if群青×黒子、違う世界の人たち

「高尾っちなんか飲むっスか!?オレ持ってくるっスよ!」
「桃っち顔色わりーっスよ?疲れた?」
「一緒にバスケするっスよ高尾っち!!」
「桃っちチョコ食べないっスか?オレさっき食堂でもらってきたんス!」

スクアーロに頼まれたことを、忠実にこなそうとする黄瀬。
しかし彼に返ってきたのは、二人の微妙にひきつった愛想笑いと、周りの者達の『うるさい』という言葉だった。

「どうしたんですか。君らしくもなく周りの人の様子を心配したりして」
「オレらしくなくってどういう意味っスか黒子っち!?」
「そのままの意味です。とにもかくにも、君は少し様子がおかしいですよ」
「そ、そんなことないっス!」

高尾や桃井にうるさく構おうとしたせいで、緑間に『黙れ、うるさいからどこか遠くに行っているのだよ』とまで言われた黄瀬は、肩を落として共有スペースの一角に座り込んでいた。
彼に食堂でもらった紅茶を手渡しながら、黒子はじっとその様子を観察する。
ウザいのはいつも通りのことだし、口ではああ言ったが、黄瀬は案外周囲の人間をよく見て、気を使える人間だ。
だが今日に限っては、自発的に気を使ってると言うより、使命感に燃えているという雰囲気だった。

「誰かに何か言われたんですか?」
「ぶっ!ごふっ!?」
「図星ですか」
「そ、そんなことないっス!」
「さっきも同じこと言ってましたよ」
「え!?マジっスか!?」

どうやら当たりだったようで、黒子はふぅっと小さなため息を落とす。
昼間の様子からすると、きっとスクアーロ辺りに何か言われたのだろう。
意外と、周りの人間に影響されやすい男なのだ、彼は。

「どう思いますか、彼らの事を」
「え?」
「マフィアでありながら、僕達を守るなんて言う彼らを、君はどう思いますか?」

影響されやすい男だが、黄瀬には黄瀬なりの芯と言うものがある。
ここに来てすぐには、ストレスや不安でその芯はぐらついていたようだったけれども、今では普段と変わらない明るさを取り戻している。
彼の芯をブレさせることなく、彼を彼らしく戻させたスクアーロに、黒子は少なからず興味を抱いていた。
何も知らない高校生に付き合うのは、きっと彼にとっては、面倒くさいことこの上ないだろう。
なのに文句も言わずに、いっそやり過ぎなくらい気にかけてくれているし、協力的に接してくれている。
黄瀬が信じるから自分も信じる、なんて単純な思考は持ってはいないが、黄瀬を通して彼の事をよく知った上でなら、信じるかどうかを判断することはできると思っていた。
難しい顔をして考え込んでいた黄瀬は、しばらくの後、ポツリと呟いた。

「わかんないっスよ、そんなこと」
「え?」

今度は黒子が不意を突かれて、ポカンと口を開ける。
黄瀬ならもっと、ポジティブな感想を言うと思っていたのだ。

「スクっちとはちょっとだけお話しできたけど、それ以外は全然わかんねーっス。だってオレ達、あの人達の正体知ってから、まだ全然時間経ってないじゃないっスか」
「それは、その通りですね」
「スクっちはきっといい人ッス。オレに良くしてくれたとか、そう言うことじゃなくて。オレ達に対してちゃんと、真っ直ぐに接してくれようとしてるって言うか、ちゃんと責任を持とうとしてくれるって言うか……。言葉にするのは難しいんスけど、オレは……なんて言うか……」
「彼の事を、認めている、ということでしょうか」
「そう、それっス」

深く頷いた黄瀬に、黒子もフムと頷いた。
なるほど、彼もそれなりに、考えてはいたらしい。

「黒子っちは、どう思ってるんスか?」

黄瀬に言われて、黒子もまた考え込んだ。
彼らの事を信用はしていない。
だが、彼らの動きを見ていて、その言葉を疑う気にはなれなかった。
彼らの言葉に嘘はないだろう、そこまでが、黒子の見解である。

「信じてはいません。ですが、今は彼らに従うのが正しいと、そう思っています」
「そうッスか……」
「しかし彼らはきっと、そうは思ってないのでしょうね」
「彼ら?」
「高尾君や桃井さん……いえ、二人以外にも、先生……もとい、スクアーロさん達に不信感を抱いている人は多そうだ」

二人と常に行動を共にしている緑間や青峰は、よく周りの男達に鋭い視線を向けていたし、黛もあまり好意的な感情は持っていないようだ。
なるべく早く、この事態に決着がついてくれれば、それが一番良いのだろうが……。

「……今日も、ここは忙しないですね」
「?……そうッスね、皆大変そうッス」

それはあまり、期待できそうにない。
黄瀬に倣うのは少し癪だが、自分も彼らの様子を気にかけた方が良さそうだ。
黒子テツヤは小さくため息を吐いて、心の中で呟いた。
ああ、マジバのバニラシェイクが飲みたい。
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