の後、リボーンは仕方なし、と言うように話し出す。
「……恐らくだが、ソイツの名前は哀川、哀川潤だ。通称は、『人類最強』だぞ」
「人類、最強……?」
「大層な名前の持ち主だな……」
「チープな名称にも聞こえるかもしれねーが、その名に負けない実力の持ち主だと聞いている」
会ったことはねーがな、と言ったリボーンに向けられる二人の視線は疑わしげだ。
『人類最強』なんて安っぽい二つ名、胡散臭く思わない者はいないだろう。
だが『最強の殺し屋』と呼ばれているこの赤ん坊に、最強と言わせる位なのだ。
それだけの実力はある、という台詞には、納得せざるを得ないのかもしれない。
「オレも、恐らくは山本も、ソイツとのコネは持ってないからな。恐らくはスクアーロと何かしら関係があるんだろうな」
「スクアーロと?」
「ディーノ、お前何か聞いてないのか?」
「いや……そんな余裕なくってな。今から病院行っても良いけど、まだ寝てると思うし、聞くとしたら明日以降になるんじゃないか?」
「仕方ねーな。今から行って叩き起こすぞ」
「お前鬼畜かよリボーン!!」
「鬼畜だぞ?」
「うわー、そっか、鬼畜だコイツ」
ディーノと綱吉の二人が必死に止めようとするも意味はなく、結局は全員で病院に向かうことになったのであった。
* * *
「ん……ぅん?」
真っ白のベッドの上で、スクアーロは再び目を覚ました。
一度、ディーノが傍にいたときに目を覚ましたのだが、体の怠さに耐えられず、そのまま眠りに落ちていたのだ。
スクアーロの目を覚ましたのは、枕元で鳴っている彼女の携帯電話で、大きな欠伸をしながらそれに手を伸ばした。
「ん゙ん……、山本、から……?」
呻きながら寝惚け眼でケータイを覗いた彼女は、不思議そうに差出人の名前を呟く。
どうやら山本からのメールが来ていたらしく、その文面を読んだスクアーロは、気まずそうな顔で返信のボタンを押す。
「なんで、わかったんだぁ……」
メールには、スクアーロの身を案じる言葉が並んでいた。
零崎双識に『殺気に当てられて少し精神的に参っているかもしれない』と言われて気になったらしい。
なんと、見事に当たっている。
最悪だ。
「はぁ……だる……」
ベッドに体を沈めて、問題ない、と簡潔に文章を書き、ついでに相手の様子を聞く。
答えが返ってくるかはわからないが、聞くだけならば、自由だろうし。
送信ボタンを押し、枕に頭を沈め、そこで初めてスクアーロは辺りを見回した。
そう言えば、ディーノの前でぶっ倒れて……その後病院に担ぎ込まれたのだったか。
周りを見て、自分の置かれている状況を飲み込み、またため息を吐く。
何故だろうか、跳ね馬ディーノには、自分の格好悪いところばかりを、見られているような気がする。
「……ここ、誰もいない……訳じゃねぇよなぁ」
風が動いている。
きちんと手入れされた病室の様子を鑑みるに、常に数人がここにいて、管理をしているのではないだろうか。
……そして、遠くから、なにがしかの気配を感じた。
恐らくは、零崎双識の言う通り、彼らの殺気に当てられて、スクアーロは感覚が必要以上に鋭敏になっているらしかった。
誰かの気配を感じる。
だがそれは、風の動きや、匂いや、小さな音を感じるだけで、その詳しいところがよくわからない。
人が多くいるせいか、一人一人に感覚を絞る事が出来なかった。
「……ん?」
いや、そうじゃない。
1つの大きな気配に、その他の気配が掻き消されているのだ。
堂々としていて、そこにいることは自然の摂理だと言わんばかりの図々しい気配。
こんな気配の持ち主を、スクアーロは一人しかしらない。
「……潤?」
「うん?なんだよ、驚かせようと思ってたのにさ」
「なんでここにいるんだお前……」
現れたのはスクアーロの予測通り、全身真っ赤なコーディネートの女性、人類最強の請負人、哀川潤で、ちょっと拍子抜けした様子でドアから顔を出した彼女に、呆れたようにスクアーロはため息を吐いた。
「キャバッローネの奴ら、いただろぉ?どうしたんだぁ?」
「ん?そいつらならさっきちゃちゃっと片付けて来たぜ?」
「いやいや、片付けてくるなよ。つぅかそれ説明するのオレなんだが……」
「そんなことより、風邪だって?調子はどーよスクたん」
結構大事なことだと思うのだが、哀川潤にとっては些事らしい。
そんなことより、という言葉で片付けられ、代わりにスクアーロの体調を聞く。
どこから聞き付けてきたのか、など、今さら聞くのも面倒になり、彼女は疲れたようにその問いに答えた。
「……すこぶる悪いぜぇ」
「確かに顔色は悪いな」
近寄ってきた哀川潤がスクアーロの顎を掴んで、少し強引に上を向かせる。
コツっと額に額を当てて、熱を測る哀川に、スクアーロは控え目に声を掛けた。
「……あまり近付くと移るぞ」
「うん?風邪がか?あたしが風邪なんかひくわけないだろーが。……ま、スクたんのそうやって心配してくれるところ、好きだけどな」
「……冗談を、」
「あたしは嘘はつかねーんだぜ?」
上機嫌にスクアーロの頭を撫でた哀川だったが、今日は流石に彼女に無茶を強いる気はないらしく、そのまま何もせずに離れる。
つまりそれだけ、スクアーロの容態が悪い、とも言えるのだろうが。
「39度7分、確かに高熱だな。スクたんは平熱低いし、暫くはしっかり寝てた方が良い」
「……今日は珍しく真面目なんだなぁ?」
「なになにー?スクたんもしかしていつもみたいに、いやらし~く触られたい?」
「いや、それはねーな。……でも、いつもみたいに、元気に絡んで来てくれた方が、気は紛れる、かな」
なんで額をつけただけでそれだけ正確な温度がわかるのか、というツッコミをすることなく、消えてしまいそうな声でそう言ったスクアーロの顔は、力ない微笑みを浮かべていて、シーツを掴んでいる拳はよく見ると、小刻みに震えている。
今になって、零崎への恐怖が振り返して来ているのかもしれない。
哀川はシニカルに笑うと、しかし存外、冷たく言い放つ。
「あたしを頼りたいんなら、ちゃあーんとおねだりしてもらわなくちゃな?」
「……別に、そんなんじゃねぇよ」
「そんなに震えといてか?」
「……」
「まあ、スクたんには、あたし以外にもちゃんと頼れる人がいるんだから、そいつらの事を頼るんだな」
「……頼れる、人?」
「もうすぐ来るだろ?んじゃ、あたしは仕事あるからそろそろ帰るなー」
「お前……、本当に何しに来たんだぁ?」
「スクたんの様子見に来ただけだけど?」
「……そっか」
スクアーロは、哀川潤が部屋を出ていくのを待たずに、ベッドに寝そべって目を閉じる。
哀川潤のその言葉が聞けただけで、満足だと思っていた。
何だか、人類最強とまで言われる彼女が、とても近い存在に感じられたから。
……だが、哀川潤はそれでは満足していなかったらしい。
「……なーんて、このあたしが逢っただけで満足するわけないだろ?」
「え……?っん……!」
気配を一瞬断って、スクアーロのすぐ側まで忍び寄った哀川潤は、その白い腕を掴んで仰向けにし、次の瞬間、薄く開いたその唇に噛みついていた。
驚いて目を見開く彼女に気付いてはいたが、キスをやめてやる気はない。
例え、途中にドアが開いて、人が入ってきたとしても。
「おい!スクアーロ、無事か……っはあ!?」
「え、ええー!?」
「コイツ……哀川潤っ!?」
カオスなこの状況に、スクアーロが泣きたくなっていたということは、言うまでもない。