if群青×黒子、違う世界の人たち

「……おはよう、みんな」
朝、食堂に集まったバスケ少年達に挨拶をする。
ポツポツと返ってくる挨拶に、綱吉は困ったような表情を浮かべた。
昨日の今日だ。
もちろん、元気が良いとは思っていなかったが、ここまで澱んだ空気を出されると、流石の綱吉も言葉を失う。
「その……沢田、おはよう」
「あ……おはよう高尾君!」
横から、高尾が緊張気味に声を掛けてきた。
昨日の事もあり、綱吉が一番心配していたのが彼だった。
だが、その心配はどうやらいらなかったようである。
「昨日……悪かった」
「え、ええ!?た、高尾君は何も悪くないでしょ!むしろオレ達の方こそごめんね?何も知らせてなかったし……怖い思いさせちゃったし……」
「……それ、本気で言ってんなら、あんたすげーお人好しだよな」
「え!?」
自分の身勝手な行動が、多くの人に迷惑をかけたと考えている高尾に対して、綱吉はそんなことを、まったく意識していなかった。
本気で混乱しているらしい綱吉に、軽く歯を見せて笑った高尾は、しかしすぐに表情を曇らせた。
「それより、さ。あの人……スクアーロさん、大丈夫だったのか?」
「スクアーロ、は……大丈夫だよ」
「……本当に?」
「……その、命に関わる怪我とかはないし、一応動き回れるくらいには、元気……かな」
「はあ!?あんだけ無茶苦茶やったのに、まさかもう動き回ってんのか!?」
突然の高尾の大声に、食堂にいた全員がばっと振り返る。
全員の視線を一身に受けた綱吉は、口の端をひきつらせながら、から笑いをしたのだった。


 * * *


『スクアーロは、たぶん最下層のラボにいると思うから、行くならそこだよ。オレ達は今日は忙しいから、行けないんだ、ごめん。でも案内に山本つけるから、……まあ気をつけてね!』
そんな綱吉の言葉に背を押され、高尾率いるバスケ部一行は、現在ラボへと向かっていた。
しかし、それにしても、と、黒子は思う。
『あの彼ら』がここまで険悪になったのは、これまでで初めて見たな、と。
「あんな人殺しのところへわざわざ行くなど……正気とは思えないのだよ」
「何度も言うけどさ、人殺しでも何でも、オレはあの人に何度も命助けられたんだ。それに対して、礼も言えないままなんてぜってー嫌だからな」
「まあまあ……二人とも落ち着くのな!」
「うるさいのだよ山本。お前とて、同じ穴の狢だ」
「あはは……」
「何がおかしい?」
「オレとスクアーロじゃ、穴の深さがまるで違うのなっ。おんなじにしちゃ、スクアーロにしつれーだ」
「……ちっ」
少し、訂正するべきかもしれない。
これまでにピリピリと殺気立った緑間真太郎は見たことがない。
彼に釣られてか、山本武までもが不機嫌そうに見える。
笑顔ではあるけれど。
「つーか、来たくないなら来なくて良いんだぜ、真ちゃん」
「お前らのようなぼんくらどもを、怪しい奴らのアジトに野放しにしておくのが嫌なだけなのだよ」
「あ、なになに?オレらの事心配してくれてんだ?」
「違う!お前らがドジでも踏んで、オレまで抹消されるなどごめん被ると言うことなのだよ!」
「抹消って!……なんか笑えねーし!」
仲が良いのか、悪いのか。
とにもかくにも、機嫌の悪い緑間をからかう内に、彼らはようやくラボにたどり着いたのだった。
「ちょっと中見てくるから、ここで待っててくれよな」
「……中に何があるの?」
「え?んー……魔王?」
「魔王!?」
桃井の疑問に、少し考えた後に山本はそう答える。
驚いた桃井達を置いて、山本は一人ラボの中へと入っていく。
「スクアーロいるかー?」
「なっ、山本君!」
「……何してんのな?」
「い、いや、白蘭さんがね?ぼ、僕はただ……毛布かけようと……!」
「あはははは♪」
「……大丈夫なのな、出来るだけ痛くすっから」
「大丈夫じゃないよそれあ"あ"あ"あ"あ"!!!」
聞き覚えのある悲鳴が、ラボから響いてきて、1分後、中から出てきた山本はにっこりと笑顔で口を開いたのだった。
「もう大丈夫なのな!中入ろーぜ!」
「大丈夫と言うか君に着いていって大丈夫かどうかがしんぱもごごご」
「つつつ着いてく着いてく!黒子も行くよな!な!?」
「キャプテン、黒子の顔が青いぞ……です!」
「うわぁぁあ!黒子っちぃぃい!!」
「テツ!テツぅぅう!!」
阿鼻叫喚の中、山本だけは朗らかに笑い続けていたのだった。


 * * *


「あれ、この塊は?」
「ん?スクアーロ」
「へ?」
ようやくラボに入った一行は、部屋の隅っこに落ちている毛布の塊を見て、首を傾げた。
その正体を知っている山本は、苦笑気味に答えた。
どうやら、さっきまでは起きていたらしいが、堪えきれなくなって遂に寝落ちてしまったらしい。
「ス、スクっち……スか?」
「この塊が……?何故怪我人がこんなところに……」
「そ、それは……たぶんここにいる仲間の事が心配だったから、じゃないかな……」
「その声はいり……誰!?」
「……入江正一デス」
「えー、ミイラの間違いじゃなくて?」
「うぐ……否定できない……」
「あはは、正ちゃん酷い顔だね♪」
「貴方もじゃないですか。えーと、……白蘭さん?」
「んふ、当たり~♪正チャン突き飛ばしてスクちゃんの上に転ばせちゃったせいでボコボコされちゃったんだよねー」
「僕は無実なのに……」
黒子の声に答えた人物へと目を向けた一行は、その姿に思わず目を見開いた。
声は、入江正一と白蘭である。
しかし、その身体は至るところに包帯とガーゼが巻き付いており、一瞬見ただけでは、誰なのか見当もつかない。
日向はそっと山本に目を向ける。
「……どーかしたっすか?先輩?」
「な、何でもない……!」
慌てて目を背ける。
笑顔の奥底に、得体の知れない黒いものが見えた気がする。
魔王、と言っていたのが誰のことかはわからないが、何だかんだで、この場で一番ヤバいのは彼なのではないだろうか。
「……ふん、床で寝転べるくらいなら、怪我も大したことはなかったのだろう。もう帰るのだよ、高尾」
「でもまだ礼言えてないし」
「ていうかー、スクちゃん今回の戦いで一番重傷だよ?まー、キメラ化された人達除けば、だけどね」
「は……?」
冷たく言い放った緑間に、それよりも更に冷たい笑顔で、白蘭は上機嫌に言った。
その間に、山本はスクアーロを抱えて、ソファーに移す。
毛布から覗いて見える顔には、大きな隈が出来ていた。
「元々さ、スクちゃん徹夜3日目だったらしくてー、そこにキメラとの戦闘でしょ?肋にヒビいってたし、左腕壊れちゃったし、血の流しすぎもあってー、いつぶっ倒れてもおかしくなかったんだよねー。なのに、キメラ倒した後もカミラちゃん……偽名だったみたいだけど、彼女と話したり、後片付けしたり。それが終わったらここに来てずっと実験見てたりして、さっきようやく寝たとこだったんだよねー」
「……聞くけど、こいつ本当に人間なのか?」
「当たり前じゃーん♪限界越えても、誰かのために頑張ろうとするなんて、人間くらいしか出来ないことでしょ♪」
「……適当なことを言うなぁ」
「あれ?起きたんだスクちゃん」
「あ……」
スクアーロを嫌う緑間を追い詰めるように、ニコニコと笑みを浮かべながら説明をしていた白蘭を、掠れた声で制したのは、話題の中心の人物だった。
「人が寝てるときに、あーだこーだとうるせぇよ。オレは、自分の為に動いてんだぁ」
白蘭を睨んだその目が、緑間を、山本を、彼らを眺める。
そして最後に、高尾を見た。
74/98ページ
スキ