if群青×黒子、違う世界の人たち

「見ていてくださいボォオス!!」
「それ一気!一気!一気!一気!」
「ぬおおお‼」
部下達に煽られ、一升瓶に入った酒を一息に飲み干したレヴィが、直後、どうっと床に崩れ落ちた。
その様子を見ていたスクアーロは、ため息を吐きながらレヴィを足蹴にする。
「う"ぉい酔っ払い。てめぇ寝るなら端で寝てろぉ」
「しし、落書きしてやろうぜ」
「するな阿呆」
「僕は財布を盗ってしまおうかな」
「盗るな……だぁー!もう!テメーら騒ぐのは良いがもう少し他人の迷惑を考えろドカスどもぉ!」
「隊長が楽しめと言ったんじゃないですか!まだまだ飲むぞテメーら!」
「おっしゃ任せろ!!次はテキーラだ!」
「ならオレはウォッカでいくぞ!」
「オレぁ大吟醸だぁ!」
「あ"ー!酒くせぇうるせぇ邪魔くせぇぞてめぇらぁ!」
罵ったり罵られたり、殴ったり蹴られたり。
騒ぎながらもヴァリアーの乱痴気騒ぎは、遠目には酷く楽しそうに見える。
離れた場所でそれを眺めて、黒子はジュースを一口飲む。
狂暴でいて、しかしどこか憎めない彼ら。
その空気を作っているのは、きっといつも中心にいるスクアーロなのだろう。
不思議な人だ。
彼は確かにマフィアで暗殺者で、つい昨日までは生きていた人を殺した男なのに、目の前にある姿は、とてもアンダーグラウンドを生きる人間には見えない。
姿形はそれらしく見えなくもないが、その表情や仕草は、どこにでもいるただの若者のような印象を受ける。
「よっ、黒子。ちゃんと食ってるか?」
「山本さん……それなりに食べさせてもらっていますよ」
「『さん』って言われるとなんかむず痒いのなー。普通に呼び捨てとかで良いぜ?」
「では山本さんと呼ばせていただきます」
「変わってないぜ?」
「僕はそれが一番落ち着くので」
「ふぅん、そうなのか?」
にこにこと笑顔を絶やさず、それでいてどこか底の知れない人物。
黒子にとって、彼……山本武の印象はそんなところだ。
心を開くには、少し得体が知れない。
だが基本的には人の良い少年、といった様子で、隅の方で一人座っていた黒子を見付けて、こうして話し掛けに来てくれた。
よく見つけられたな、と思うが、すぐに思い直す。
ここの……マフィアの人達は皆、気配に聡いのか、また別の理由か、黒子を見付けることがうまいらしい。
「ここに来てまだそんなに経ってないから、基地の中とかあんまり歩けてないだろ?黒子もだけど、今度皆連れて探検しに行こーぜ!」
「……そうですね、それは名案です。まだ僕達がお会いできていない人も、たくさんいるでしょうし、挨拶をして回りたいです」
「お、じゃあ決まりだな!明日はどうせ皆仕事ないだろうし、早速皆で探検するのな!」
他の奴らも誘ってくる、と言って、山本武は席を立って走っていく。
まだ明日で良いなんて一言も言ってないのに、などと思いながら、どちらにしろ暇な黒子は一つ息を落としてジュースを啜る。
この基地のことを知れるのならば、黒子の意見が蔑ろにされたとしても悪くはない。
どうするにしろ、いつか近い内に、一人でも探索に出ようと考えていたところだ。
自警団の彼らを信用するにしろしないにしろ、ここのことを少しでも多く知っていた方がきっと都合が良い。
「はれ?黒子君、一人らの?」
「ええ、はい。それより、沢田君、酔ってませんか?」
「酔っれないよぉ!」
「完全に出来上がっちゃってますね」
山本武が離れてからさほど時間をおかず、やって来たのは沢田綱吉だった。
赤い顔と覚束ない足取り、さらに呂律も回っていない様子を見るに、誰かしらに酒を飲まされたようである。
性格的に、自分から飲むと言うことはないだろう。
きっと、たまに綱吉を殴っているところを見かける、リボーンとかいう男が犯人なのではないだろうか。
「ボスがそんな状態で大丈夫なんですか?」
「だから~、オレはボスなんかじゃないんらってばー」
「は?」
「らめツナがぼしゅになんて、なれるわけらいれしょー」
「えーと……ダメツナ、ですか?」
「そーらよ!テストは赤点!球技は必ず負け!マラソンは万年最下位~!オレなんかがぼしゅになれるわけらいんらって言ってるのにさ~!みんなしてオレのころ、まちゅりあげりゅんらもんさ~、バカらないの?」
「僕は馬鹿じゃないつもりですが」
「だいたい、マフィアとか怖いし、喧嘩は嫌いらし、怪我すんのやらし……オレはただ普通に過ごしてたいのにぃ~」
「……君にも、色々あったみたいですね」
酔っているせいか、綱吉は聞かれてもいないことをしゃべり、ソファーに突っ伏したまま、不満げに唸っている。
黒子の脳裏には、キメラに襲われる前に彼が言った言葉が蘇っていた。
ーーオレも、昔同じようなことを思ったことがあるから……
例えどんな特別な力を持っていたって、はじめから好きでそれを使う人なんていない。
好きで使う人がいるのなら、きっとその人はどこかの段階で壊れてしまったのだろう。
彼らだって、好きでこんな場所に立っている訳じゃない。
失いたくないもののために、日常を守るためにここにいる。
ぐでぐでになっている綱吉の体を引きずって、楽な格好に座らせてやる。
「警戒ではなく、敵意ではなく、あなた達の事を知りたいと、今はそう思います」
全員が全員、お人好しで無条件に良い人という訳ではない。
警戒すべき人間は確かにいる。
それでも、少なくとも綱吉の事は、信用できるのかもしれない。
だからこそ知りたい。
どうしてここにいるのか、これからどう戦うのか。
自分達には、何が出来るのか。
「沢田君、僕達にだって、守りたいものがたくさんあるんです」
「うん?」
「だから、力になれたら、僕達も戦うことが出来たなら、そう思います」
「……流石は、黒子くんだよ」
寝ぼけ眼でそう返されて、柄にもなく苦笑した。
その瞬間の事だった。
パンツのポケットから、ほんのりと光が漏れる。
ハッとして中のものを取り出した。
「リングが……燃えてる……」
藍色の小さな光が、シルバーのリングに灯っている。
スクアーロが見せたものに比べれば、いささかサイズは小さかったが、そこには確かに、力強い炎があったのだった。
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