if群青×黒子、違う世界の人たち
「ちげぇ!いいかぁ、お前が見るのは相手だけじゃねぇ。もっと視野を広く持て!じゃねえとすぐに逃げ場を奪われて、あっという間に殺されるぞぉ!」
「くっそ!んなこたぁわかってんだよ!」
「もう一度だぁ!立て!」
鬼軍曹だ……。
青峰を引き摺り立たせて、再び訓練を始めたスクアーロを見て、黒子は息も絶え絶えになりながら、そう思う。
自分の周囲を見回せば、同じようにへとへとになって、無様に床に転がっている仲間達がいる。
訓練を始めて、一時間と少し。
体力お化けである青峰以外の全員が、その過酷な訓練に付いていけずに、揃いも揃って、床と仲良くするはめになっていた。
唯一残っている青峰も、額には滝のように汗が伝い、ウェアも汗で湿って肌に張り付いている。
だが、青峰の前でナイフを振るうスクアーロは、未だに汗1つかかずに、涼しげな顔で立っていた。
自分達よりもずっと厚着をしているのにも関わらず、彼は元気一杯の様子である。
「もっと重心を低くしろぉ!バスケの試合と変わらねぇ。敵の動きを見て隙をつけ!無駄な動きを少しでも減らせぇ!う"お"ぉい脱落者どもぉ!てめぇらもへばってねぇで、青峰の動きを見るくらいしろぉ!」
「う……うっす!」
「!青峰君後ろ!」
「うおっと!あぶねぇ!」
スクアーロの声になんとか体を起こし、青峰の動きを見る。
あんな動き、どう考えたって自分には無理だ。
だがそんな青峰を更に上回る動きで、スクアーロがその長い脚を鞭のように振るう。
それを避けた青峰が、壁に近付いた。
逃げ場がなくなる前に、慌てて声を掛ける。
スクアーロが横に振ったナイフを避けて、青峰が前に転がり、窮地を脱する。
「……ふん、良いじゃねぇかぁ。なら今度は、こっちだぁ!」
「なっ!うぉお!?」
パンっ!という乾いた音に、へばっていた者達もハッとして顔を上げる。
青峰の米神を掠めていったのは、真っ赤なインクの入ったペイント弾で、全員の視線の先にいるスクアーロは、にったりと笑う。
その手の中には、黒光りする拳銃が収まっていた。
「と、飛び道具は狡いだろ!」
「敵が必ずナイフで来るわけがねぇだろうがぁ!今のうちに様々な武器に慣れておけぇ!近距離、中距離、遠距離のそれぞれの武器に慣れてきたら、そん時には炎の使い方を教えてやる!」
「ぐ……んの野郎!」
「う"ぉい!てめぇらも十分休んだだろうがぁ。そろそろ立て!インクまみれにするぞぉ!」
「わー!タンマタンマ!」
立てと言い終わるが早いか、スクアーロは床にへばりついていた男どもに向けて、もう1つ拳銃を取りだし、引き金を引いた。
ダパン!と音を立てて、壁にインクの染みが出来る。
まるで誰かが殺された後のようだ。
「というか!桃っち達はどうしてんスか!?」
「さっき、やたら色っぽいおねーさんに連れてかれてから、一回も戻ってきてねーよな!?」
「木吉もだな。まああいつはリハビリから始めなきゃだし仕方ねーけど」
「カントク達もきっと頑張ってるんです。僕達もがんば」
言葉の途中で、黒子の肩でペイント弾が弾けた。
真っ赤に染まって倒れる様子は、かなり臨場感がある。
「黒子っちー!」
「黒子ぉ!体力ない奴が余所見して話してんじゃねぇ!」
「そもそもテツヤを簡単に見つけて、尚且つ躊躇なく弾丸を当てる、貴方の方が異常なんですよ!」
「口答えしてんな赤司ぃ!てめぇも撃つぞお"らぁ!」
「もうただの虐殺犯じゃねーか!」
「さ、先が思いやられるのだよ……」
「う……お腹減った……ぐえ」
「敦ー!」
彼らの訓練は、まさに阿鼻叫喚の様相を呈している。
15分後、全員を綺麗に赤く染め上げたスクアーロは、やれやれと首を振ったのだった。
「ま、初日はこんなもんだろぉ」
明日からはどうなってしまうのか。
少年達は頭を抱えることも出来ずに、ぐったりと横たわるばかりであった。
* * *
「えっと……」
「私はビアンキ。今日から貴女達の師匠になるのよ」
「は、はあ……」
色っぽいおねーさん、こと、毒蠍ビアンキは、目の前に並ぶ二人の少女に自己紹介をしながら、ふうっとアンニュイにため息を吐いた。
今日の朝、任務で外出する獄寺に弁当を渡そうと、アジト内を歩いていたビアンキを、スクアーロが突然呼び止めた。
いわく、今このアジトに匿ってる少女達二人に、自衛手段を叩き込んで欲しい、とのことだった。
だが、ビアンキはあくまで暗殺者。
人を鍛えたことなどほぼない上、素人に教えられるような自衛の方法など、持ち合わせていない。
それでも、どうしてもと頼み込んできた彼女に、断ることもできず、結局彼女達を押し付けられてしまったのだった。
それに、困ったことはもう1つ。
「ビアンキさんって……えっと、スクアーロさんとはどういう関係なんですか?」
キラキラと目を輝かせて聞いてきた少女に、ビアンキは困ったように眉をひそめる。
自分の愛しい人は、リボーンただ一人。
それにスクアーロは女なのだから、彼女らの期待するような答えは出てこない。
考えた結果、ビアンキはこう言ったのだった。
「スクアーロは、ただの仲間よ。私が愛しているのはただ一人、リボーンだけ」
「へ!?」
「さあ、訓練を始めましょう」
結局、スクアーロに対する誤解が解かれることはないまま、少女達の訓練は始められたのであった。
* * *
「はあ?オレは男は見ねぇって、これまでずっとずっと、ずぅぅぅっと!言ってんだろーが!」
「うちの一番可愛い娘からの頼みなのですが」
「じゃあ何で、そのかわいこちゃんはここにいないんだよ」
「貴方の側に近付けたら、何をされるかわかりませんから」
「じゃーオレやんない!かわいこちゃん相手じゃなきゃ絶対やんない!」
ポリポリと頬を掻き、木吉は目の前で行われている攻防を眺めていた。
何だか胡散臭い白衣の男と、スクアーロの部下だという若い男。
何でも、まずは腕の良い医者に見てもらってから、リハビリを始めた方が良い、とのことでここへ来たのだが、かれこれ30分はこの調子である。
困ったようにヴァリアーの男を見上げると、相手もまた困ったように顔をしかめて、白衣の男に詰め寄る。
「うちの隊長直々のご指名なのです。受けていただかないと、我々も困る」
「そりゃーさー、オレだってしたくない訳じゃねーぜ?でもなー、いくらアイツの頼みでもさぁ、相手が男じゃーなぁ」
「……何が望みだ」
「んー?」
「希望があるなら聞く」
「むっふふふ、わかってんじゃねーの」
白衣の男が、机からごそごそと紙袋を取り出すと、それを男に渡し、耳元で何かを囁いた。
男は物凄く嫌そうな顔をしながらも、渋々とそれを受け取る。
「……私からは、頼むだけしか出来ませんよ」
「アイツならぜってーやってくれんね」
「……だから、あんたは嫌いなんだ」
「はーっはっはっはー!いやー楽しみだな!おいボーズ、膝ぁ見てやるから、こっちこい!」
「え?は、はい!」
ふざけた男ではあった、が、スクアーロが頼るだけあって、治療の腕は確からしい。
数日後には、木吉の手術が行われることが決まった。
「くっそ!んなこたぁわかってんだよ!」
「もう一度だぁ!立て!」
鬼軍曹だ……。
青峰を引き摺り立たせて、再び訓練を始めたスクアーロを見て、黒子は息も絶え絶えになりながら、そう思う。
自分の周囲を見回せば、同じようにへとへとになって、無様に床に転がっている仲間達がいる。
訓練を始めて、一時間と少し。
体力お化けである青峰以外の全員が、その過酷な訓練に付いていけずに、揃いも揃って、床と仲良くするはめになっていた。
唯一残っている青峰も、額には滝のように汗が伝い、ウェアも汗で湿って肌に張り付いている。
だが、青峰の前でナイフを振るうスクアーロは、未だに汗1つかかずに、涼しげな顔で立っていた。
自分達よりもずっと厚着をしているのにも関わらず、彼は元気一杯の様子である。
「もっと重心を低くしろぉ!バスケの試合と変わらねぇ。敵の動きを見て隙をつけ!無駄な動きを少しでも減らせぇ!う"お"ぉい脱落者どもぉ!てめぇらもへばってねぇで、青峰の動きを見るくらいしろぉ!」
「う……うっす!」
「!青峰君後ろ!」
「うおっと!あぶねぇ!」
スクアーロの声になんとか体を起こし、青峰の動きを見る。
あんな動き、どう考えたって自分には無理だ。
だがそんな青峰を更に上回る動きで、スクアーロがその長い脚を鞭のように振るう。
それを避けた青峰が、壁に近付いた。
逃げ場がなくなる前に、慌てて声を掛ける。
スクアーロが横に振ったナイフを避けて、青峰が前に転がり、窮地を脱する。
「……ふん、良いじゃねぇかぁ。なら今度は、こっちだぁ!」
「なっ!うぉお!?」
パンっ!という乾いた音に、へばっていた者達もハッとして顔を上げる。
青峰の米神を掠めていったのは、真っ赤なインクの入ったペイント弾で、全員の視線の先にいるスクアーロは、にったりと笑う。
その手の中には、黒光りする拳銃が収まっていた。
「と、飛び道具は狡いだろ!」
「敵が必ずナイフで来るわけがねぇだろうがぁ!今のうちに様々な武器に慣れておけぇ!近距離、中距離、遠距離のそれぞれの武器に慣れてきたら、そん時には炎の使い方を教えてやる!」
「ぐ……んの野郎!」
「う"ぉい!てめぇらも十分休んだだろうがぁ。そろそろ立て!インクまみれにするぞぉ!」
「わー!タンマタンマ!」
立てと言い終わるが早いか、スクアーロは床にへばりついていた男どもに向けて、もう1つ拳銃を取りだし、引き金を引いた。
ダパン!と音を立てて、壁にインクの染みが出来る。
まるで誰かが殺された後のようだ。
「というか!桃っち達はどうしてんスか!?」
「さっき、やたら色っぽいおねーさんに連れてかれてから、一回も戻ってきてねーよな!?」
「木吉もだな。まああいつはリハビリから始めなきゃだし仕方ねーけど」
「カントク達もきっと頑張ってるんです。僕達もがんば」
言葉の途中で、黒子の肩でペイント弾が弾けた。
真っ赤に染まって倒れる様子は、かなり臨場感がある。
「黒子っちー!」
「黒子ぉ!体力ない奴が余所見して話してんじゃねぇ!」
「そもそもテツヤを簡単に見つけて、尚且つ躊躇なく弾丸を当てる、貴方の方が異常なんですよ!」
「口答えしてんな赤司ぃ!てめぇも撃つぞお"らぁ!」
「もうただの虐殺犯じゃねーか!」
「さ、先が思いやられるのだよ……」
「う……お腹減った……ぐえ」
「敦ー!」
彼らの訓練は、まさに阿鼻叫喚の様相を呈している。
15分後、全員を綺麗に赤く染め上げたスクアーロは、やれやれと首を振ったのだった。
「ま、初日はこんなもんだろぉ」
明日からはどうなってしまうのか。
少年達は頭を抱えることも出来ずに、ぐったりと横たわるばかりであった。
* * *
「えっと……」
「私はビアンキ。今日から貴女達の師匠になるのよ」
「は、はあ……」
色っぽいおねーさん、こと、毒蠍ビアンキは、目の前に並ぶ二人の少女に自己紹介をしながら、ふうっとアンニュイにため息を吐いた。
今日の朝、任務で外出する獄寺に弁当を渡そうと、アジト内を歩いていたビアンキを、スクアーロが突然呼び止めた。
いわく、今このアジトに匿ってる少女達二人に、自衛手段を叩き込んで欲しい、とのことだった。
だが、ビアンキはあくまで暗殺者。
人を鍛えたことなどほぼない上、素人に教えられるような自衛の方法など、持ち合わせていない。
それでも、どうしてもと頼み込んできた彼女に、断ることもできず、結局彼女達を押し付けられてしまったのだった。
それに、困ったことはもう1つ。
「ビアンキさんって……えっと、スクアーロさんとはどういう関係なんですか?」
キラキラと目を輝かせて聞いてきた少女に、ビアンキは困ったように眉をひそめる。
自分の愛しい人は、リボーンただ一人。
それにスクアーロは女なのだから、彼女らの期待するような答えは出てこない。
考えた結果、ビアンキはこう言ったのだった。
「スクアーロは、ただの仲間よ。私が愛しているのはただ一人、リボーンだけ」
「へ!?」
「さあ、訓練を始めましょう」
結局、スクアーロに対する誤解が解かれることはないまま、少女達の訓練は始められたのであった。
* * *
「はあ?オレは男は見ねぇって、これまでずっとずっと、ずぅぅぅっと!言ってんだろーが!」
「うちの一番可愛い娘からの頼みなのですが」
「じゃあ何で、そのかわいこちゃんはここにいないんだよ」
「貴方の側に近付けたら、何をされるかわかりませんから」
「じゃーオレやんない!かわいこちゃん相手じゃなきゃ絶対やんない!」
ポリポリと頬を掻き、木吉は目の前で行われている攻防を眺めていた。
何だか胡散臭い白衣の男と、スクアーロの部下だという若い男。
何でも、まずは腕の良い医者に見てもらってから、リハビリを始めた方が良い、とのことでここへ来たのだが、かれこれ30分はこの調子である。
困ったようにヴァリアーの男を見上げると、相手もまた困ったように顔をしかめて、白衣の男に詰め寄る。
「うちの隊長直々のご指名なのです。受けていただかないと、我々も困る」
「そりゃーさー、オレだってしたくない訳じゃねーぜ?でもなー、いくらアイツの頼みでもさぁ、相手が男じゃーなぁ」
「……何が望みだ」
「んー?」
「希望があるなら聞く」
「むっふふふ、わかってんじゃねーの」
白衣の男が、机からごそごそと紙袋を取り出すと、それを男に渡し、耳元で何かを囁いた。
男は物凄く嫌そうな顔をしながらも、渋々とそれを受け取る。
「……私からは、頼むだけしか出来ませんよ」
「アイツならぜってーやってくれんね」
「……だから、あんたは嫌いなんだ」
「はーっはっはっはー!いやー楽しみだな!おいボーズ、膝ぁ見てやるから、こっちこい!」
「え?は、はい!」
ふざけた男ではあった、が、スクアーロが頼るだけあって、治療の腕は確からしい。
数日後には、木吉の手術が行われることが決まった。