if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯
「と、とにかく!山本……いや、威識は引き渡した!オレはもう帰るからなぁ!」
「えええー!?何を言ってるんだいスクアーロちゃん、このまま1日でも1週間でも1ヶ月でも一生でも、ここに泊まっていけば良いのに……!」
「嫌だ!絶対に嫌だ!」
結局、呼ばれても返事をしない、という超古典的な方法で、鮫織という彼女曰く『ふざけた名前』を回避したスクアーロ。
だが山本武改め、零崎威識を引き渡し、いざ帰らんとしたとき、やはり双識がそれを止めた。
「私だってスクアーロちゃんが帰るのは嫌だい!お兄ちゃんと呼んでくれるまで絶対に帰さないんだからね!」
「ふ、ふざけんな!おい山……威識!てめぇこの変態どうにかしろぉ!兄弟だろぉ!?」
「え……無理……」
流石の山本も真顔で答える変態ぶりである。
と言うか、大の男が『嫌だい!』はない。
人識は愚か、舞織でさえもドン引きである。
「だいたい、オレみたいな変なののどこを見て、妹にしたいなんて思うんだよ!?」
「かはは、姉ちゃん、自分が変わってるって自覚あったんだな?」
「う、うるさい!」
「まあオレもそう言うキャラは別に嫌いじゃねぇがな」
「お、同じ穴の狢……!」
「おい姉ちゃん、そこの変態野郎と純情ハニーフェイス人識君の事を一緒にするなよ?」
「……!」
人識がクルン、とナイフを回して言ったのを見て、スクアーロは千切れんばかりに首を縦に振った。
お前のどこに純情要素があるんだ、なんて本音を吐いた瞬間、そのナイフが飛んでくることは容易に予想できた。
「スクアーロちゃんが変なのだなんて……そんなに自分を卑下するもんじゃあないよ。良いかい?君の長所はたくさんあるんだよ。そのビジュアルだけでなく、好戦的っぽい外見からは想像もつかないビビりっぷり、そしてビビりながらも必死で抵抗しようとする健気さ!そんなギャップを見せつけられた後に、もし顔を真っ赤にして涙目で凄く悔しそうに『お兄ちゃん』なんて呼ばれたら私はもう天にだって昇れるだろうね」
「ヒッ!?」
スクアーロに聞かれたことを懇切丁寧に答えながら、彼女にずずいと迫る双識。
聞いた当の本人は、顔を真っ青にさせて必死に後退っている。
その時スクアーロは後悔していた。
今まで死体愛好家のルッスーリアを、変態だ変態だと思っていたが……真の変態とはここにいたのだ。
無意識なのか何なのか、薄気味の悪いオーラを発しながらグイグイと迫って来る双識。
ルッスーリアはまだましな変態だったんだ。
もうあのオカマ野郎でも、誰でも構わない。
無闇に人を襲わない誰かに会いたい。
スクアーロのその希望は、ささやかにして切実である。
「ほ、本当に、無理っ!だっての!」
「大丈夫、ほんのちょっと『お兄ちゃん』と呼んでくれればそれだけで良いんだ!」
「こっち来るな……!」
「『お兄ちゃん』!『お兄ちゃん』!」
「ぅうぅ……!」
その時のスクアーロの心中の葛藤は、壮絶なものであった。
呼べば解放される。
だが呼んだ瞬間、自分の中の何かが失われる気がする……!
「かはは、お兄ちゃんが嫌ならオレの事を『だぁりん♡』って呼んでくれても良いんだぜ?」
「やだやだやだやだ!」
「ふざけんな人識テメェ私のスクアーロちゃんを奪おうってのか、ああん?」
「歳上高身長って結構タイプなんだよな」
「仕方ない、なら人識君の嫁兼、私の義妹と言うことでどうかなスクアーロちゃん!?」
「嫌だぁぁあ!」
零崎二人に追い詰められ、スクアーロは今にも泣きそうである。
チワワと並べても遜色ないくらいにガタガタと震えながら拒否を示すスクアーロだったが、そんな彼女も遂に限界を迎えたのか、それとも『お兄ちゃん』と呼ばせることに必死すぎる双識を憐れんだのか……いや、後者は有り得ないだろうが、とにかく観念したように項垂れた彼女は、蚊の鳴くような声でその言葉を呟いたのだった。
「ぉ……おにい、ちゃ……も、帰らせて……!」
「」
「双識お兄ちゃんが息してない!」
「この人でなし!」
「お前らにっ……言われたくねぇよっ!」
舞織、人識の反応はテンプレである。
スクアーロは、顔を真っ赤にして唇を噛む。
そうとう屈辱的だったのだろう。
この場ではこんな酷い感じだが、あくまで最強の暗殺部隊ヴァリアーの作戦隊長で、数多の部下を持つ身のスクアーロにはこれほど屈辱的なことはないのだ。
そしてその様子を(今になって漸く)見かねたのか、威識が声を掛ける。
「なぁ、スクアーロ。オレの事はさ、今まで通り山本って呼んでくんねーかな?」
「……は?山本……で、良いのか?」
「うん、スクアーロ達の前ではさ、『零崎威識』じゃなくて、『山本武』でいたいのな。スクアーロがいっぱい頑張って、オレの事をここまで連れてきてくれたんだもんな!オレも頑張って、スクアーロ達の前では今まで通りの、『山本武』でいられるように、これからいっぱい努力するぜ!」
「山本……。……ああ、オレ達も、『山本武』が帰ってくるのを、待っておく。それと、忘れるところだったぜぇ。お前にこれを渡しておく」
「ん?……携帯?」
にかっと笑う山本に、スクアーロはほんのちょっぴり、1ミクロンほど癒される。
それで立ち直ったわけではないが、自分の使命は思い出したようだ。
ふらふらと立ち上がり、ポケットから携帯電話を取り出すと、それを山本に放り投げた。
危なげなくキャッチした山本に、その用途について説明した。
「普段は電源を切っておいても構わねぇ。ほったらかしておいても構わねぇ。だが何かあったら、その電話で連絡しろぉ。あと、こちらで……ボンゴレに何かがあったときはメールなり電話なりをこちらからさせてもらう。気付かなければそれまでだが、まあ、お前がまだ雨の守護者である限り、知らせる義務はあるはずだからなぁ」
「わかった。大事にするのな!」
「なるほど、この携帯があればスクアーロちゃんにも連絡が取れるんだね?」
「ついでだがその電話、何があってもその男には渡すな。いいかぁ?何があっても絶対にだぁ」
「わかったのなー!」
本当にわかっているのだろうか。
もしその電話が双識に渡ろうものなら、メールに次ぐメール。
電話に次ぐ電話……。
スクアーロが精神崩壊SAN値直葬になることなど、火を見るよりも明らかである。
「今度こそ!帰る」
「うふふ、また来てねスクアーロちゃん!」
「ま、気が向けばまた会おうぜ姉ちゃん」
「また会いましょーねスクアーロさん!」
「スクアーロ、オレが帰るまで、皆の事、よろしくな!」
「……ああ、またな」
最後にそう言いながら、スクアーロは山本の頭を軽く撫でて部屋を出ていく。
「気長に待ってる、山本武」
ヒラヒラと手を振り、満身創痍なスクアーロが障子の向こうに消えていくのを見送った山本は、改めて自分の新しい家賊に向き直り、深く頭を下げたのだった。
「今日から、よろしくお願いします!」
「えええー!?何を言ってるんだいスクアーロちゃん、このまま1日でも1週間でも1ヶ月でも一生でも、ここに泊まっていけば良いのに……!」
「嫌だ!絶対に嫌だ!」
結局、呼ばれても返事をしない、という超古典的な方法で、鮫織という彼女曰く『ふざけた名前』を回避したスクアーロ。
だが山本武改め、零崎威識を引き渡し、いざ帰らんとしたとき、やはり双識がそれを止めた。
「私だってスクアーロちゃんが帰るのは嫌だい!お兄ちゃんと呼んでくれるまで絶対に帰さないんだからね!」
「ふ、ふざけんな!おい山……威識!てめぇこの変態どうにかしろぉ!兄弟だろぉ!?」
「え……無理……」
流石の山本も真顔で答える変態ぶりである。
と言うか、大の男が『嫌だい!』はない。
人識は愚か、舞織でさえもドン引きである。
「だいたい、オレみたいな変なののどこを見て、妹にしたいなんて思うんだよ!?」
「かはは、姉ちゃん、自分が変わってるって自覚あったんだな?」
「う、うるさい!」
「まあオレもそう言うキャラは別に嫌いじゃねぇがな」
「お、同じ穴の狢……!」
「おい姉ちゃん、そこの変態野郎と純情ハニーフェイス人識君の事を一緒にするなよ?」
「……!」
人識がクルン、とナイフを回して言ったのを見て、スクアーロは千切れんばかりに首を縦に振った。
お前のどこに純情要素があるんだ、なんて本音を吐いた瞬間、そのナイフが飛んでくることは容易に予想できた。
「スクアーロちゃんが変なのだなんて……そんなに自分を卑下するもんじゃあないよ。良いかい?君の長所はたくさんあるんだよ。そのビジュアルだけでなく、好戦的っぽい外見からは想像もつかないビビりっぷり、そしてビビりながらも必死で抵抗しようとする健気さ!そんなギャップを見せつけられた後に、もし顔を真っ赤にして涙目で凄く悔しそうに『お兄ちゃん』なんて呼ばれたら私はもう天にだって昇れるだろうね」
「ヒッ!?」
スクアーロに聞かれたことを懇切丁寧に答えながら、彼女にずずいと迫る双識。
聞いた当の本人は、顔を真っ青にさせて必死に後退っている。
その時スクアーロは後悔していた。
今まで死体愛好家のルッスーリアを、変態だ変態だと思っていたが……真の変態とはここにいたのだ。
無意識なのか何なのか、薄気味の悪いオーラを発しながらグイグイと迫って来る双識。
ルッスーリアはまだましな変態だったんだ。
もうあのオカマ野郎でも、誰でも構わない。
無闇に人を襲わない誰かに会いたい。
スクアーロのその希望は、ささやかにして切実である。
「ほ、本当に、無理っ!だっての!」
「大丈夫、ほんのちょっと『お兄ちゃん』と呼んでくれればそれだけで良いんだ!」
「こっち来るな……!」
「『お兄ちゃん』!『お兄ちゃん』!」
「ぅうぅ……!」
その時のスクアーロの心中の葛藤は、壮絶なものであった。
呼べば解放される。
だが呼んだ瞬間、自分の中の何かが失われる気がする……!
「かはは、お兄ちゃんが嫌ならオレの事を『だぁりん♡』って呼んでくれても良いんだぜ?」
「やだやだやだやだ!」
「ふざけんな人識テメェ私のスクアーロちゃんを奪おうってのか、ああん?」
「歳上高身長って結構タイプなんだよな」
「仕方ない、なら人識君の嫁兼、私の義妹と言うことでどうかなスクアーロちゃん!?」
「嫌だぁぁあ!」
零崎二人に追い詰められ、スクアーロは今にも泣きそうである。
チワワと並べても遜色ないくらいにガタガタと震えながら拒否を示すスクアーロだったが、そんな彼女も遂に限界を迎えたのか、それとも『お兄ちゃん』と呼ばせることに必死すぎる双識を憐れんだのか……いや、後者は有り得ないだろうが、とにかく観念したように項垂れた彼女は、蚊の鳴くような声でその言葉を呟いたのだった。
「ぉ……おにい、ちゃ……も、帰らせて……!」
「」
「双識お兄ちゃんが息してない!」
「この人でなし!」
「お前らにっ……言われたくねぇよっ!」
舞織、人識の反応はテンプレである。
スクアーロは、顔を真っ赤にして唇を噛む。
そうとう屈辱的だったのだろう。
この場ではこんな酷い感じだが、あくまで最強の暗殺部隊ヴァリアーの作戦隊長で、数多の部下を持つ身のスクアーロにはこれほど屈辱的なことはないのだ。
そしてその様子を(今になって漸く)見かねたのか、威識が声を掛ける。
「なぁ、スクアーロ。オレの事はさ、今まで通り山本って呼んでくんねーかな?」
「……は?山本……で、良いのか?」
「うん、スクアーロ達の前ではさ、『零崎威識』じゃなくて、『山本武』でいたいのな。スクアーロがいっぱい頑張って、オレの事をここまで連れてきてくれたんだもんな!オレも頑張って、スクアーロ達の前では今まで通りの、『山本武』でいられるように、これからいっぱい努力するぜ!」
「山本……。……ああ、オレ達も、『山本武』が帰ってくるのを、待っておく。それと、忘れるところだったぜぇ。お前にこれを渡しておく」
「ん?……携帯?」
にかっと笑う山本に、スクアーロはほんのちょっぴり、1ミクロンほど癒される。
それで立ち直ったわけではないが、自分の使命は思い出したようだ。
ふらふらと立ち上がり、ポケットから携帯電話を取り出すと、それを山本に放り投げた。
危なげなくキャッチした山本に、その用途について説明した。
「普段は電源を切っておいても構わねぇ。ほったらかしておいても構わねぇ。だが何かあったら、その電話で連絡しろぉ。あと、こちらで……ボンゴレに何かがあったときはメールなり電話なりをこちらからさせてもらう。気付かなければそれまでだが、まあ、お前がまだ雨の守護者である限り、知らせる義務はあるはずだからなぁ」
「わかった。大事にするのな!」
「なるほど、この携帯があればスクアーロちゃんにも連絡が取れるんだね?」
「ついでだがその電話、何があってもその男には渡すな。いいかぁ?何があっても絶対にだぁ」
「わかったのなー!」
本当にわかっているのだろうか。
もしその電話が双識に渡ろうものなら、メールに次ぐメール。
電話に次ぐ電話……。
スクアーロが精神崩壊SAN値直葬になることなど、火を見るよりも明らかである。
「今度こそ!帰る」
「うふふ、また来てねスクアーロちゃん!」
「ま、気が向けばまた会おうぜ姉ちゃん」
「また会いましょーねスクアーロさん!」
「スクアーロ、オレが帰るまで、皆の事、よろしくな!」
「……ああ、またな」
最後にそう言いながら、スクアーロは山本の頭を軽く撫でて部屋を出ていく。
「気長に待ってる、山本武」
ヒラヒラと手を振り、満身創痍なスクアーロが障子の向こうに消えていくのを見送った山本は、改めて自分の新しい家賊に向き直り、深く頭を下げたのだった。
「今日から、よろしくお願いします!」