if群青×黒子、違う世界の人たち
「もう!オレ達ユニが本当に捕まっちゃったんだと思って、スッゴい驚いたんだからね!?」
「ふふ、一度やってみたかったんです、ああいうの!」
ぷりぷりと怒る綱吉と、その横で上機嫌に笑うユニ。
元アルコバレーノ達は始めに行った茶番とは裏腹に、忘年会の準備はきちんと進めていたらしく、テーブルの上には数々の料理が所狭しと並べられている。
今日は12月31日、日本では大晦日。
ボンゴレ自警団の面々と、キセキの世代をはじめとするバスケ少年達は、元アルコバレーノの用意した忘年会を楽しんでいるようだった。
「おい」
「あ"?」
そんな中、一人の男が、スクアーロに話し掛けた。
緑間真太郎、キセキの世代でも随一の得点力を誇るシューター。
彼は、これ以上ないというほど不機嫌そうな顔をして、椅子に腰掛けて寛ぐスクアーロを遥か高みから見下ろしている。
「貴様は何も食わないのか」
「……そうだなぁ。何か食うかぁ」
「何を食う」
「は?」
「何を食いたいのかと聞いているのだよ」
「……取ってきてくれんのかぁ?」
「ふん、貴様の世話をするなど不本意極まりないが、怪我人を動かすのは更に不本意なのだよ」
「ふっ……ありがとなぁ」
「なっ……!オレはただ貴様が無理に動いて倒れたりされるのが面倒なだけなのだよ!何より、貴様がどんなに嫌いだろうと、命を守られたのは確かなのだよ。これはただ借りを返すだけのことだ。礼などいらん!」
「そうかそうか……じゃあサラダと肉、適当に取ってきてくれよ」
「くっ……!勘違いをするなよ、これは貴様に借りを返してやっているだけで、それ以上でもそれ以下でもないのだからな!」
「はいはい」
今日、彼らが部屋に入ってきたときには、まだどこか、動きや表情に固さがあった。
だが今は、少しは薄れたように見える。
スクアーロはイライラと背中だけ見てもわかるほどに険悪な空気を醸し出す緑間を見送り、短い左腕をさする。
しばらくそうしていたが、隣に人の気配を感じて、顔をあげた。
「えーっと……腕、痛みますか?」
「相田……。いや、大したことねぇが。そっちはどうかしたのかぁ?」
「え?いや、私は……ちょっと気になって。スクアーロさん、は……あの人達の中に行かないんですか?」
スクアーロの隣に腰掛けたのは、誠凛高校バスケ部を率いる相田リコで、心配そうに尋ねてきた彼女に、スクアーロは肩を竦める。
「安静にしてろって言われてるしなぁ」
「それはそうですけど……」
「それに、今はあまり騒ぎたい気分じゃあねぇしな」
「あ……」
元アルコバレーノ達と、酒を飲み干して騒ぐヴァリアー隊員達、それを見ながら笑う綱吉達の中に入っていけるほど、精神的にも、体力的にも回復していない。
しまった、と顔を歪めたリコに、スクアーロは軽く笑って右手で彼女の頭を撫でる。
「優しいな、お前らは」
「え、……え!?」
「オレは謂わば人殺しだろう。普通はもっと蔑むし、忌み嫌う。それにもっと、怖がるもんだろぉ」
「いたっ!」
「お前ら、全然怖がらねぇんだもんよぉ。オレの方が驚いたぜぇ」
リコの額を軽く小突いて、スクアーロは目を細めた。
いくら天才だろうとも、彼らは普通の世界で生きる子どもだ。
部屋に入ってきた瞬間、大して怖がる様子もなく自分に近付いてきたことに、スクアーロは内心かなり驚いていた。
リコは涙目でスクアーロを睨みながら、その理由を話す。
「……実は、あなたの部屋に行く前に、一度カミラさんに会ったの」
「なっ……」
「会ったって言っても、もちろん相手は死んでるし、ただ手を合わせに行ったって言う方が正しいのかも知れないけれど。でも、彼女の顔、とても幸せそうに微笑んでいたわ」
「……カミラが?」
「ええ、満足したって感じの幸せそうな笑顔だったの。あなたは、この笑顔の為に戦ったのかなって、そう思ったら、怖いって気持ちにはなれなかった」
「……」
きっと、綱吉が連れていったのだろう。
そう想像をしながら、幸せそうに笑うカミラを思い浮かべる。
必死に戦っていたせいで、彼女がどんな顔をして死んだかすら、見ることは叶わなかった。
だが、本当に笑って死ねたと言うのなら、少しだけ、安心できる。
「良かった……」
ポツリと落とされた言葉と、泣きそうな横顔を見て、リコは一瞬どきりとする。
スクアーロを怖がらなかったのは、きっとカミラの顔を見たからだけではない。
一人の命に、ここまで真剣に向かい合うスクアーロを見たからこそ、今までと同じように接することが出来たのだろう。
「……珍しい組み合わせなのだよ」
「あら?緑間君じゃない」
ふと、リコの視界に影が射し込む。
戻ってきた緑間の長身が、光を遮っていた。
「お"う、食いもん持ってきてくれたんだろぉ?ありがとなぁ」
「だから礼はいらないと……チッ、もういい、さっさと食って部屋で寝てるのだよ」
「くく……お前、案外面倒見いいんだなぁ?」
「誰がだ!」
彩り良く料理を盛った皿を受け取り、嬉しそうに笑う。
先程部屋にいたときより少し幼く見えるのは、カミラの話を聞いたからだろうか。
穏やかな時間が流れる。
だがそれを放っておけない奴らがいた。
「ふっ、カオス……じゃあねーな。もっと楽しみやがれお前ら」
「げっ、リボー……うぶっ!?」
「もぉー、スクちゃんたらいつまで沈んでんのさ♪空気読んでもっと盛り上がらないと!」
「白蘭……お前酔ってんのかぁ!?」
「んふふ~♪今日は飲むんだからね~♪」
「飲むな!てめぇ未成年だろうがぁ!!」
にわかに騒がしくなる会場に、スクアーロもまた、ため息をつきながらもスッキリとした表情をしていた。
完全に立ち直ったわけではなくとも、仲間と一緒に騒ぐ程度の元気は出たらしい。
そして……。
「スクアーロ!」
「スクアーロさん!聞いてください!!やったんです!僕達ついにやりました!」
「ベル、入江……お前らが来たってことは、まさか……!」
どばんとドアを開けて、突然飛び込んで来た二人を見て、スクアーロがさっと真剣な顔付きに戻る。
息を切らす入江を引っ張りあげて、ベルがスクアーロの前に走り寄る。
いつもよりも一層ニコニコと笑うベルが、自慢げに胸を張った。
「仕事全部終わらせたぜ!」
「……あ、そっちかぁ。ありがとなぁ、助かった」
「しし、あとキメラにされたアホ隊員どもが元に戻ったぜ」
「そっちが本命だろうがぁ!何ついでみたいな言い方してやがるアホ!」
「いて!」
ぽこんっと頭を殴られたベルの横で、入江もようやく復活する。
スクアーロの手を握り締めて、興奮したように喋り始めた。
「ワクチンが完成したんです!カ、カミラさんが持っていた原液を解析して……ついに!ついにキメラ化を解除することが出来たんです!!」
「そうか……本当に!」
「本当に本当にです!皆さん、今は休んでますけど、意識もしっかりしていて、もう大丈夫ですよ」
「良くやった入江……!流石だな……!」
周りの者達が圧倒される中、喋り倒す入江の肩に手を置き、一瞬泣きそうな顔をしたスクアーロは、少し掠れた声で呟く。
うつ向き気味になっていた顔を上げて、見守っていた仲間達の方へと振り返ったとき、その表情はいつものように凛として、そしていつも以上に凄みのある笑顔を浮かべていた。
「う"お"ぉい野郎共ぉ!吉報だぁ!仲間達が戻ってきたぞぉ!!」
その大声に、何人かは驚いてびくりと肩を震わせる。
しかしその周りで、ヴァリアーの隊員達が雄叫びをあげた。
波を打つような轟く声の群れを前にしても、スクアーロの声ははっきりと響く。
「失った仲間と、戻ってきた仲間がいる!だがぁ!オレ達は立ち止まらん!その為にも、今日は飲め!食え!楽しみやがれぇ!!ヴァリアー作戦隊長じきじきの命令だぁ!」
『任せてください』と、『死ぬ気で楽しむぞ』と、叫ぶように答える隊員達が、酒の前に雪崩れ込む。
それを呆然と眺める入江の頭に、ぽふりと手が乗せられた。
続けて、その手がベルフェゴールの頭に移り、優しく叩く。
「お前らも、良くやった。良くやってくれたぁ……」
ほんの少しだけ湿った声に、二人はにへっと口元を緩める。
「しし、当たり前だろ、オレは王子なんだからな!」
「科学の勝利ってやつですよ!さ、スクアーロさんも一緒に騒ぎましょう!」
「あ、いやオレは元に戻った奴らんとこに……」
「んなの後からいくらでも見に行けんだろ。行くぜアホアーロ!」
「う"おっ!おい!?」
ベルに引きずられ、スクアーロもまた強制的にパーティーに引きずり込まれる。
その日は、夜が更けてもまだ、その賑やかさが止むことはなかった。
「ふふ、一度やってみたかったんです、ああいうの!」
ぷりぷりと怒る綱吉と、その横で上機嫌に笑うユニ。
元アルコバレーノ達は始めに行った茶番とは裏腹に、忘年会の準備はきちんと進めていたらしく、テーブルの上には数々の料理が所狭しと並べられている。
今日は12月31日、日本では大晦日。
ボンゴレ自警団の面々と、キセキの世代をはじめとするバスケ少年達は、元アルコバレーノの用意した忘年会を楽しんでいるようだった。
「おい」
「あ"?」
そんな中、一人の男が、スクアーロに話し掛けた。
緑間真太郎、キセキの世代でも随一の得点力を誇るシューター。
彼は、これ以上ないというほど不機嫌そうな顔をして、椅子に腰掛けて寛ぐスクアーロを遥か高みから見下ろしている。
「貴様は何も食わないのか」
「……そうだなぁ。何か食うかぁ」
「何を食う」
「は?」
「何を食いたいのかと聞いているのだよ」
「……取ってきてくれんのかぁ?」
「ふん、貴様の世話をするなど不本意極まりないが、怪我人を動かすのは更に不本意なのだよ」
「ふっ……ありがとなぁ」
「なっ……!オレはただ貴様が無理に動いて倒れたりされるのが面倒なだけなのだよ!何より、貴様がどんなに嫌いだろうと、命を守られたのは確かなのだよ。これはただ借りを返すだけのことだ。礼などいらん!」
「そうかそうか……じゃあサラダと肉、適当に取ってきてくれよ」
「くっ……!勘違いをするなよ、これは貴様に借りを返してやっているだけで、それ以上でもそれ以下でもないのだからな!」
「はいはい」
今日、彼らが部屋に入ってきたときには、まだどこか、動きや表情に固さがあった。
だが今は、少しは薄れたように見える。
スクアーロはイライラと背中だけ見てもわかるほどに険悪な空気を醸し出す緑間を見送り、短い左腕をさする。
しばらくそうしていたが、隣に人の気配を感じて、顔をあげた。
「えーっと……腕、痛みますか?」
「相田……。いや、大したことねぇが。そっちはどうかしたのかぁ?」
「え?いや、私は……ちょっと気になって。スクアーロさん、は……あの人達の中に行かないんですか?」
スクアーロの隣に腰掛けたのは、誠凛高校バスケ部を率いる相田リコで、心配そうに尋ねてきた彼女に、スクアーロは肩を竦める。
「安静にしてろって言われてるしなぁ」
「それはそうですけど……」
「それに、今はあまり騒ぎたい気分じゃあねぇしな」
「あ……」
元アルコバレーノ達と、酒を飲み干して騒ぐヴァリアー隊員達、それを見ながら笑う綱吉達の中に入っていけるほど、精神的にも、体力的にも回復していない。
しまった、と顔を歪めたリコに、スクアーロは軽く笑って右手で彼女の頭を撫でる。
「優しいな、お前らは」
「え、……え!?」
「オレは謂わば人殺しだろう。普通はもっと蔑むし、忌み嫌う。それにもっと、怖がるもんだろぉ」
「いたっ!」
「お前ら、全然怖がらねぇんだもんよぉ。オレの方が驚いたぜぇ」
リコの額を軽く小突いて、スクアーロは目を細めた。
いくら天才だろうとも、彼らは普通の世界で生きる子どもだ。
部屋に入ってきた瞬間、大して怖がる様子もなく自分に近付いてきたことに、スクアーロは内心かなり驚いていた。
リコは涙目でスクアーロを睨みながら、その理由を話す。
「……実は、あなたの部屋に行く前に、一度カミラさんに会ったの」
「なっ……」
「会ったって言っても、もちろん相手は死んでるし、ただ手を合わせに行ったって言う方が正しいのかも知れないけれど。でも、彼女の顔、とても幸せそうに微笑んでいたわ」
「……カミラが?」
「ええ、満足したって感じの幸せそうな笑顔だったの。あなたは、この笑顔の為に戦ったのかなって、そう思ったら、怖いって気持ちにはなれなかった」
「……」
きっと、綱吉が連れていったのだろう。
そう想像をしながら、幸せそうに笑うカミラを思い浮かべる。
必死に戦っていたせいで、彼女がどんな顔をして死んだかすら、見ることは叶わなかった。
だが、本当に笑って死ねたと言うのなら、少しだけ、安心できる。
「良かった……」
ポツリと落とされた言葉と、泣きそうな横顔を見て、リコは一瞬どきりとする。
スクアーロを怖がらなかったのは、きっとカミラの顔を見たからだけではない。
一人の命に、ここまで真剣に向かい合うスクアーロを見たからこそ、今までと同じように接することが出来たのだろう。
「……珍しい組み合わせなのだよ」
「あら?緑間君じゃない」
ふと、リコの視界に影が射し込む。
戻ってきた緑間の長身が、光を遮っていた。
「お"う、食いもん持ってきてくれたんだろぉ?ありがとなぁ」
「だから礼はいらないと……チッ、もういい、さっさと食って部屋で寝てるのだよ」
「くく……お前、案外面倒見いいんだなぁ?」
「誰がだ!」
彩り良く料理を盛った皿を受け取り、嬉しそうに笑う。
先程部屋にいたときより少し幼く見えるのは、カミラの話を聞いたからだろうか。
穏やかな時間が流れる。
だがそれを放っておけない奴らがいた。
「ふっ、カオス……じゃあねーな。もっと楽しみやがれお前ら」
「げっ、リボー……うぶっ!?」
「もぉー、スクちゃんたらいつまで沈んでんのさ♪空気読んでもっと盛り上がらないと!」
「白蘭……お前酔ってんのかぁ!?」
「んふふ~♪今日は飲むんだからね~♪」
「飲むな!てめぇ未成年だろうがぁ!!」
にわかに騒がしくなる会場に、スクアーロもまた、ため息をつきながらもスッキリとした表情をしていた。
完全に立ち直ったわけではなくとも、仲間と一緒に騒ぐ程度の元気は出たらしい。
そして……。
「スクアーロ!」
「スクアーロさん!聞いてください!!やったんです!僕達ついにやりました!」
「ベル、入江……お前らが来たってことは、まさか……!」
どばんとドアを開けて、突然飛び込んで来た二人を見て、スクアーロがさっと真剣な顔付きに戻る。
息を切らす入江を引っ張りあげて、ベルがスクアーロの前に走り寄る。
いつもよりも一層ニコニコと笑うベルが、自慢げに胸を張った。
「仕事全部終わらせたぜ!」
「……あ、そっちかぁ。ありがとなぁ、助かった」
「しし、あとキメラにされたアホ隊員どもが元に戻ったぜ」
「そっちが本命だろうがぁ!何ついでみたいな言い方してやがるアホ!」
「いて!」
ぽこんっと頭を殴られたベルの横で、入江もようやく復活する。
スクアーロの手を握り締めて、興奮したように喋り始めた。
「ワクチンが完成したんです!カ、カミラさんが持っていた原液を解析して……ついに!ついにキメラ化を解除することが出来たんです!!」
「そうか……本当に!」
「本当に本当にです!皆さん、今は休んでますけど、意識もしっかりしていて、もう大丈夫ですよ」
「良くやった入江……!流石だな……!」
周りの者達が圧倒される中、喋り倒す入江の肩に手を置き、一瞬泣きそうな顔をしたスクアーロは、少し掠れた声で呟く。
うつ向き気味になっていた顔を上げて、見守っていた仲間達の方へと振り返ったとき、その表情はいつものように凛として、そしていつも以上に凄みのある笑顔を浮かべていた。
「う"お"ぉい野郎共ぉ!吉報だぁ!仲間達が戻ってきたぞぉ!!」
その大声に、何人かは驚いてびくりと肩を震わせる。
しかしその周りで、ヴァリアーの隊員達が雄叫びをあげた。
波を打つような轟く声の群れを前にしても、スクアーロの声ははっきりと響く。
「失った仲間と、戻ってきた仲間がいる!だがぁ!オレ達は立ち止まらん!その為にも、今日は飲め!食え!楽しみやがれぇ!!ヴァリアー作戦隊長じきじきの命令だぁ!」
『任せてください』と、『死ぬ気で楽しむぞ』と、叫ぶように答える隊員達が、酒の前に雪崩れ込む。
それを呆然と眺める入江の頭に、ぽふりと手が乗せられた。
続けて、その手がベルフェゴールの頭に移り、優しく叩く。
「お前らも、良くやった。良くやってくれたぁ……」
ほんの少しだけ湿った声に、二人はにへっと口元を緩める。
「しし、当たり前だろ、オレは王子なんだからな!」
「科学の勝利ってやつですよ!さ、スクアーロさんも一緒に騒ぎましょう!」
「あ、いやオレは元に戻った奴らんとこに……」
「んなの後からいくらでも見に行けんだろ。行くぜアホアーロ!」
「う"おっ!おい!?」
ベルに引きずられ、スクアーロもまた強制的にパーティーに引きずり込まれる。
その日は、夜が更けてもまだ、その賑やかさが止むことはなかった。