if群青×黒子、違う世界の人たち
『それで?今の状況はどうなってるの?』
「正直よろしくねぇ」
無線越しに綱吉に尋ねられて、スクアーロは仏頂面を隠しもせずにそう答えた。
「もう夜になり始めてる。ほとんどのメンバーは既に活動を初めて、外に出ていやがる」
『幹部で残っているのは?』
「オレとお前以外は、山本とベル、あとは桔梗とブルーベルが残っている」
『うぅ……ん、なんとかなる、かな?それで、現在の非戦闘員の被害は?』
「ラボにいた研究員数名が怪我。どれも軽傷だぁ。ただ、ラボでキメラを見張っていた隊員数名と連絡がとれない。他の非戦闘員はほとんど避難が完了。後は……」
『高尾くん、だね』
「いや、もう一人、連絡の取れねぇ奴がいる」
『え……えぇ!?』
「!チッ、こっちは戦闘に入る!一度切るぞぉ」
『わっ!ちょっと待ってよスクアー……』
言葉が終わるよりも早く無線を切り、スクアーロは目の前に現れた敵と向かい合った。
敵は一人、だがキメラである。
「お前ら3人を残す。あとの奴らは続けて探索」
「はっ!」
残った3人がキメラの気を引いている間に、スクアーロとヴァリアーの隊員達は、更に下の階へと降りて探索を続ける。
敵から十分離れたところで、スクアーロは再び無線のスイッチを入れた。
『ちょっとスクアーロ!誰なの、もう一人って!?』
「うるせぇ、黙って聞けぇ!!もう一人の名前は……」
* * *
「……君は?」
相棒に頭を冷やせと言われて、がむしゃらに走ってきて、気付けば高尾は、これまで一度も来たことがない場所にいた。
木や草花が生い茂っている。
ここは、庭園だろうか?
天井には青空が映し出されて、太陽の光が燦々と降り注いでいる。
そんな地下空間とは思えない場所に、その少女はいた。
「こんにちは。私の名は、ユニ」
「ユニ?」
「貴方の名は?」
「オレは、高尾……高尾和成。君さ、どうしてこんなとこにいるんだ?あいつらに連れてこられたのか?」
白い風変わりな衣装を纏って、ふわふわと弾むように近付いてきた、ユニと名乗る少女。
強面の男ばかり見ていた高尾は、新鮮な気持ちと、少しの安心を感じながら彼女と視線を合わせるために屈んだ。
「あいつら……ですか?」
「えーと、沢田とか、白蘭とか、γとか、スクアーロとか……」
「……ふふ、私は自分で選んで、ここにいるんですよ」
「え?」
こんなところに、こんな可憐な少女が、自分からここにいる?
不思議な子だ。
一体何者なんだろうか。
「高尾さん、お時間はありますか?」
「え?」
「私とお話、してくれませんか?」
「は、話……?」
「その……やることがなくて……」
『暇なんです』そう言ったユニの、ちょっと恥ずかしそうな笑顔に、高尾の僅かな疑念は頭の隅へと押しやられたのだった。
「それじゃあ、ユニちゃん彼氏さんがいるんだ」
「はい!とってもカッコいいんですよ!」
「いいなぁ~、オレもユニちゃんみたいな可愛い子と付き合いてー!」
「ふふ、高尾さんみたいな優しい方なら、きっとすぐに素敵な恋人が見付かりますよ!」
「えー?そうかなぁ……」
不思議だ……。
先程までの、イライラとしたやり場のない気持ちが薄れている。
全部、ユニという少女のお陰なのだろうか。
高尾は、ここに閉じ込められてからはまるで縁のなかった、恋愛の話でユニと盛り上がっていた。
話の内容は、もっぱら彼女の優しくてカッコいい彼氏のことである。
見た目は精々中学生くらいに見えるが、もう恋人がいるのか。
昨今の若者の成長は早いな、などと考えたりしながら、楽しげに会話を交わす。
「でもなー、オレはなぁ……。毎日部活で忙しいしー、何より相棒とバスケすんのが楽しいからなぁ……。今んとこ彼女とかできそーにねーかも」
「部活……バスケですか?」
「そーそー!結構強いんだぜ?真ちゃん……相棒なんかコートのどこからでもシュート撃っちゃうんだから!」
「ふふ、とても楽しそうですね」
「……そ。でもさっき、その相棒に怒られちゃってさぁ……」
「どうしてですか?」
「ちょっと……んー……熱くなり過ぎちゃってな」
「熱く?」
「……オレ、いつになったらここから出られるのかって、いつ、家に帰れるのかって、不安になっちまって。なんかこう、カッとなっちゃったんだよ」
「そう……だったんですか……」
「本当に、このままで大丈夫なのかな……。あいつらのこと信じて、ここで閉じ込められ続けるのが、正解なのか?」
「……高尾さん」
「……って、ごめんな?なんか急に暗い話しちゃってさ!」
「いいえ、高尾さん。とても大事な話です。それに、きっと大丈夫ですよ」
「え?」
「だって……」
ユニの言葉に、いつのまにかうつ向いていた顔を上げる。
穏やかで優しい少女の笑顔。
その向こうに見えたそれに、高尾は一瞬、息を詰まらせた。
真っ白な牙、真っ赤な口、縦に伸びた瞳孔、ギラギラと殺気立つ瞳。
「ユニちゃ……後ろだ!」
思わず叫び、ユニに向かって手を伸ばす。
だが気付くのが遅すぎた。
間に合いそうにない。
ユニに迫る獣の爪が、太陽の光をぎらりと反射するのが見える。
何が鷹の目だ……何がキセキの世代の相棒だ……女の子一人助けられないくせに……何様なんだよ、自分は……。
高尾の脳裏を走る言葉の群れが、彼を責め立てる。
だが短い……いや、高尾にとってはひどく長い静寂の後、聞こえてきたのは、柔らかい肉を裂く音ではなく、ましてや少女の悲鳴でもなく、硬いものがぶつかり合う甲高い音だった。
「な……なんで……」
「大丈夫です、高尾さん。だって彼らは、命を懸けて、貴方達を護ろうとしているのですから……!」
少女の後ろに立ち、キメラの攻撃を止めていたのは、真っ黒な服に真っ白な長髪……スクアーロと名乗っていた男だった。
ユニの明るい言葉を聞いて、スクアーロは冷や汗を流しながらニヤリと笑う。
「ユニお前……捨て身すぎんだろぉ」
「なんの話でしょう?」
「わかってたなぁ、こうなることを」
「……ふふ、秘密です」
「チッ……まあいい。さっさと安全な場所に戻るぞぉ!」
スクアーロの剣が、キメラを吹き飛ばす。
ユニが高尾の手を取る。
「さあ、行きましょう高尾さん!!」
「え……ええ!?」
訳がわからないまま、ユニに引きずられるように、高尾は走り出したのだった。
「正直よろしくねぇ」
無線越しに綱吉に尋ねられて、スクアーロは仏頂面を隠しもせずにそう答えた。
「もう夜になり始めてる。ほとんどのメンバーは既に活動を初めて、外に出ていやがる」
『幹部で残っているのは?』
「オレとお前以外は、山本とベル、あとは桔梗とブルーベルが残っている」
『うぅ……ん、なんとかなる、かな?それで、現在の非戦闘員の被害は?』
「ラボにいた研究員数名が怪我。どれも軽傷だぁ。ただ、ラボでキメラを見張っていた隊員数名と連絡がとれない。他の非戦闘員はほとんど避難が完了。後は……」
『高尾くん、だね』
「いや、もう一人、連絡の取れねぇ奴がいる」
『え……えぇ!?』
「!チッ、こっちは戦闘に入る!一度切るぞぉ」
『わっ!ちょっと待ってよスクアー……』
言葉が終わるよりも早く無線を切り、スクアーロは目の前に現れた敵と向かい合った。
敵は一人、だがキメラである。
「お前ら3人を残す。あとの奴らは続けて探索」
「はっ!」
残った3人がキメラの気を引いている間に、スクアーロとヴァリアーの隊員達は、更に下の階へと降りて探索を続ける。
敵から十分離れたところで、スクアーロは再び無線のスイッチを入れた。
『ちょっとスクアーロ!誰なの、もう一人って!?』
「うるせぇ、黙って聞けぇ!!もう一人の名前は……」
* * *
「……君は?」
相棒に頭を冷やせと言われて、がむしゃらに走ってきて、気付けば高尾は、これまで一度も来たことがない場所にいた。
木や草花が生い茂っている。
ここは、庭園だろうか?
天井には青空が映し出されて、太陽の光が燦々と降り注いでいる。
そんな地下空間とは思えない場所に、その少女はいた。
「こんにちは。私の名は、ユニ」
「ユニ?」
「貴方の名は?」
「オレは、高尾……高尾和成。君さ、どうしてこんなとこにいるんだ?あいつらに連れてこられたのか?」
白い風変わりな衣装を纏って、ふわふわと弾むように近付いてきた、ユニと名乗る少女。
強面の男ばかり見ていた高尾は、新鮮な気持ちと、少しの安心を感じながら彼女と視線を合わせるために屈んだ。
「あいつら……ですか?」
「えーと、沢田とか、白蘭とか、γとか、スクアーロとか……」
「……ふふ、私は自分で選んで、ここにいるんですよ」
「え?」
こんなところに、こんな可憐な少女が、自分からここにいる?
不思議な子だ。
一体何者なんだろうか。
「高尾さん、お時間はありますか?」
「え?」
「私とお話、してくれませんか?」
「は、話……?」
「その……やることがなくて……」
『暇なんです』そう言ったユニの、ちょっと恥ずかしそうな笑顔に、高尾の僅かな疑念は頭の隅へと押しやられたのだった。
「それじゃあ、ユニちゃん彼氏さんがいるんだ」
「はい!とってもカッコいいんですよ!」
「いいなぁ~、オレもユニちゃんみたいな可愛い子と付き合いてー!」
「ふふ、高尾さんみたいな優しい方なら、きっとすぐに素敵な恋人が見付かりますよ!」
「えー?そうかなぁ……」
不思議だ……。
先程までの、イライラとしたやり場のない気持ちが薄れている。
全部、ユニという少女のお陰なのだろうか。
高尾は、ここに閉じ込められてからはまるで縁のなかった、恋愛の話でユニと盛り上がっていた。
話の内容は、もっぱら彼女の優しくてカッコいい彼氏のことである。
見た目は精々中学生くらいに見えるが、もう恋人がいるのか。
昨今の若者の成長は早いな、などと考えたりしながら、楽しげに会話を交わす。
「でもなー、オレはなぁ……。毎日部活で忙しいしー、何より相棒とバスケすんのが楽しいからなぁ……。今んとこ彼女とかできそーにねーかも」
「部活……バスケですか?」
「そーそー!結構強いんだぜ?真ちゃん……相棒なんかコートのどこからでもシュート撃っちゃうんだから!」
「ふふ、とても楽しそうですね」
「……そ。でもさっき、その相棒に怒られちゃってさぁ……」
「どうしてですか?」
「ちょっと……んー……熱くなり過ぎちゃってな」
「熱く?」
「……オレ、いつになったらここから出られるのかって、いつ、家に帰れるのかって、不安になっちまって。なんかこう、カッとなっちゃったんだよ」
「そう……だったんですか……」
「本当に、このままで大丈夫なのかな……。あいつらのこと信じて、ここで閉じ込められ続けるのが、正解なのか?」
「……高尾さん」
「……って、ごめんな?なんか急に暗い話しちゃってさ!」
「いいえ、高尾さん。とても大事な話です。それに、きっと大丈夫ですよ」
「え?」
「だって……」
ユニの言葉に、いつのまにかうつ向いていた顔を上げる。
穏やかで優しい少女の笑顔。
その向こうに見えたそれに、高尾は一瞬、息を詰まらせた。
真っ白な牙、真っ赤な口、縦に伸びた瞳孔、ギラギラと殺気立つ瞳。
「ユニちゃ……後ろだ!」
思わず叫び、ユニに向かって手を伸ばす。
だが気付くのが遅すぎた。
間に合いそうにない。
ユニに迫る獣の爪が、太陽の光をぎらりと反射するのが見える。
何が鷹の目だ……何がキセキの世代の相棒だ……女の子一人助けられないくせに……何様なんだよ、自分は……。
高尾の脳裏を走る言葉の群れが、彼を責め立てる。
だが短い……いや、高尾にとってはひどく長い静寂の後、聞こえてきたのは、柔らかい肉を裂く音ではなく、ましてや少女の悲鳴でもなく、硬いものがぶつかり合う甲高い音だった。
「な……なんで……」
「大丈夫です、高尾さん。だって彼らは、命を懸けて、貴方達を護ろうとしているのですから……!」
少女の後ろに立ち、キメラの攻撃を止めていたのは、真っ黒な服に真っ白な長髪……スクアーロと名乗っていた男だった。
ユニの明るい言葉を聞いて、スクアーロは冷や汗を流しながらニヤリと笑う。
「ユニお前……捨て身すぎんだろぉ」
「なんの話でしょう?」
「わかってたなぁ、こうなることを」
「……ふふ、秘密です」
「チッ……まあいい。さっさと安全な場所に戻るぞぉ!」
スクアーロの剣が、キメラを吹き飛ばす。
ユニが高尾の手を取る。
「さあ、行きましょう高尾さん!!」
「え……ええ!?」
訳がわからないまま、ユニに引きずられるように、高尾は走り出したのだった。