if群青×黒子、違う世界の人たち

「う"お"ぉい、ドカスどもぉ。とっとと食うもん食って地下9階の運動場まで来い」
「は?」
「なぜオレ達が貴様の指示に従わなくてはならないのだよ」
朝食を取っていた少年達に、スクアーロから声がかけられた。
せかせかと忙しそうに去っていったスクアーロの背に、不満げな声が浴びせられたが、それに気付くこともなくスクアーロは曲がり角を通り過ぎて消えていった。
何となく、これから行われることに心当たりのあった黒子は、目の前の朝食(理想的なお節だった)を胃に流し込んだ。
「じゃあ僕は先に行ってますね」
「え!?ちょっと待てって黒子!」
「テツ待てよ!オレも行く!」
「オレも行くっス!」
「私も一緒に行く!」
「よっし、ごっそーさん!オレらも行こーぜ日向、伊月!」
「おー、今行く」
「はっ、マイクさん今行く。キタコレ!」
「来てないわよ」
「ふむ、ではオレ達も行こうか」
「オレまだ食ってんだけど」
「根武谷は食い過ぎなんだって!」
「ほら、黛さんも行きましょう?」
「……はあ」
「敦、僕達も行こう」
「このまいう棒食ったらね」
「まったく、何故保護されているオレ達が……」
「まあまあ、保護されてんだからちょっとぐらいは向こうの言うこと聞こうぜ!」
黒子が動き出したのを切っ掛けに、全員が動き出した。
その様子を周囲にいたヴァリアー隊員が、生暖かい目で眺めていることには誰も気がついていない。
元日、朝。
いつもよりもゆったりとした自警団の一日が始まろうとしていた。


 * * *


彼らが集合した運動場は、だだっ広く、障害物のひとつもない鉄の箱のような場所だった。
その中でスクアーロは、二人ずつで組んで拳をぶつけ合っている大量の部下の前に立って、その全体を眺めていた。
どうやらヴァリアーの訓練中らしい。
「あの、スクアーロさん……?」
「……お"う、全員揃ってんなぁ?」
「はい」
「では、これからお前達に課す訓練について説明を行う」
「は?……はあ!?」
「く、訓練って!?」
「どういうこと?訓練って一体……」
背中を向けたまま話していたスクアーロは、ようやく振り返ると黒子に視線を向けた。
てめぇ話してなかったのか、という責めるような視線を感じ、てへっと舌を出した。
いやまさか、本当に元旦から訓練が始まるだなんて思ってなかった。
何よりあれだけ嫌がってたくせに、思いの外行動が早い。
「皆さんすみません、僕が彼にお願いしたんです」
「黒子、お前が?」
「お願いってどういうことなのかしら?」
「あの炎の扱い方と、敵に遭遇したときの対処法を教えてほしいと頼みました」
「……ほう、なるほど。それは良いアイデアだなテツヤ」
頷いた赤司に黒子も頷き返し、もう一度スクアーロに視線を向ける。
ため息を吐いたスクアーロは、黒子の言葉を捕捉する。
「沢田からも面倒を見ろと言われている。暫くは仕事も休むようにと指示されているし、お前らの訓練に付き合うことにしたぁ」
「よろしくお願いします、スクアーロさん」
頭を下げた黒子に習い、周りの者も慌てて頭を下げる。
しかし数人は不満げに突っ立っていたり、興味無さそうにそっぽを向いていた。
スクアーロはその様子を気にすることはせずに、近くの部下に持っていたボードを渡すと、くるりと振り返った。
いつの間にか、その腕にはしっかりと義手が嵌め込まれている。
「まず、本日はまず始めにリングに炎を灯してもらう。それが出来たら戦闘訓練だぁ。ま、攻撃の回避方法が中心になるがなぁ」
「……って!今日中にに炎を出す!?」
「僕はもう出来てます」
「どや顔してるテツくんカッコいい!」
「ちょっと、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?昨日まったく炎が出る気配なんてなかったのに、いきなりやれって言われて出来るわけないじゃない!」
「そぉよ!征ちゃんとかならともかく、私達が出来るとはとても……」
ブーイングの嵐。
それに対してスクアーロは、バカにしたように鼻で笑いながら言った。
「なんだぁ?この程度も出来ねぇとは、天才もたかが知れてるなぁ」
「……あ"?」
「覚悟さえあるなら、炎は誰でも点せる。オレは覚悟のないカスを一から面倒見て育ててやる程暇じゃねぇんだ」
「……スクっち、オレらのことあんまりなめないでほしいっス」
「はは、まあやるだけやってやろうぜ日向、伊月、監督。黒子にだって点せたんだ。オレらが出来ない理由はない」
「おう、さすがに今のはカチンと来たし。見ててくださいよ、スクアーロさん」
「はっ!期待しねぇで待っててやるよ」
覚悟、とまでは行かないが、彼らの瞳には確実に火がついた。
端に寄せて炎がつくまで粘ってろ、と指示し、再び部下からボードを受けとる。
彼らなら、間違いなく炎を点すだろう。
そのつもりで、今後の予定を考えていた。
敵からの攻撃の回避方法、と一言に言っても、敵はそれこそ千差万別。
短い期間で、それにどれ程対応させられるだろうか。
仲間達の訓練の合間に、じっくりと計画を練っていく。
元旦だからとサボっている暇はない。
敵がいつ攻撃を仕掛けてきてもおかしくない今、出来ることは全てやらなければならない。
細かく字の書かれた紙に向かって、スクアーロは難しげに唸った。
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