if群青×黒子、違う世界の人たち

「1つだけ、質問しても良いかい?」
「え?」

談話室、無線から届く報告に耳を傾けていた綱吉に、赤司がおもむろに尋ねた。

「なに?俺に答えられることなら答えるけど……」

眉を下げて、少し不安そうに言う綱吉は、この広大なアジトのボスには思えない。
だが、確かに彼がボスで、彼を中心にこの組織は回っているのだ。
そんな少年の緊張を更に助長するように、赤司は酷く真剣な面持ちで質問を投げ掛けた。

「なぜ、このアジトにキメラを捕らえていたんだ?」
「あ……」

赤司の疑問に、綱吉の顔には分かりやすく「ヤバい」という表情が浮かぶ。
何か、不味い事情があるのだろうか。
それとも……?

「その……、ごめん。皆にはそれを早く説明しなきゃいけなかったよね」

それを聞いて、赤司はらしくもなく表情を動かした。
説明する気があった、と言うのが意外だったのだ。

「えーと……オレ達はキメラを、キメラにされた人間を、元に戻すことが出来ないかどうか、研究してたんだ」
「キメラに……された?」

キメラについての説明は、そこまで詳しくされていた訳ではない。
キメラは敵であり、そして獣の力を手に入れようとした人間の成の果てなのだと、少なくとも赤司はそう思っていた。
しかし、キメラに『された』、と言うことは、つまりキメラに成った人間達は、望んでその姿になったわけではないということなのだろうか。

「キメラになると、力を手にいれる代わりに、理性をなくす。そんな危険な力を自分のファミリーの人間で試す奴はいないんだよ……。その……ショックかもしれないけれど、キメラのほとんどは何の罪もない一般人だったり、もしくは捕まえた敵マフィアの人間だ」
「敵マフィア……まさか……!」
「……自警団の人間は、幸いなことにまだ捕まってはいない。今は、だけどね」

今はまだ捕まっていないだけ。
捕まれば、あの化け物にされて、敵の都合の良いようにだけ働く、意思のない兵隊にされてしまうというのか。
そして赤司の優秀な頭脳は、瞬時にもう1つの事実に気付いてしまう。

「もし、もしもだ。オレ達が敵に捕まったとしたら……、キメラに、もしくはそれに準ずるものにされるんじゃないか?」
「……それは……その、まあ……。可能性はあるけど、皆さん優秀だし……、すぐにキメラにされるってことはないと思う。キメラの技術はまだ未完成のようだし」
「未完成?あれでまだ完成じゃ……」

周りの者達の動揺が伝わってくる。
それでも彼は、聞かずにはいられなかった。
返ってきた答えは馬鹿正直で、だからこそ、自分達が本当にヒトとしての命の瀬戸際ギリギリに立たされていたのだという事実を思い知らされる。
そして綱吉の最後の言葉に、赤司が反応したその瞬間。
突然、綱吉が慌ただしく立ち上がって部屋のドアに向かった。

「皆下がってて!」

鋭い指示に、赤司は一瞬固まるが、すぐに後ろの仲間達を下がらせようとする。
そして綱吉が勢いよくドアを開けた。

「早く!二人ともこっち!」

外に誰かがいるらしい。
だが外の者達の声は聞こえない。
しかし数秒後、部屋に飛び込んできた二人の内、一人の顔を見て、彼らはハッと息を飲み、そして胸を撫で下ろした。

「た……高尾……!」
「し、真ちゃんたち……無事……なのか!?」

息を切らして座り込む高尾と、その隣で声を上げることも出来ない状態のユニを見て、綱吉もまた、胸を撫で下ろす。
そしてすぐに、二人に尋ねた。

「二人とも、スクアーロは?一緒のはずだよね!?」
「あ、あの人まだ外に……!」
「一人で戦ってるんです!沢田さん、お願いします……!!」
「わかった!ユニはここで皆と……え?」
「あっ……」

テンポ良く交わされていた会話が途切れる。
驚いたような顔でドアを見た綱吉とユニに、周りの者が怪訝そうに首をかしげた。

「どうし……」
「皆逃げて!!」

綱吉の言葉が終わるが早いか……、ドアを突き破って、塊が2つ、部屋へと転がり込んできた。
1つは毛むくじゃらで、一目でキメラだとわかる。
どうやらキメラは気絶しているらしい。
そしてもう1つの塊は、銀色を振り乱すようにしてすぐに立ち上がった。

「スクアーロ!」
「無事だったのか!?良かった……」

立ち上がったその姿を見て、高尾が駆け寄ろうとする。
それを視界に入れたスクアーロは、間髪入れずに叫んだ。

「来るなぁ!!」
「え……?」

思わず高尾の脚が止まる。
スクアーロの左腕が力任せに振り回されて、高尾を弾き飛ばす。
そしてスクアーロに向かってきた、もう一人のキメラが、その体を押し潰した。
どしゃ、という嫌な音が聞こえた。
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