if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「39度……って、おい。めちゃくちゃ熱高ぇじゃねーか」
「疲れの上に、秋の終わりにこの薄着じゃあ、風邪も引くだろうよ」

並盛の病院にスクアーロを担ぎ込み、すぐにお抱えの医師に診せたところ、その診断結果は『疲労が原因の風邪』ということであった。
氷枕の上に頭を乗せてやり、赤くなった顔に手の甲を押し当てる。
だいぶ高い体温、荒い息遣い。
苦しげに眉間にシワを寄せた表情に、ディーノは心配そうにため息を吐いた。

「一体何してたんだろな」
「……調べるか?」
「いや、コイツが話さないのには意味があるはずだ。それに、コイツの他にも事情を聞きたい奴らもいるしな」
「ああ、リボーンさん達ならば、何か知っているだろうしな……」

スクアーロを起こさないよう、二人は声をひそめて話す。
リボーンは山本をボンゴレに勧誘した本人だし、綱吉は山本のボスだ。
彼らが事情を知らないとは思えない。
しかし聞いたところで、話してくれるものかどうか……。

「……よし、コイツが目ぇ覚ます前に、ツナ達んとこ行くぜ」
「ああ、準備してくる」

部屋を出たロマーリオとは逆に、ディーノはベッドの側に座ったまま、もう一度スクアーロの頬に手を当てる。

「……未来のお前も、今のお前も、無茶ばっかするんだな」
「……ん……」
「一人で、お前ばっかり傷付いてさ……。……せめて、未来の時みたく、オレの事も頼ったらどうなんだよ……」

熱い額に手を当てると、苦しそうな顔が少し和らぐ。
それを見て、微笑ましく思う。
自分の知らない、スクアーロの少し幼い一面。
可愛らしくもあり、まだ慣れないそれに、違和感も抱くけれど。
だが決してそれは、嫌なものではない。
ましてや、恥ずかしく思うようなものでなど、有り得ない。

「頼りがいねーかもしんねぇけど、オレはお前を、独りで頑張らせたくないよ……」

優しくスクアーロの手を握ったディーノの表情は哀しげで、そんな顔をしたまま、彼は名残惜しげに手を離して部屋を出る。
扉の閉まる音の後、部屋に小さな呟きが溢された。

「……なんでお前がそんな顔してんだよ」

寝返りを打って毛布を鼻の上まで被ったスクアーロは、直前までディーノが触れていた手を、その胸に当てて握り締めた。
すぐに、寝息が聞こえてくる。
部屋を、安らかな沈黙が包んでいた。


 * * *


自宅に帰った綱吉は、自分の家にディーノが訪れていることを、玄関に入るよりも前に理解した。
自宅前の道に黒服の連中がたむろしているのだもの、理解するなという方が難しい。
そして、彼が何をしに自分を訪れてきたのか、これもまた綱吉には既に予想がついていた。
リボーンに急かされて家に入り、顔を合わせた途端に投げ掛けられた言葉で、予想が的中した事を悟る。

「山本の事を聞きに来た」

ディーノの顔は真剣で、その表情からは、必死さや不安、心配している様子がありありと伝わってくる。
オレに、山本に関する事実を隠しきることは出来るだろうか。
綱吉の脳裏にそんな不安が過るが、そんなことにはお構いなしに、リボーンがディーノの言葉に答えた。

「ちゃおっス、ディーノ。山本は死んだって、連絡が行かなかったか?」
「その情報を聞いたからここに来たんだ。それに……」
「それに、なんだ?」
「……ここに来る前に、スクアーロに会って、保護した」
「え、保護……?」

綱吉がパッと顔を上げる。
保護、とは一体、どういう事なのか。

「山本の家の寿司屋でもらった紙切れに、とある町の名前が書いてあってな。その町に行ったら、スクアーロに突然襲い掛かられた」
「えっ!?」
「……!」
「混乱して、だいぶ消耗してたみたいでな、熱も出ていたから、今はウチの病院で保護している。……紙切れの情報、オレはリボーンからだと思ってたんだけど、その様子だと違うのか……?」
「オレはそんなもん知らねーぞ」
「それよりディーノさん!スクアーロ、平気なの!?」
「ああ、もう大丈夫だ。でも……、あの情報がリボーンからじゃねぇなら一体誰が……」

ディーノは、竹寿司でもらった紙切れをリボーンの差し金だと思っていた。
だから、リボーンの言う通りに動いてみようとしてあの町に行き、結果ここに訪れるのが遅れてしまったわけなのだが……。
リボーンは珍しく、機嫌の悪そうな表情でディーノに問い質した。

「ディーノ、まずはお前がスクアーロを保護するまでの話を聞かせろ」
「あ、ああ……」

リボーンの放つプレッシャーに圧されるようにして、ディーノはこれまでにあったことを、多少省きながらだが、話し始めたのだった。
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