if群青×黒子、違う世界の人たち

「むっ!ふんぐぐぐぐ……!」
「うおおおおお!!」
「ほんぬああああ!!!」
「……いや、そんな力んでも出ねぇよ。炎ってのは自分の覚悟とか誇りとかを懸けて扱うものだからだな……」
「いや、そんなん言われても全然わからないですから!」
白蘭の持ってきたCランクのリングを使って、炎を灯そうと必死に力む少年達。
もちろん死ぬ気の炎の原動力は覚悟であり、ただ力を込めるだけでは炎を灯すことは出来ない。
「覚悟とか誇りとかって……例えば具体的にどういう事を考えれば良いんでしょう」
「あ"?そうだな……。炎ってのはそもそも、戦うための武器だぁ。だから覚悟もまた、戦いの理由だったり、目的と関わってきたりする」
「戦いの理由、ね……。スクアーロさんはどんな覚悟で戦っているんですか?」
「……オレは……」
その質問に、スクアーロは一瞬口を閉じる。
あまり進んで答えたくはない質問だった。
スクアーロにとっての炎を灯すための覚悟と言うのは、例えばXANXUSだったり、ヴァリアーの仲間だったり、過去の罪だったり、守りたい生活だったり……。
そんな、出会って間もない少年達に語るには、少し抵抗のあること、なのだ。
「……そうだな、大切な人達の事を考えて、炎を灯すかな」
結局そんな、当たり障りのない返答をした。
難しい顔で悩む少年達は、それでも一応参考にはなったらしく、再び炎を灯そうとリングを指にはめる。
「スクアーロさんの大切な人って……やっぱり恋人ですか!?」
「は?」
しかし炎をともす作業に戻ったのは全員ではなく、桃井と相田は興味津々といった表情で、スクアーロに詰め寄る。
「こ、恋人ってなぁ……」
「いるんですよね!そんなにカッコいいんだもん!」
「あったり前でしょ~!スクちゃんの恋人はねー……もがっ!」
「余計なこと喋ってんじゃねぇ!」
「えー!どんな人なんですか!?」
「言わねぇよ!」
「良いじゃないですか!クール系?可愛い系?それとも天然系とか!?」
「だから言わないって言って……」
白蘭を組み敷きながら、二人の問い掛けにイラつき気味に怒鳴った、その瞬間だった。
学校の放送と同じような、チャイムの音が部屋に流れてきた。
ーーピーンポーンパーンポーン
「なんだぁ!?」
「緊急事態かな?」
『……ふ、ふふふふ、聞こえているかボンゴレ自警団諸君!お、お前達が大切にしているアルコバレーノの姫、ユニは預かった!』
「え!?ユニちゃんが……なんで!!」
「いや……それよりもこの声って……」
「僕この声聞き覚えあるなぁ♪」
スピーカーから聞こえてきたのは、どことなく聞き覚えのある女の声である。
羞恥心を隠しきれていない声の主は、半ば自棄になっているのだろうか、怒鳴るように叫んだ。
『返してほしくば食堂まで来い!』
『きゃあー!助けてー!!』
「は、早くいかないと!」
「いや……行かなくても良いんじゃないのか……?」
『来なければソイツの恥ずかしい話をこのマイクの前で読み上げる!』
「よし、行こう」
スピーカーの脅し文句に、あっという間に意見を翻したスクアーロは、ベッドからゆっくりと立ち上がりドアに向かう。
そんなスクアーロの前に、少年達が立ち塞がる。
「だ、ダメですよ!何があるのかわからないのに、そんな体で行くなんて!」
「いや、どうせ大したことないと思うしオレは恥ずかしい話をされる方が嫌だ」
「でもさっきユニちゃんが浚われたって!」
「いや、あれ絶対演技だからな」
制止を無視して出ていくスクアーロと、戸惑いながらそれを追う彼らを追い掛け、白蘭もまた食堂へと向かったのであった。
「……にしても、一体何がしたいのかなぁ、ユニちゃん達は」


 * * *


武器を携行することもなく、特に警戒することもなく食堂へと向かうスクアーロに、その背中を戸惑いながらも追う少年達。
スクアーロが食堂へ踏み込んだ瞬間、その米神に黒光りする銃口がひたりと当てられた。
「ちょ……!スクアーロさん!!」
「安心しろぉ、仲間だ」
「……ふん、オレ達が裏切ったという可能性は考えなかったのか?」
「お前らなら人質なんぞ取らないでも、このアジトくらいすぐに制圧できるだろぉ」
「ふっ……、それもそうだな」
ハラハラと見守る彼らの前で、スクアーロは大して動揺することもなく、銃口を向けてきた相手を横目で眺めた。
相手の方も、本気で撃つ気もなかったようで、大人しく武器を下ろして片頬を上げた。
「ふん、随分となつかれたな、スペルビ・スクアーロ」
「あ"?」
「沢田から話を聞いている。こいつらの前で暴れて、ドン引きされたんだったか?」
「……まあ、なぁ」
少しの間のあと、スクアーロは複雑な表情を浮かべて頷く。
綱吉は随分と簡潔な説明をしたようだ。
「そ、そんなことねぇよ!ちょっとビックリしただけだっ……す!」
「……沢田の思惑通り、溝は埋められたようだな」
「不本意ながら」
「……なんの話だ?いや、それよりもその人は……?」
親しそうな様子のその人物。
短い黒髪に、ゴツい兵装。
だがマントの中に見える身体は間違いなく女性のそれである。
そしてその声は、先程スピーカーから流れてきた声と同じもの。
「お前、さっき放送をしていた女だな。アレは一体何だったのだよ。ユニという少女に何をした?」
「お前は緑間真太郎だな。ユニにはなにもしていない。と言うより、先程のはリボーンに言われて仕方なく原稿を読んだまでだ。オレに何かをする気はない」
「……リボーン?」
「なんでも、こうでもしなければ全員集まらないだろうから、だと言っていたな」
「またアイツか……」
「?」
何を言っているのか、いまいちよくわからない。
少年達が首を傾げて不思議がっている間に、他のメンバー達も徐々に集まってくる。
そしてようやくやって来た綱吉達が、慌てた様子で話し掛けてきた。
「ちょっとラル!さっきのは何なんだよ!?」
「なんでテメーがユニを人質に取ってやがる!」
「なんかあったのか?」
「……お前ら、さっきの本気にしたのか」
「……へ?」
ラル……ラル・ミルチとスクアーロが大きなため息を吐く。
つくづく察しの悪い奴だ、とでも言いたいのだろう。
そしてそんな彼らに向けて、マイク越しの大音声が浴びせられた。
「ちゃおっス。おめーらよく集まったな」
「あ……リボーン!!」
「そんなわけで」
「ちょっ!どんなわけ!?」
「うるせーぞ、ダメツナ。そんなわけで、これからアルコバレーノ主催、ボンゴレ自警団大忘年会を開催するぞ!」
「……ぼ、忘年会?」
「忘れんじゃねー。今日は12月31日、大晦日だぜコラ!」
コロネロの声に、ようやく集まった人々は理解したらしい。
目の回るような忙しさに失念していたが、そう、今日この日は、一年の最後の日。
大晦日だったのである。
「だから忘年会って……唐突すぎるでしょー!」
綱吉のツッコミに、リボーンはただ不敵に笑って言い返すのだった。
「今日は酔い潰れるまで帰さねーからな。さあ、楽しい楽しい忘年会の始まりだぞ!」
「楽しんでいけよ、コラ!」
アルコバレーノいわく、楽しい楽しい忘年会が幕を開けたのだった。
嫌な予感を告げる超直感と、抗うことは無駄だと表情で語る元家庭教師に、綱吉は重たいため息を落としたのだった。
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