if群青×黒子、違う世界の人たち
「……お前が、やったのか」
キメラはスクアーロの手によって倒された。
気絶したキメラを前に、誰も言葉を発することができない、そんな張り詰めた静けさを破ったのは、地を這うようなスクアーロの声だった。
少し掠れた声が向けられた先にいたのは、高尾と、ユニ、そしてもう一人。
「お前が、やったんだな、カミラ……」
「……突然、何を言っているのですかスクアーロ隊長」
スクアーロは振り返りもせずに、背後にいるカミラの言葉を聞いていた。
カミラは、にっこりと微笑んでいる。
高尾は、恐る恐るその笑顔を見詰めていた。
そうだ、考えてみればおかしなことだらけじゃないか。
あの激戦地の中を、一撃でキメラに吹っ飛ばされたようなこの人が、何故自分達の元までたどり着いて、サポートすることが出来たのか。
たくさんいたと言っても、基地にいた人間が総動員して捕まえていたキメラが、何故図ったように自分達の元にばかり集まってきたのか。
「お前には、捕獲したキメラをラボで見張るように言っていた」
「まあ、そうですね」
「キメラの見張りはお前の他に四人いた。さっき倒した二人、そいつらも、見張りについていたハズだぁ」
「……そうですね」
「何故、お前は無事なんだぁ」
「……わかっているくせに、わざわざ聞くなんて……。意地悪なんですね」
「て、めぇ……!」
気付くと、カミラの右手には小さな注射器が握られていた。
高尾は、彼女の視線が自分の方へと向けられるのを、動くことも出来ずに見詰めていた。
その注射器が、自分をどうさせるのか、想像は直ぐについた。
足が凍り付く。
近付いてきた注射器を、黙って見詰めて、怯えた目をカミラに向ける。
「さあ、本番はここからですよ!」
「ヒッ……!?」
カミラの左手が高尾に伸びる。
首を掴まれて、注射器を刺されると、そう思った瞬間。
「……え?」
「もう、終わりだ」
全てが終わった。
「お前は、ここで終わりだぁ、カミラ」
「な……」
注射器は、宙を飛んでスクアーロの手のひらへと収まる。
ぎろりと睨んだスクアーロの眼力に気圧されて、動きを止めたカミラの首に、スクアーロの手が伸びた。
放り投げられた注射器は、慌てて綱吉がキャッチした。
「てめぇが何したのか、素直に吐け」
「……はっ、聞きたいなら、吐かせたらどうですか。いつも、敵にそうしているように。拷問でもして吐かせれば良い」
「……」
拷問。
その言葉に、近くにいた少年達が、ビクリと肩を震わせる。
目の前の男達が、マフィアだということを、裏の世界の住人だということを、まざまざと思い知らされたような気がした。
「それとも、殺しますか。敵への見せしめに殺して、この首を晒してみますか?」
「そんなこと……」
「しない?嘘よ。あなた達は、いつもあんなに簡単に人を殺すじゃない」
「……黙れ」
「私の家族も、あなたは簡単に殺したんじゃない!なら、私のことも簡単に殺せるでしょ!?」
「黙れ!」
パシッと軽い音を立てて、スクアーロの右手がカミラを打った。
カミラは大してダメージを受けた様子もなく、スクアーロを見上げて鼻で笑った。
彼女と、スクアーロとの間に、かつて何があったのか。
彼らには推し測ることなど到底できなかったが、それでも一つわかったことがあった。
カミラは、復讐のために動いていたのだ。
「……なにその顔。暗殺部隊の作戦隊長ともあろうものが、笑っちゃうわね」
「……」
「騒動に紛れて、あんたを殺して、コイツらキメラにして帰ろうと思ってたんだけど、なんだ、失敗みたいね」
暗殺部隊の作戦隊長。
初めて聞いたその肩書きに、少年達の背筋に冷たいものが伝った。
暗殺、つまり、殺しのプロ……。
急に目の前の人物が、得体の知れないものに見えてくる。
いったいこの人は、なに……。
「ふ……ビビっちゃって、可愛い。ねぇ坊や達、この男の、本当の顔、知りたくなぁい?」
「黙れ……」
「さっきからそればっかりね。黙らせたいなら、力ずくでしなさいよ。どっちにしろ、一度生まれた疑念は消えないでしょうけどね」
「……」
「ぐっ……!」
カミラを睨み付けるスクアーロは、その顔に凄まじい怒りを浮かべていた。
無言で歯を食い縛り、カミラの鳩尾に拳を打ち込んだ。
呻きながら倒れたカミラを抱き止めて、スクアーロはゆっくりと扉の方へ歩き出した。
「スクアーロ……どこに……」
「牢に入れる」
「そ、それよりも医務室に行かないと!」
「良い。後始末が優先だぁ」
「良くないって……スクアーロ!!」
「お前はそいつら連れて被害の少なかったエリアに戻れ。今日は集まって寝るんだ」
「……わかった」
カミラを抱き上げて、スクアーロは部屋を出ていく。
その後ろ姿は、酷く寂しそうに見えた。
「……みんな、ごめん」
「なぜ、綱吉が謝る……」
「スクアーロのこと、隠してたし、高尾君が、危ない目にあって……それに……」
「本当、なの?あの人が……その……」
俯いて話す綱吉に、赤司は辛うじて返事を返す。
衝撃的なことが多すぎた。
リコの震える声に、綱吉は微かに頷いて言ったのだった。
「……ヴァリアーは、元は巨大マフィアボンゴレの所有していた暗殺部隊……。スクアーロは、そこで作戦隊長の地位についていた……実質No.2の人間だ」
「な、何で……今までオレ達に言ってくれなかったんスか?」
「……スクアーロが、『徒に恐がらせるな』って。オレも、きっと知ったら、みんな恐がると、思ったから……」
「……」
否定は出来ない。
何人かは、知りたくなかったと思っているだろうし、何人かはそんな恐ろしい人間が側にいたという事実に、吐く息を震わせていた。
「……スクアーロは、悪い人じゃない。それだけ、それだけは、どうか、信じてあげてほしい」
「だが……だがっ!奴は人殺しなのだよ!あの女も、連れていって殺すのだ……」
「人殺しじゃない!」
「!」
取り乱した様子の緑間の声に、いつも以上に大きな綱吉の声が被せられた。
体の横で、拳が強く握りしめられている。
「……ごめん。みんな、部屋を移ろう」
「……後で、説明をしてもらえるかい」
「…………後で、ね」
スクアーロと同じような、寂しそうな背中が部屋を出ていく。
「……行こう、みんな」
その背を追い掛けて、赤司達も部屋を出ていったのだった。
キメラはスクアーロの手によって倒された。
気絶したキメラを前に、誰も言葉を発することができない、そんな張り詰めた静けさを破ったのは、地を這うようなスクアーロの声だった。
少し掠れた声が向けられた先にいたのは、高尾と、ユニ、そしてもう一人。
「お前が、やったんだな、カミラ……」
「……突然、何を言っているのですかスクアーロ隊長」
スクアーロは振り返りもせずに、背後にいるカミラの言葉を聞いていた。
カミラは、にっこりと微笑んでいる。
高尾は、恐る恐るその笑顔を見詰めていた。
そうだ、考えてみればおかしなことだらけじゃないか。
あの激戦地の中を、一撃でキメラに吹っ飛ばされたようなこの人が、何故自分達の元までたどり着いて、サポートすることが出来たのか。
たくさんいたと言っても、基地にいた人間が総動員して捕まえていたキメラが、何故図ったように自分達の元にばかり集まってきたのか。
「お前には、捕獲したキメラをラボで見張るように言っていた」
「まあ、そうですね」
「キメラの見張りはお前の他に四人いた。さっき倒した二人、そいつらも、見張りについていたハズだぁ」
「……そうですね」
「何故、お前は無事なんだぁ」
「……わかっているくせに、わざわざ聞くなんて……。意地悪なんですね」
「て、めぇ……!」
気付くと、カミラの右手には小さな注射器が握られていた。
高尾は、彼女の視線が自分の方へと向けられるのを、動くことも出来ずに見詰めていた。
その注射器が、自分をどうさせるのか、想像は直ぐについた。
足が凍り付く。
近付いてきた注射器を、黙って見詰めて、怯えた目をカミラに向ける。
「さあ、本番はここからですよ!」
「ヒッ……!?」
カミラの左手が高尾に伸びる。
首を掴まれて、注射器を刺されると、そう思った瞬間。
「……え?」
「もう、終わりだ」
全てが終わった。
「お前は、ここで終わりだぁ、カミラ」
「な……」
注射器は、宙を飛んでスクアーロの手のひらへと収まる。
ぎろりと睨んだスクアーロの眼力に気圧されて、動きを止めたカミラの首に、スクアーロの手が伸びた。
放り投げられた注射器は、慌てて綱吉がキャッチした。
「てめぇが何したのか、素直に吐け」
「……はっ、聞きたいなら、吐かせたらどうですか。いつも、敵にそうしているように。拷問でもして吐かせれば良い」
「……」
拷問。
その言葉に、近くにいた少年達が、ビクリと肩を震わせる。
目の前の男達が、マフィアだということを、裏の世界の住人だということを、まざまざと思い知らされたような気がした。
「それとも、殺しますか。敵への見せしめに殺して、この首を晒してみますか?」
「そんなこと……」
「しない?嘘よ。あなた達は、いつもあんなに簡単に人を殺すじゃない」
「……黙れ」
「私の家族も、あなたは簡単に殺したんじゃない!なら、私のことも簡単に殺せるでしょ!?」
「黙れ!」
パシッと軽い音を立てて、スクアーロの右手がカミラを打った。
カミラは大してダメージを受けた様子もなく、スクアーロを見上げて鼻で笑った。
彼女と、スクアーロとの間に、かつて何があったのか。
彼らには推し測ることなど到底できなかったが、それでも一つわかったことがあった。
カミラは、復讐のために動いていたのだ。
「……なにその顔。暗殺部隊の作戦隊長ともあろうものが、笑っちゃうわね」
「……」
「騒動に紛れて、あんたを殺して、コイツらキメラにして帰ろうと思ってたんだけど、なんだ、失敗みたいね」
暗殺部隊の作戦隊長。
初めて聞いたその肩書きに、少年達の背筋に冷たいものが伝った。
暗殺、つまり、殺しのプロ……。
急に目の前の人物が、得体の知れないものに見えてくる。
いったいこの人は、なに……。
「ふ……ビビっちゃって、可愛い。ねぇ坊や達、この男の、本当の顔、知りたくなぁい?」
「黙れ……」
「さっきからそればっかりね。黙らせたいなら、力ずくでしなさいよ。どっちにしろ、一度生まれた疑念は消えないでしょうけどね」
「……」
「ぐっ……!」
カミラを睨み付けるスクアーロは、その顔に凄まじい怒りを浮かべていた。
無言で歯を食い縛り、カミラの鳩尾に拳を打ち込んだ。
呻きながら倒れたカミラを抱き止めて、スクアーロはゆっくりと扉の方へ歩き出した。
「スクアーロ……どこに……」
「牢に入れる」
「そ、それよりも医務室に行かないと!」
「良い。後始末が優先だぁ」
「良くないって……スクアーロ!!」
「お前はそいつら連れて被害の少なかったエリアに戻れ。今日は集まって寝るんだ」
「……わかった」
カミラを抱き上げて、スクアーロは部屋を出ていく。
その後ろ姿は、酷く寂しそうに見えた。
「……みんな、ごめん」
「なぜ、綱吉が謝る……」
「スクアーロのこと、隠してたし、高尾君が、危ない目にあって……それに……」
「本当、なの?あの人が……その……」
俯いて話す綱吉に、赤司は辛うじて返事を返す。
衝撃的なことが多すぎた。
リコの震える声に、綱吉は微かに頷いて言ったのだった。
「……ヴァリアーは、元は巨大マフィアボンゴレの所有していた暗殺部隊……。スクアーロは、そこで作戦隊長の地位についていた……実質No.2の人間だ」
「な、何で……今までオレ達に言ってくれなかったんスか?」
「……スクアーロが、『徒に恐がらせるな』って。オレも、きっと知ったら、みんな恐がると、思ったから……」
「……」
否定は出来ない。
何人かは、知りたくなかったと思っているだろうし、何人かはそんな恐ろしい人間が側にいたという事実に、吐く息を震わせていた。
「……スクアーロは、悪い人じゃない。それだけ、それだけは、どうか、信じてあげてほしい」
「だが……だがっ!奴は人殺しなのだよ!あの女も、連れていって殺すのだ……」
「人殺しじゃない!」
「!」
取り乱した様子の緑間の声に、いつも以上に大きな綱吉の声が被せられた。
体の横で、拳が強く握りしめられている。
「……ごめん。みんな、部屋を移ろう」
「……後で、説明をしてもらえるかい」
「…………後で、ね」
スクアーロと同じような、寂しそうな背中が部屋を出ていく。
「……行こう、みんな」
その背を追い掛けて、赤司達も部屋を出ていったのだった。