if群青×黒子、違う世界の人たち

勉強会を行う為に、黒子達が連れてこられたのは、普段からよく使っている教室のような、どことなく懐かしさすら感じる一室だった。
「ここ、オレ達の学校……並盛高校の教室をモデルに作ったんだ」
「そうなんですか」
いつの間にか現れ、木製のイスに腰掛けていた綱吉が、嬉しそうに目を細めて解説している。
その後ろには、『めんどくせーからサボる』と言い残して逃亡したはずの青峰が座っている。
いや、座っていると言うよりは、椅子の上に拘束されていると言うべきか。
胴体と脚を椅子に縛り付けられ、口には猿轡を噛ませられて、青峰はぐったりとしていた。
その耳には大きなヘッドフォンが着けられており、何やら音楽が流されているらしい。
「えーっと、青峰君はなんでこんなことに?」
「サボろうとしたのを捕まえて来たぁ。取り敢えず罰則として中1の教科書英語を延々と耳元で流し続けている。次にやったら歴史の解説を流すぞぉ」
「じ、地獄だ……」
染々と口にした火神とは対照的に、勉強の出来る赤司や緑間などは首を傾げている。
勉強嫌いからすればとんでもない拷問である。
訳のわからない単語の羅列、いつ終わるのかもわからない音声。
英語ならばともかく、歴史の年代や偉人の名前、事件などを延々と流された日には、火神はきっと発狂するだろう。
「全員適当に席に着けぇ。今日は初日だぁ。実力を確認するためのテストを行う」
「えー……!」
「文句あんのか黄瀬ぇ!」
「わぶっ!ないっス!全然ない!」
文句を言い掛けたら黄瀬の頭に、スクアーロの拳が軽くぶつけられる。
それでも十分に痛かったらしく(何せ鋼鉄の義手だ)、涙目になる黄瀬を眺めながら、黒子は自分達が彼の授業を受けた日の事を思い出していた。
そう言えば、先生に化けていた時も、最初の授業はテストだったか。
考えてみれば、昼過ぎまで行われていたあの特訓も、全員の実力を見極めるためのものだったのかもしれない。
これをもとに、これからの授業の構成を考えていくのだろうか。
ならば、と、黒子は一つ深呼吸をし、手元のテストへと鋭い視線を向けた。
受けて立とう。
普段の成果をここに出し切らねば、悔しい思いをすることとなる。
……というより、ここで悪い点数を出せば、後の勉強は相当厳しいものとなるかもしれない。
そう思えば、頑張れずにはいられない。
しかし一時間後、試験に参加していたほとんどの者が頭を抱えていたのだった。


 * * *


「……さて、各々思うところはあるだろうが、結果を渡す。今回の結果を元に、お前らをクラス分けするからなぁ」
「クラス分け……何クラスに分けるんですか?」
「3クラスだぁ。結果がかなり……何と言うか、差があったからなぁ。出来る奴、普通の奴、……その他の奴で分ける」
「微妙に気を使って言葉を濁されてる……」
それだけ、残念な結果を叩き出した奴がいた、ということだろうか。
今回のテスト、黒子の感覚で言うととてつもなく難しかった。
青峰や黄瀬、火神は燃えカスのようになっている。
この中でもっとも頭が良いだろう赤司も微妙な顔をしている気がする。
思い出すのは全教科の最後の問題。
一体誰なら解けるんだと思うような、鬼畜極まりない問題ばかりであった。
あれはどうみても解かせる気がない。
一体何が目的であんな問題を出したのか。
そんなことを考えながら頭を抱えていると、ようやくテストの返却が始まった。
一番目は青峰、次が赤司のようだ。
五十音順なのだろうか。
なんともイタリア人らしくない。
「赤司は……ん"、どれも最後の問題以外は正解か。流石だなぁ」
「……最後の問題は、解けた人はいたのですか?」
流石、とは言われても、やはり最後の問いには答えられなかったらしい。
端正な顔に悔しさを滲ませた赤司に、スクアーロは黙って教室の後ろの方を指差した。
はっとして振り向く。
そこにいたのは青峰……青峰!?
「大輝が!?」
「ちげぇよ、その後ろだぁ」
「え?」
死んだように動かない青峰の後ろを見る。
そこにいたのは、獄寺隼人だった……って、それはそれで意外である。
訝しげに首を傾げた赤司に、獄寺は見向きもせず、嬉しそうに綱吉に話し掛ける。
「沢田さん!やりました!オレ、満点っす!」
まだテストが返ってきてないのにも関わらず、既に100点であることを確信しているらしい。
それに対して綱吉は、頭を抱えて机に突っ伏したまま、『流石は獄寺くん……オレとは天と地の差だ……』と呟いている。
もしかして彼も、勉強は苦手な部類なのだろうか。
あんなにイタリア語をすらすらと読んでいたのに。
「お"い、他の奴らにも返していくぞぉ。とっとと取りに来い!」
スクアーロが再びテスト返却に戻る。
大体の者が、返ってきたテストに苦い顔をする中、黒子のテストもすぐに戻ってくる。
「うっ……」
「まあ、こん中じゃあ平均ってとこだなぁ」
もう少しはとれるかとも思ったのだが、結局は平均か。
項垂れた彼を余所に、名前を呼ぶ声は続く。
部屋の空気はどんどん重くなっていく。
テストは悪い文明である。
異論は認めない。
だが今日はこれだけで勉強は終わり、とのことだ。
それにだけは感謝する。
全員にテストが返ったことを確認したスクアーロが、再び口を開く。
「全員に戻ったなぁ?では、これからクラス分けの発表を行う」
クラス分けは口頭で淡々と行われた。
Aクラスは、赤司、実渕、紫原、氷室、緑間、桃井、伊月。
Bクラスは、葉山、根武谷、高尾、日向、相田、木吉、黒子。
そしてCクラスは、青峰、黄瀬、火神、綱吉、山本である。
黒子は内心突っ込む。
なんで自警団の二人が入っているのか。
しかもCクラスに。
「沢田ぁ、山本ぉ、てめぇら酷すぎんぞぉ。進学する気があるにしろないにしろ、もう少し脳ミソを鍛えろぉ」
「うぇぇ……折角最近はリボーンの鬼畜指導がないから安心してたのに……」
「あはは、最近仕事続きだったからなー」
……二人にもまあ、色々あるということだろう。
ところで、今回名前が呼ばれなかった者が二人いる。
一人は全問正解した獄寺、そしてもう一人は……。
「オレはどこのクラスにも呼ばれていなかったんだけど」
「黛か」
そう、このメンバー唯一の3年生、黛千尋である。
既に推薦で大学は決まっているため、火急に勉強の必要があるわけではないのだが、だからと言ってサボっていて良いわけではない。
彼の疑問に頷いたスクアーロは、持っていたノートを閉じ、一息吐いた後に答える。
「お前は大学に進むんだろう。なら、高校生達と同じ授業を受けさせるのも難だしよぉ、うちの頭良いのに勉強見てもらった方が良いかと思ってなぁ」
「『頭良いの』?誰だそれ」
「あ"ー、レヴィ」
「は?」
レヴィ、と言うのは確か、スクアーロと同じ組織にいるあのトゲトゲ頭で厳つくて嫌に立派な髭が映えていたあの男のこと、だったはず。
あれが、頭が良くて、勉強を教える?
どうにもイメージがわかず、黛だけでなく、他の者達も首を傾げた。
「言っとくがぁ、アイツはああ見えてうちで一番頭が良いんだぁ。一流大学を首席で卒業してるし、その後教授としての誘いも来てた。……まあ、全部蹴ってヴァリアーに来たわけだが」
ちなみに全教科の最後の問題を作ったのもアイツだ、との発言に、黛は頭を抱えたくなった。
確かに勉学を見てもらえるのは嬉しいが、そんなエリートは求めていない。
一体オレはこれからどうなってしまうのだろうか。
ライトノベルは好きだが、自分の生活にこんな非日常は求めていない。
ちなみにそんな考えは、ここに連れてこられてから既に数十回はしている。
「んで、獄寺はもう教えることがねぇから、他の奴らの補助に入れ」
「やっぱ獄寺くんすげー」
「なっ!まっ!おおおオレは10代目の右腕っすからね!!当たり前ですよ!」
「獄寺ー、ツナはもう10代目じゃないのなー」
「うっせぇ野球バカ!」
「……ま、オレも高校生に勉強教えるのは初めてに等しいからなぁ。おかしいと思う部分があれば言ってくれ」
今日はここまで、解散。
その言葉に背中を押されて、全員揃って部屋を出た。
午前の特訓とは違う意味で、全員の足取りが重たい。
黒子は炎や戦闘に関する訓練を頼んだハズだったのに、いつの間にこんな事に。
「まさかこうして勉強も見てもらえるとはね、ありがたいな」
「ああ、予想外だったが、助かるのだよ」
帝光時代の主将、副主将の二人の言葉に、Cクラスの者達はじっとりとした視線を向けている。
俗に馬鹿と呼ばれる者達にとっては、人生で一度は言ってみたい台詞だ。
元日の午後、年始一日目にしては異様に濃い一日が、ようやく終わったのだった。
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