if群青×黒子、違う世界の人たち

「ところで、今回はどうして日本に来たんですか、ディーノさん?」
遅い昼食を終えて、食堂にはゆったりとした時間が流れている。
食後に紅茶を啜っていたディーノに、綱吉が訪ねた。
スクアーロにちょっかいを出そうとしていたディーノは、彼の疑問にふむと頷いて答える。
「本国が落ち着いてきたからな、そろそろ諸外国に手を伸ばさなきゃならなくなった。日本はその手始めだ」
「手を伸ばすって言うと……はっ、まさか侵略的なあれこれを……!?」
「あっははは!ちげーって!うちが経営してる表の企業の地盤固めってやつだ。俺みたいなまだ若い人間がボンゴレを継ぐ形になるから、相手方も慎重になっててな」
と、つまり日本の企業との提携を結ぶために、こちらまで挨拶に来た、という話であるらしい。
そしてさらにもう一つの理由を挙げる。
「旧ボンゴレ派閥の人間が、日本に集まり始めてる。これから、恐らく抗争が激化するだろうと思ってな」
「……やはり、本国に残ってた奴らも動き出したのかぁ」
「表向きは出張だったり、バカンスだったりって理由でな。奴ら、きっと近い内に日本で片をつけるつもりだろう」
彼の言葉に息を飲んだのは、綱吉達だけではなく、周りに集まった黒子達も、張り詰めた空気に生唾を飲み込む。
「……つっても、まだ何が起こるって決まったわけでもねーけどな!ツナも、それにお前らも、まずはいつも通りにしてることだ。もし何かが起こったら、その時に慌てりゃいいのさ」
茶化すような言葉に、一気に緊張が解けたようだった。
先程まで真剣な顔をしていたスクアーロも、ディーノの言葉に鼻を鳴らして、怠そうに立ち上がったかと思うと、そのまま何も言わずに部屋を出ていく。
懐から携帯端末を取り出しているようで、どうやら部下から連絡があったらしい。
「とりあえず、しばらくはここに滞在させてもらうぜ、ツナ」
「はい!」
その場はそこで解散となり、その後は各々、仕事なり、自主練なりに打ち込み始める。
しかし彼らの知らないところで、また一つの作戦が動き始めていた。
場所は、会議室へと移る。



 * * *



「ふむ……、虎狼会の情報か」
広い会議室には、ディーノとロマーリオ、そしてその向かいにスクアーロが座るのみで、酷く寂しげでがらんとしていた。
スクアーロがぽつりと落とした言葉に、ディーノが真剣な面持ちで首肯く。
「東京進出の要だ。あのジャパニーズマフィアが東京一帯の覇権を握っている。表の仕事も随分と調子が良いらしい。表でも、裏でも……連携を取りたい」
「……先代としか面識がないが、気難しい爺だったな」
「今は確か8代目だったろ?イタリアにはほとんど情報が入ってこない。お前は何か知ってるか」
「多少は聞いてるが……、ふん、高くつくぞぉ」
「もちろん、ボンゴレの情報庫を頼るんだ。承知してるさ」
先程までの親しげな雰囲気は微塵も感じられなかった。
マフィアのボスと、情報を握る暗殺者との交渉。
例え恋人であろうと、裏社会の情報はただでは売れないし、何より対価の伴わない情報ほど信頼できないものはないというのは、スクアーロの持論である。
「虎狼会は……8代目になってから随分と動きが活発になっている。全体的に若くなったことが大きな理由だろうなぁ」
「若くなった?」
「頭領だけじゃねぇ。幹部から準幹部も一新された。7代目から継いだと言ってるが、あれは乗っ取りに近い」
「乗っ取り……」
「これまでは穏健派として通っていた虎狼会だが、最近はクスリや改造銃が出回り始めてる。周りのファミリーは疎ましがっちゃあいるが、相手が強すぎて手が出せないようだな」
「……そうだったのか」
「で、提携は」
「やめる。悪いが、クスリやってる奴等とは仲良くできねぇな!」
ディーノの口から、大きなため息が吐き出された。
落胆した様子で椅子の背にもたれ掛かる。
「参ったな……。完全に奴らと話す気で来ていたから……」
「東京進出を狙うなら、虎狼会傘下の実力者と組んで、恩を売ってやるのが良いだろうな」
「と言うと?」
「奴らの傘下に、鶴雀会って連中がいる。……情報は別料金」
「しゃあねぇ、聞かせてくれ」
鶴雀会(カクジャクカイ)と言うのは、その昔に虎狼会と覇権を競いあったヤクザだった。
抗争に敗れ、虎狼会の傘下となったが、トップが変わってからは突然彼らの動きが静かになった。
「恐らく、奴らは近い内に虎狼会を裏切って抗争をおっ始める。だが戦力は心許ない」
「なるほどな、そこにオレ達が味方につけば、虎狼会を追い出し、その後釜に収まる鶴雀会とも強いパイプを持つことが出来る」
「鶴雀会の頭領は、虎狼会と同じく若いが、人格者で通っている。組むならこっちだ」
「……よし!助かった、スペルビ。彼らとコンタクトを取ってみる。時間とって悪かったな」
「大したことじゃねぇ。金はここに振り込んどけ」
「了解」
振込先と金額を書いたメモを、ロマーリオに渡す。
一つ頷いた彼に、スクアーロもまた頷き返した。
「んじゃ、仕事の話はこれで終わり!っはー!疲れたっ!ロマーリオ、先に休んでて良いぜ」
「イタリアからこっちまで、長旅だったろう。お疲れさん。部下もそうだが、お前も休んどけぇ。鶴雀会に話つけるにも、疲れたまんまじゃあ上手くいかねぇだろぉ」
「おう、そうする」
二人連れだって席を立ち、部屋を出る。
それぞれの部屋まではそう遠くはない。
少し歩けば、彼らの部屋の前に立つ人影に気付く。
「……相田?」
「えっと、その……スクアーロさん、お時間良いですか?」
「構わねぇが……どうしたぁ?」
「それは……」
チラリと視線がディーノに移る。
きょとんと目を丸くしている彼の前では、話しづらいことのようだった。
「てめぇ部屋戻ってろぉ」
「……そうだな!お前も無理しないで早めに休めよ~」
「あだっ!……のやろ」
去り際に、ディーノが軽くスクアーロの頭を小突いていく。
そのやり取りを、リコは複雑そうな顔で眺めていた。
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