if群青×黒子、違う世界の人たち

「にしても、予想していたより遥かに元気、だな……」
「何がだぁ?」
「お前が、なのだよ。あんなボロボロの状態から、一日も経たない内によくそこまで回復したな」
赤司と緑間に言われて、スクアーロは自分の左腕を見る。
着けたら仕事をするから、という理由で、仮の義手さえ着けさせてもらえなかったため、スクアーロの左手はいつかの時と同じように、短くなったままである。
「……流石に腕は治ってないけど。晴れの炎を活用すれば、かなりの回復が望める」
「晴れの炎……?」
「かなり、邪道な方法だけどなぁ」
「その、あなた達が炎って呼んでいるもの……、それって一体なんなのかしら?」
「そう言えば、炎については何も説明してなかったね♪」
スクアーロ達がよく口にする、炎という言葉。
この基地に連れてこられてから、精神的に中々落ち着かなかった少年達と、仕事に明け暮れていた自警団。
言葉を交わす時間はそれほど多くはなく、ずっと聞きそびれたままになっていた。
幾つもの好奇の視線を受けて、渋々、スクアーロは説明を始めた。
「炎ってのは、正確には死ぬ気の炎と呼ばれているものだ。簡単に言えば、人間の生命エネルギー、精神エネルギー……覚悟の炎、と呼ぶ奴もいる」
「それって……オレ達にも使うことが出来る、ってことかい?」
「……一概にそう、とは言えねぇな。炎を扱うには、向き不向きがある」
少し興奮した様子の氷室に尋ねられて、スクアーロは淡々と返した。
向き不向き、という返答に、何人かが落ち込む。
超能力的な力を使う、なんて、男子高校生としては、いや、男としては、それこそ夢のような話だ。
「まず炎を灯す条件の一つが、属性に合ったリングだ」
「リング?」
「属性って?」
「まずは属性から説明した方が良いんじゃないかな♪」
「そうだなぁ」
興味津々に詰め寄ってくる少年達に、スクアーロはサイドデスクからメモとペンを取って説明をする。
綺麗な漢字を書き連ねながら、一つ一つの属性を解説し始めた。
「属性は基本的には全部で七属性ある。まずは雨属性。オレの属性だぁ」
少年達に見易いように、自分の指につけたリングを見せてやる。
スクアーロの指に着けられたそれは、シルバーの土台に赤い石で作られた紋章が嵌め込まれており、紋章の中の獅子の目に、青い宝石が輝いていた。
「うおー!カッコいいっスね!」
「そうかぁ?」
「これがあれば雨の炎ってのが出せるのー?」
「いや、使う人間に雨の炎と合致する波動が流れていないと出来ない。それに、このリングは精製度Aランクの激レアリング。扱うには、リングとの相性や才能がないと無理だな」
「じゃあスクアーロさんはすごく才能があるってことだな……!」
「いや……まあ、どうなんだろうな……」
キラキラとした目を木吉に向けられて、気まずそうに視線を逸らす。
それを笑った白蘭が、少年達に見えないところで脇腹をつねられた。
痛みに悶絶する白蘭を放って、スクアーロは一つ咳払いをする。
「まあオレのことは置いておけぇ。続きを説明してやる」
「はーい」
「7つの属性にはそれぞれ効果が付随してくる。雨属性の場合は、鎮静」
「ちんせい……って何だ……すか?」
「何ですか、だダアホ!鎮静ってのは……あれだ。なんか静める的な……」
「鎮静というのは、気持ちや場を静め落ち着かせることを言う」
「赤司の言う通りだなぁ。雨の炎の能力は、物質の活動を静める……正確に言えば、より停止に近付けることだぁ」
「より停止に……?」
「麻酔として敵の動きを鈍らせたり、攻撃の威力を弱めたり……色々な使い方があるな」
丁寧に説明しながら、雨という文字の横に、鎮静と書き込む。
続けて、それぞれの属性の横にその性質を書き込んでいった。
「同様に、嵐は分解、晴れは活性、雷は硬化、霧は構築、雲は増殖、そして大空が調和だぁ」
「そのどれかの波動が、オレ達の中にも流れてるってことか!?」
「どうやったらわかんだ!?」
「ふっふーん!ここは僕の出番かな♪」
得意気な顔をして出てきた白蘭に、集まってきたのは胡散臭そうな視線だった。
常に作ったような笑顔を張り付け、物騒なことばかり口にする男、という印象を持っているのだろうことは、その視線だけで十分窺える。
信用ないなぁ、などと言う様子さえ、何となく胡散臭く見える。
白蘭は懐から箱を取り出す。
「それぞれの属性はこれで調べられるよ!」
「それ、何ですか?」
「属性検査パッチ。肌に貼ると、その人のエネルギーをちょっとだけ吸って、真ん中の部分の色が変わるんだ♪みんなやってみる?」
「なんか病気になったりとか……」
「ないない♪」
「呪われたりとか……」
「流石に僕だって呪ったりは出来ないよ♪」
「……貸してみろ、オレが初めにやってやるから」
不信感をたっぷりと含んだ目で見る少年達に、白蘭は飄々と返す。
いつまでも続きそうな不毛なやり取りを見て、スクアーロが呆れたようにため息を吐いた。
そりゃまあ、白蘭のあの様子では、疑いたくもなるだろうが、このままではキリがない。
「じゃあ貼るね~」
「ん"」
袖を捲って、皮膚に直に貼り付ける。
特別痛みを感じることもなく、数秒後には丸いパッチの中央が、じわじわと青い色に染まっていった。
「わ……真っ青になったっス!」
「青は雨の炎の色だからね。それと、スクちゃんの場合は赤色と藍色も出るかな。ほら、この外側の部分」
円の外側、僅かに赤色と藍色に染まった部分が見える。
覗き込んでくる少年達に、炎と色の組合せを説明する。
「藍色は霧の炎の色、赤は嵐の炎の色だぁ。大体の人間は、一属性しか保有してないが、たまに幾つかの属性を持つ人間がいる。つっても、メインの属性以外は微弱なんだがなぁ」
「じゃあスクアーロさんは珍しいパターンなんですね」
「すっげー!レアじゃん!」
「やっぱり才能があるってことなんだな!」
「……たまたまだろ」
「なんか僕とスクちゃん、扱いの差がありすぎじゃない?」
スクアーロが実際に使うことで、不安はなくなったようで、少年達も次々に試していく。
その部屋の様子を小型の監視カメラを通して窺う、とある人物がいた。
「ふふ……どうやら楽しくやっているようですよ」
「それは良かった……。では私達も今のうちに」
「おう、さっさと片付けちまおうぜコラ!」
スクアーロの預かり知らぬところで、それは密かに進行していくのであった。
79/98ページ
スキ