if群青×黒子、違う世界の人たち
高尾の言葉を聞いた瞬間、綱吉の顔が悔しそうに歪むのを、黒子は見ていた。
だがそれも一瞬のことで、彼はすぐに明るく前向きな言葉を返す。
「オレ達に出来る限り、早く帰してあげるつもりだよ。それまでは不安かもしれないけど……外はまだ危険だから、もう少しだけ我慢して……」
「具体的じゃないんだよなー。誰に聞いても、何度聞いても、帰ってくるのは『早く帰す』とか『心配するな』とか、そんな曖昧なことばっかでさぁ。オレ達にだって、守りたい生活って言うの?あるわけ。それを、正義のヒーロー気取ったお前らに、強引に壊される気持ち、わかってんのか?」
「……それ、は……」
きっと高尾は、イラつきのままに言っているのだろう。
止めなければならないことはわかっている。
だがその場にいた彼らもまた、黙り込んで様子をうかがうように、綱吉を見る。
彼らも不安なのだ。
綱吉は一度うつ向き、ゆっくりと顔を上げて、口を開いた。
「……ハッキリとしたことは、まだ言えないんだ……。明日何が起こるかもわからない。もしかしたら、オレ達が負けるって言う結末もあるかもしれない。新年度が始まるまでには、決着をつけるつもりでいるけれど、それはあくまで目安だし、下手すれば何年も決着がつかないまま、君達をここに引き留め続けることになるかもしれない」
綱吉は正直に答えた。
何も隠すことなく、彼らが知りたがっていたことを、簡潔に分かりやすく答えた。
もしかしたら、正直に話してしまったことが悪かったのかもしれない。
もしここで隠していたのなら、彼らもまた、怒りようがあったのだろう。
だが彼らの苛立ちは、不安は、やり場をなくしてしまった。
そして高尾は……彼はもう限界だったのだろう。
近くにあった机を、高尾の脚が蹴りつける。
「っ……!なんだよそれ!じゃあこのまま、オレ達は2度と家に帰れないかもしれないってことか!?」
「そうじゃないよ!絶対に、絶対に勝つから……。だから今は……」
「我慢しろって言うのか?ふざけんな……。オレ達には何も関係ないのに、なんでこんな目に遇わなきゃならねぇんだよ!!」
「……」
「おい、頭を冷やすのだよ高尾!」
「っ!……わかってる!」
何も言えなくなった綱吉を見て、ようやく緑間が高尾を止めた。
相棒に諌められて、高尾も少し頭が冷えたのだろう。
一言怒鳴ると、足早に部屋を出てどこかへと消えていった。
「沢田……お前達の言い分も、立場も、わかっているつもりなのだよ。だが……高尾の言うことも……」
「わかってる」
苦い顔で相棒を庇う緑間の視線は、本人の自覚はないのだろうが、綱吉を責めるように尖ってしまっていた。
そんな彼の言葉を遮り、綱吉は頷き、長く息を吐き出す。
「わかってるよ……。オレも、昔同じようなことを思ったことがあるから……」
「え……?」
自嘲気味な笑みを浮かべた綱吉の言葉に、近くにいた黒子は首を捻って、どう言うことか尋ねようとした。
しかし彼が聞くよりも早く、部屋のドアが大きな音を立てて開かれた。
次いで、それよりも大きな怒声が飛び込んでくる。
「ゔお゙ぉい沢田ぁ!」
「ぎゃー!スクアーロー!?」
「テメー、無線は常に着けておけって言ってるだろうがぁ!」
「え?無線!?何事なの!?」
びくりと肩を跳ねさせて、談話室にいた全員がスクアーロに視線を向ける。
綱吉に向けて、ばしりと小型無線機を投げ付けたスクアーロは、後ろにいた者達に道を開けた。
「黒子っちー!みんなも!無事でよかったっス!!」
「黄瀬君?一体何が……?」
「保護対象者全員……?スクアーロ、一体何があったの?」
スクアーロの後から、ぞろぞろと談話室に入ってきたのは、誠凛バスケ部員を筆頭とした保護対象者達で、ようやく異常事態を理解した綱吉は、緊張した顔でスクアーロに尋ねる。
苛ついた様子のスクアーロは、それに対して吐き捨てるように答えを返した。
「捕虜にしていたキメラ達が逃げ出したぁ!一匹、頭の働く奴がいたらしい。部下達に探させているがぁ……、向こうは複数匹逃げ出したのに対して、こちらは圧倒的に人数が足りてねぇ。全員捕まえるまではコイツらを一ヶ所に集めて……」
「キ、キメラが逃げ出した!?怪我人は!?って言うか警報装置は!?」
「この間雲雀の野郎が壊していっただろうがぁ!!あと怪我した奴らはどれも軽傷だぁ!」
「そうだったー!!」
キメラが逃げ出した。
その言葉に、全員がざわめく。
いやそれ以前に、彼らがキメラを捕らえていたと言うことに、衝撃を受けた。
「とにかく、残っている奴らを総動員させてキメラを捕らえる。お前はここで、コイツらのことを守りながら指示出しを……」
「いや、それより大変だよスクアーロ!!」
「あ゙あ!?」
「た、高尾君が!高尾君がさっき、ここを飛び出してどこかに行っちゃったんだ!!」
「んだとぉ!?」
すぐにでも部屋を出ていくつもりだったのだろうスクアーロが、綱吉の言葉を聞いて目を見開き、慌てたように詰め寄る。
「どこにいったぁ!?」
「オレが知りたいってば!!とにかくまずは高尾君の保護を優先に……」
「オレが……オレが探しに行くのだよ」
「み、緑間君……?」
ぼそりと、二人の会話を遮ったのは、真っ青な顔をした緑間だった。
綱吉はハッとする。
さっき、頭を冷やせと高尾に言ったのは彼だった。
どう見たって確実に、彼は先程の自分の発言に責任を感じている。
だが、素人が出ていったってどうにもならない、むしろ、被害者が増えるだけだ。
慌てて止めようとした綱吉よりも早く、緑間の前に立ったのはスクアーロだった。
「何があったかは知らねぇがぁ、テメーはここを離れるなぁ」
「だが!それじゃあ高尾はどうなる!?」
「オレ達で探す!テメーらにでしゃばられると迷惑だぁ!!大人しくこの部屋でじっと待ってろぉ」
「くっ……!!」
「その言い方はひどいんじゃないっスか!?」
「みんなとにかく落ち着いて!スクアーロは高尾君を探しながら、逃げたキメラを捕まえていって!!お願いね!」
「わかってる!行くぞてめぇらぁ!」
「はっ!!」
綱吉の指示にしたがって、スクアーロもまた、部下を従えて早足に出ていく。
そして一般人である少年達と、綱吉だけが残された談話室には、静かな緊張が漂っていた。
だがそれも一瞬のことで、彼はすぐに明るく前向きな言葉を返す。
「オレ達に出来る限り、早く帰してあげるつもりだよ。それまでは不安かもしれないけど……外はまだ危険だから、もう少しだけ我慢して……」
「具体的じゃないんだよなー。誰に聞いても、何度聞いても、帰ってくるのは『早く帰す』とか『心配するな』とか、そんな曖昧なことばっかでさぁ。オレ達にだって、守りたい生活って言うの?あるわけ。それを、正義のヒーロー気取ったお前らに、強引に壊される気持ち、わかってんのか?」
「……それ、は……」
きっと高尾は、イラつきのままに言っているのだろう。
止めなければならないことはわかっている。
だがその場にいた彼らもまた、黙り込んで様子をうかがうように、綱吉を見る。
彼らも不安なのだ。
綱吉は一度うつ向き、ゆっくりと顔を上げて、口を開いた。
「……ハッキリとしたことは、まだ言えないんだ……。明日何が起こるかもわからない。もしかしたら、オレ達が負けるって言う結末もあるかもしれない。新年度が始まるまでには、決着をつけるつもりでいるけれど、それはあくまで目安だし、下手すれば何年も決着がつかないまま、君達をここに引き留め続けることになるかもしれない」
綱吉は正直に答えた。
何も隠すことなく、彼らが知りたがっていたことを、簡潔に分かりやすく答えた。
もしかしたら、正直に話してしまったことが悪かったのかもしれない。
もしここで隠していたのなら、彼らもまた、怒りようがあったのだろう。
だが彼らの苛立ちは、不安は、やり場をなくしてしまった。
そして高尾は……彼はもう限界だったのだろう。
近くにあった机を、高尾の脚が蹴りつける。
「っ……!なんだよそれ!じゃあこのまま、オレ達は2度と家に帰れないかもしれないってことか!?」
「そうじゃないよ!絶対に、絶対に勝つから……。だから今は……」
「我慢しろって言うのか?ふざけんな……。オレ達には何も関係ないのに、なんでこんな目に遇わなきゃならねぇんだよ!!」
「……」
「おい、頭を冷やすのだよ高尾!」
「っ!……わかってる!」
何も言えなくなった綱吉を見て、ようやく緑間が高尾を止めた。
相棒に諌められて、高尾も少し頭が冷えたのだろう。
一言怒鳴ると、足早に部屋を出てどこかへと消えていった。
「沢田……お前達の言い分も、立場も、わかっているつもりなのだよ。だが……高尾の言うことも……」
「わかってる」
苦い顔で相棒を庇う緑間の視線は、本人の自覚はないのだろうが、綱吉を責めるように尖ってしまっていた。
そんな彼の言葉を遮り、綱吉は頷き、長く息を吐き出す。
「わかってるよ……。オレも、昔同じようなことを思ったことがあるから……」
「え……?」
自嘲気味な笑みを浮かべた綱吉の言葉に、近くにいた黒子は首を捻って、どう言うことか尋ねようとした。
しかし彼が聞くよりも早く、部屋のドアが大きな音を立てて開かれた。
次いで、それよりも大きな怒声が飛び込んでくる。
「ゔお゙ぉい沢田ぁ!」
「ぎゃー!スクアーロー!?」
「テメー、無線は常に着けておけって言ってるだろうがぁ!」
「え?無線!?何事なの!?」
びくりと肩を跳ねさせて、談話室にいた全員がスクアーロに視線を向ける。
綱吉に向けて、ばしりと小型無線機を投げ付けたスクアーロは、後ろにいた者達に道を開けた。
「黒子っちー!みんなも!無事でよかったっス!!」
「黄瀬君?一体何が……?」
「保護対象者全員……?スクアーロ、一体何があったの?」
スクアーロの後から、ぞろぞろと談話室に入ってきたのは、誠凛バスケ部員を筆頭とした保護対象者達で、ようやく異常事態を理解した綱吉は、緊張した顔でスクアーロに尋ねる。
苛ついた様子のスクアーロは、それに対して吐き捨てるように答えを返した。
「捕虜にしていたキメラ達が逃げ出したぁ!一匹、頭の働く奴がいたらしい。部下達に探させているがぁ……、向こうは複数匹逃げ出したのに対して、こちらは圧倒的に人数が足りてねぇ。全員捕まえるまではコイツらを一ヶ所に集めて……」
「キ、キメラが逃げ出した!?怪我人は!?って言うか警報装置は!?」
「この間雲雀の野郎が壊していっただろうがぁ!!あと怪我した奴らはどれも軽傷だぁ!」
「そうだったー!!」
キメラが逃げ出した。
その言葉に、全員がざわめく。
いやそれ以前に、彼らがキメラを捕らえていたと言うことに、衝撃を受けた。
「とにかく、残っている奴らを総動員させてキメラを捕らえる。お前はここで、コイツらのことを守りながら指示出しを……」
「いや、それより大変だよスクアーロ!!」
「あ゙あ!?」
「た、高尾君が!高尾君がさっき、ここを飛び出してどこかに行っちゃったんだ!!」
「んだとぉ!?」
すぐにでも部屋を出ていくつもりだったのだろうスクアーロが、綱吉の言葉を聞いて目を見開き、慌てたように詰め寄る。
「どこにいったぁ!?」
「オレが知りたいってば!!とにかくまずは高尾君の保護を優先に……」
「オレが……オレが探しに行くのだよ」
「み、緑間君……?」
ぼそりと、二人の会話を遮ったのは、真っ青な顔をした緑間だった。
綱吉はハッとする。
さっき、頭を冷やせと高尾に言ったのは彼だった。
どう見たって確実に、彼は先程の自分の発言に責任を感じている。
だが、素人が出ていったってどうにもならない、むしろ、被害者が増えるだけだ。
慌てて止めようとした綱吉よりも早く、緑間の前に立ったのはスクアーロだった。
「何があったかは知らねぇがぁ、テメーはここを離れるなぁ」
「だが!それじゃあ高尾はどうなる!?」
「オレ達で探す!テメーらにでしゃばられると迷惑だぁ!!大人しくこの部屋でじっと待ってろぉ」
「くっ……!!」
「その言い方はひどいんじゃないっスか!?」
「みんなとにかく落ち着いて!スクアーロは高尾君を探しながら、逃げたキメラを捕まえていって!!お願いね!」
「わかってる!行くぞてめぇらぁ!」
「はっ!!」
綱吉の指示にしたがって、スクアーロもまた、部下を従えて早足に出ていく。
そして一般人である少年達と、綱吉だけが残された談話室には、静かな緊張が漂っていた。