if群青×黒子、違う世界の人たち

「なぁおい!一体どういうことなんだよ!?」
「後で説明する!今は黙って逃げてろぉ!!」
「だって……うわぁ!?」
「高尾さん、気を付けて!!」
「隊長、こちらです!早く!!」
「っ!無事だったかぁ!!」

自警団の一員らしき、黒服の女性に呼ばれて廊下を曲がった高尾達のすぐ後ろを、虎のような風体のキメラが追ってきている。
その鋭い爪の一撃を剣で捌きながら、スクアーロは背後に守っている二人に叫んだ。

「ゔぉい!そいつの指示にしたがって逃げろぉ!!」
「あ、あんたはどうするんだよ!」

耳障りな金属音を立てて、キメラの凶爪が弾かれる。
その隙に攻撃に転じたスクアーロに、高尾の声は届かなかったらしい。
しかし彼の背中が、どうするのかを雄弁に物語っている。
どうやらここで、一人敵を食い止めるつもりらしい。

「む……無茶だ……。あんな化け物に一人でかかって、勝てるわけねーだろ……!」

もしかしたら、敵のキメラには虎以外にも何か別の動物が掛け合わされているのかもしれない。
異様に素早い動きで斬撃を避けた虎は、再び攻撃に転じる。

「高尾さん、私達がどうしたところで、彼の足手まといにしかならないんです」

逃げることもできず、かといって戦うこともできなくなった高尾の手をユニが引いた。
ユニの言う通り、高尾にできることと言えば、逃げることくらいなのだろう。
だが、頭ではわかっていても体が動かない。
死ぬかもしれないのに、ここに一人残していくなど、そんな重たい決断を下すには、高尾は幼すぎる。

「高尾さん……」
「あいつは、あいつはどうなるんだよ……。このままここに置いてったら、死ぬかも……死んじゃうかもしれないんだぞ!?」
「死にません」
「……は?」

高尾の絞り出すような叫びに答えたのは、ユニではなく、彼らを誘導した女性だった。
高尾をギヌロと睨んで、淡々と話し出す。

「あの方が、そう易々と死ぬなんてことはありません」
「な……」

そう言いきり、女はゆらりと高尾に近付く。
おもむろに腕をあげ、そして勢いよく高尾の頬を掠めるストレートを放った。

「っ……!!」
「スペルビ・スクアーロをなめるなよ、ガキ」

彼女の剣幕に、高尾は声を失って、ただ呆然と頷いたのだった。



 * * *



キメラの爪を受け止めながら、スクアーロはチラリと背後を窺う。
どうやらようやく、高尾が逃げることを了承してくれたらしい。
優しさも良心も、戦場では余分な感情だ。
必要なのは、合理的な判断。
目の前のキメラを見据えながら、横凪ぎに剣を振るう。
上に跳んだキメラに、剣を手放した両腕で即座にナイフを構えて、攻撃を仕掛ける。

「お゙らぁ!!」
「聞かねぇヨおらぁ!」
「っ!!」

ナイフの切っ先は僅かにキメラの皮膚を掠めたが、彼の纏った雷の炎がナイフの刃を弾き飛ばして、スクアーロは後退を余儀なくされる。
自分の身は雨の炎で守り無傷だが、武器はボロボロだった。
壁に刺さった剣をチラリと見て、手元のナイフをぽいっと投げ捨てる。
厄介な敵だ。
だが、勝てない敵ではない。
そのままスクアーロに反撃を仕掛けようとしていたキメラの膝が、唐突にカクリと崩れ落ちた。

「な、なんダ……!?」
「カスがぁ!テメーにナイフで傷をつけた瞬間、雨の炎を注ぎ込んだんだぁ。その時の炎を、テメーは防御のためと思ったようだがなぁ」

雨の炎というのはまた便利なもので、使い方によっては毒のようにも扱うことができるのだ。
流石のキメラだって、体の内部に流し込まれては一堪りもない。
それでも無事でいられる人間など、アルコバレーノくらいだろう。

「こんな攻撃デ……オレが負けるカ……!!」
「知るかよ、ドカス。何にしろ、次で終いだぁ」

動きが鈍くなったキメラの懐に潜り込む。
何とか反応はしたが、防いだり、逃げたりするには、遅すぎた。

「お゙らぁ!!」
「ぐァ……っ!!」

掌底で顎を突き、続けて急所に何発も拳を打ち込んでいく。
どさりと倒れて、気を失ったキメラをワイヤーで拘束して、スクアーロはようやく一息吐こうとした。
だが直後に聞こえた悲鳴が、休む間もなく彼女を戦場へと引き戻す。

「うわあ!!?」
「っ!高尾かぁ!?」

スクアーロは遠くから聞こえてきた悲鳴を耳に入れた瞬間に、弾かれたように走り出したのだった。



 * * *



綱吉が待機している談話室には、基地中の様々な情報が集まっていた。
彼の装着しているヘッドフォンからは、報告の声が止むことはない。

「あの、沢田君……」
「ん、なに?」

忙しそうな綱吉に、黒子は思わず声をかけていた。
一瞬口ごもる。
何と声をかければ良いのだろう。
「頑張れ」?
彼らはすでに頑張っている。
「大丈夫」?
こんな状況、大丈夫な訳がない。

「……大丈夫、頑張るよ」
「……え?」

口ごもる黒子が、なにか言葉を発するよりも早く、綱吉はそう言った。
目を見開いた黒子に、綱吉は力強く微笑んだのだった。

「だから、安心して待ってて」
「……はい」

そう、今は、ただ彼らを信じて待つしかないのである。
キツく目をつぶり、黒子は外で戦う者達の無事を、ただただ強く、祈ったのだった。
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