if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「……というわけだぁ。だから不本意なことに、零崎の恐ろしさは断片的に知っているし、ある程度なら裏世界の事情も教わっている」
「ふ……不憫だ!」
「……返す言葉がねぇ」
「重ねて不憫だな、カハハ」

不憫……その一言では足りないほどにら不憫なそのエピソードに、流石の零崎勢もスクアーロに同情を示していた。
山本だけが何故か、『いっぱい友達いるんだな!』という謎のコメントを残す。

「よし、わかったよスクアーロちゃん。この際、私達の家賊になってしまおう!」
「よしわかった、帰る」
「な、何故だ!?」
「むしろこっちが理由を聞きてぇ!」

いや、もう一人謎のコメントをした人間がいた。
零崎双識である。
同情しているのは他の二人と同じだが、何故か先程から執拗に家賊だの妹だのと誘ってくる双識に対し、スクアーロは半分キレ気味に問い返した。
当たり前だ。
双識の話は、前後の文脈がまるで繋がっていないのだから。

「家賊になったらもう、無闇に襲われることはないじゃないか!」
「零崎はなるならないの問題じゃねぇだろうが!あんた正気か!?」
「カハッ、正気なわけがねーぜ」
「でも双識お兄ちゃんの、今までの趣味とはちょっと違いますよねー?」
「年下の可愛い女の子なら、私はどんな子でも受け入れるよ?」
「まあ確かに美形ではあるよなぁ。欲を言えば、もうちょっと胸があれば良いんだけどな」
「ふっ……ふざけんな!胸の話もあの……、アレだがっ!妹にも家賊にもならねぇよ!山本を送り届けたらオレは帰るつもりだったんだぁ!それが何で家賊の話になってんだよ!?」
「そんなの……スクアーロちゃんが可愛いと言う事以外に、何か理由があるのかい?」
「あるべきだ!」
「えー!家賊になる理由なんて何でも良いのなー!」
「お前もかよ山本ぉぉお゙ぃ!!」

恐怖が振り切れてテンションの上がっているスクアーロである。
叫ばなければやってられない。

「じゃあ二人には零崎としての名前をつけなきゃね!」
「ん?ああ、忘れてたな」
「もう!大事な事なんだから忘れちゃダメですよぅ!!」
「おい待てぇ!オレは名前なんて……」
「早くつけてほしいのな!」
「いらねぇ!人の話の邪魔してんじゃねぇぞ山本ぉ!」

やめろいらねぇ!と騒ぐスクアーロの口を舞織が塞ぎ、その隙に双識によって二人の名前が告げられたのだった。

「山本武改め、今日から君は零崎威識。そしてスクアーロちゃん、今日から君は零崎鮫織……」
「だからオレは零崎じゃねぇっつってんだろうがぁ!!」

スクアーロが零崎の仲間になる日は遠そうである。


 * * *


――時間は1日前に遡る。

「もういっぺん言ってみろ!」
「……『10代目雨の守護者、山本武が事故で亡くなった』と。スクアーロ様より、関係者各位にそうお伝えするよう言付かっております」
「そんな訳が……!」
「お疑いのようでしたら、写真でもご覧になりますか?」
「ぐっ……!」

イタリア、キャバッローネアジト。
山本武の死を報せに来たヴァリアー隊員に食い下がる、跳ね馬ディーノ姿があった。
隊員が懐から出した写真を引ったくるように受け取る。
ディーノの眉間には、深いシワが刻まれていた。

「……これが?」
「はい、こちらが山本武の遺体です」
「……」

遺体……とは言っても、それはある程度綺麗に整えられていた。
だがその写真には、どこか違和感がある。
作り物めいた不自然さ。
これは……幻術?

「ディーノ様、こちらが山本武の遺体なのです」
「……そうか」
「……現在、スクアーロ様は日本に居られます」
「日本……」
「我々はスクアーロ様に、イタリアから離れないよう命じられています。何かご用命の際はヴァリアー邸にお越しくださ……」
「いや、実はオレも、日本に行く用事があったんだった。いやぁ、奇遇だなぁ?」
「……えぇ、奇遇ですね」
「まあ、向こうでスクアーロに会ったら詳しい話を聞いてみるよ。……何か伝言、あるか?」
「そう、ですね……。では、早く帰ってきてください、と」
「ああ、了解した」

やり取りの中で、隊員の薄い表情が、微かに変化をしていく。
必死な顔、苦しげな顔、安心した顔……。
彼が去っていった後、ディーノはゆっくりと、深く、息を吐き出す。

「未来の記憶が来て、それだけで混乱してるってのに……一体日本で何があったってんだ……?」

あっちこっちに跳ねる金髪を更に掻き回しながら、遠い彼の国、彼の人を想った。
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