if群青×黒子、違う世界の人たち

そのキメラの襲来は唐突だった。
死角の少ない真っ直ぐな廊下を走って、3人は綱吉達のいる部屋へと駆けていた。
敵が接近すればすぐにわかるはず。
その油断が、彼らのピンチに繋がったのかもしれない。
突然目の前から響いた爆音に、彼らの脚が止まる。
立ち込める煙、凄まじい熱気。
敵が、壁をぶち破って現れたのだ。
先頭を走っていたヴァリアーの隊員が戦闘態勢を取るよりも早く、煙の中から伸びてきた腕が彼女を殴り飛ばした。

「がっ……は……!?」
「うわあ!!!?」
「カミラさん!!」

ユニが彼女の名前を呼ぶが、遠くまで吹き飛ばされた彼女が反応を返す様子はない。
取り残された二人の目の前に立ち上がったキメラは、どちらを襲うか悩むように、キョロリと視線を巡らせている。

「た、高尾さん……、あなただけでも、逃げて……!!」
「そんな……ユニちゃんとあの人置いて逃げられるわけねぇだろ!あの人連れて一緒に……!」

ユニの手を取り、吹き飛ばされたカミラの元に向かおうとする高尾の、その背後でキメラが動き出した。
どうやら、一番活きの良い獲物に目をつけたらしい。
即ち、高尾に向けてその鋭い牙を剥き出し、襲い掛かったのである。

「高尾さん!避けて!!」
「くそっ!くそ……!!」

咄嗟に、高尾はユニの肩を強く押した。
せめて彼女だけには逃げてもらいたい。
ほんの僅かな時間、会話を交わしただけの仲だったが、それでも必死に彼女を遠ざける。
ユニがよろめき、数歩下がったのを見届けて、高尾は呆然と考える。
ここで自分は死ぬのだろうか。
死ぬのは、痛いんだろうか。
もしもここで助かるのなら、自慢の目を潰したって構わない。
でも、もしも叶うのならば、五体満足で帰って、そして、そしてもう一度、相棒とバスケをしたい……。
走馬灯、と言うのは、こういうものを言うのかもしれない。
高尾の脳裏に、様々な記憶がどっと流れ込んでくる。
死にたくない。
そんな思いも、記憶の嵐に押し流される。
獣臭い息遣いが、すぐ横で聞こえた。

「ごめん、真ちゃん……」

どうやら自分は、助からないようだ。
目をつむり、襲い来る痛みを待つ。
だがそれは来ないまま、すぐ近くから鉄が潰れるような嫌な音が聞こえてきた。

「謝るんならっ、本人がいるところで謝れよっ、このカスガキがぁ!」
「……え……?」

目を開ける。
いつの間に来たのだろう。
高尾の目の前には、銀色の髪を靡かせて、息を弾ませながら立つ人の影があった。
スクアーロが、またもや間一髪で敵を止めたらしかった。
嫌な音は、彼の目の前から聞こえている。
バリ、メリ、グシャリ、メキ……。
彼の目の前にいるのは、狼のような風貌のキメラで、それは何か棒状の物に噛み付いているようだった。

「っ……カミラァ!!なにボケッとしてやがる!」
「う……申し訳、ございません……!!」
「高尾、走れるかぁ」
「ぇ……」
「脚は動くかって聞いてんだぁ!」
「ひっ!!う、動きます!」
「なら、オレの側を離れずに着いてこい」
「そ、そんなの……」
「着いてこい!!」
「ぅ……わ、かった……」

スクアーロは、怒鳴りながらキメラを力任せにぶん殴る。
呻き声をあげたキメラが後退したのを見計らって、スクアーロはその鳩尾に飛び蹴りを食らわせた。
その時になってようやく、高尾はキメラが何に噛みついていたのかに気付いた。
キメラが気絶したのを確認して、こちらを振り返ったスクアーロの左腕がボロボロになっている。
凹んでいたり、裂けていたり。
そして服の袖からはボロボロと破片のようなものが溢れ落ちている。

「スクアーロさん……!そんな……!!」
「うるせぇ、どうせ義手だぁ。他の敵に捕まる前に、さっさと逃げるぞ」
「う、腕が……!腕……!!」
「黙れガキぃ!!たいした怪我じゃねぇ!」
「たいした怪我だろどう見ても!!」

スクアーロの腕はもう使い物にならない。
ショッキングな光景を目の当たりにして、足が竦みそうになるが、それでも張本人のスクアーロに急き立てられて、高尾は何とか走り出す。
狼のキメラは倒したが、いつまた別のキメラが襲ってくるのかもわからない。
負傷したカミラにはユニが寄り添っている。
この場で戦えるのはスクアーロだけ。
どう考えても、無謀である。
だが目的の談話室までは、あと少しと言うところまで迫ってきていた。

「あと50メートルです!」
「っ!スクアーロさん、後ろから敵が!!」
「くそ、次から次へとぉ!!」

すぐ目の前、曲がり角の先に談話室は迫ってきているのに、彼らの後ろからはまた別のキメラが追ってきている。
ユニや高尾を庇うように立ち、キメラと対面したのは、ここでもやはり、スクアーロだった。

「何度来ようとっ、無駄だぁ!」

キメラに突っ掛かっていったスクアーロの叫びを背後に、高尾達はようやく、談話室の扉をくぐったのであった。
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