if群青×黒子、違う世界の人たち

合流した二組は、順調に上の階へと上っていく。
食料庫、厨房、武器庫、演習部屋、和室の並ぶ階、トレーニングルーム、その他諸々、様々な部屋を見て回る。
少し元気が出たらしい者達、逆に更に元気がなくなったらしい者達。
少年達の様子を観察しながら、スクアーロは不機嫌そうに眉間のシワを増やした。

「……よくねぇな」
「……はい」

スクアーロの小さな呟きを拾い、入江もまた、険しい顔つきで答える。
二人の視線の先には、桃井と高尾の姿があった。
二人とも、だいぶ顔色が悪い。

「あのままでは、いつ倒れるか……」
「何とかしてやれりゃあいいがぁ、……生憎オレは午後から仕事だぁ」
「あ、そうでしたよね……。う~、お腹痛くなってきた……」

多忙を極めるスクアーロが、四六時中彼らについているのは無理なことで、彼女以外の者だって暇なわけではない。
さて、どうするか。
自作の胃薬を口に放り込む入江の横で、スクアーロは難しい顔をしたまま、こっそり黄瀬を呼び寄せる。
首を傾げながら、スクアーロのジェスチャーに従って、こっそりと近寄ってきた黄瀬に、彼女は声を潜めて耳打ちする。

「黄瀬、お前に頼みがあるんだが……」
「頼みっスか?」
「……秀徳の二人や、桐皇の二人のことを、気を付けて見ていてもらいてぇ」
「え……でも……」
「オレ達にも、出来ないことがある。よく知らない相手と接するより、よく知ってる相手といた方が、緊張も解けるだろう。……特別気負う必要はねぇ。なんかあったら、オレ達に報告するだけでもいい。力になって、くれないか?」
「……オレに、出来るかどうかわかんねーっスけど、他ならぬスクっちの頼みっす!やってみる!」
「……ありがとなぁ」

入江は、そんな二人の様子を見てほうっと息を吐き出す。
スクアーロの言葉は、絶妙に相手の心を揺さぶる。
心地いい言葉達に、頭の奥に染みるような声色、そしてあたかも自分を頼ってくれているかのような顔色。
巧みにそれらを扱って、人心を動かす。
動かされた者は、そうとも知らずに、彼女の為に動くのだ。
ズルい、と言ってしまえば、そこで終わりだが、その技術はやはり、いつみても感心する。

「……なあ、入江」
「え、あ、はい……なんですか?」
「オレは、ズルいかな?」
「え……」

黄瀬が仲間達の元に戻っていくのを見送りながら、スクアーロはそう訊ねてきた。
心の中を見透かされたような気になって、ドキリと心臓が跳ねる。

「……いや、やっぱりいい。そろそろ時間だぁ。悪いがオレは仕事に戻る」
「あ、はい!」
「後、頼んだからなぁ」

そう言って、少年達に挨拶もせずにこっそりと立ち去っていくスクアーロを見て、入江は悲しそうな顔をした。

「一番無理してるのは、あなたなんじゃあないですか、スクアーロさん……」

彼の小さな呟きは、誰に拾われることもなく、宙に落ちて掻き消えた。


 * * *


「まったく、最悪だっ!くそっ!猿並みの頭脳のクズどもがっ!!何であれがボンゴレの幹部に立つことが出来たんだ?ズルか?ズルしたのかっ!?」

グシャリ、ガシャンと、とある部屋からは破壊音が絶え間なく続いていた。
部屋の主はイエナ・ファットーリ。
ボンゴレの元大幹部達との会合から帰った彼は、人がいないことを確認した途端に、そう言い放ったのだ。

「しかし、まあ良い。あの老害どもも、自警団の戦いぶりを見て十分に思い知っただろうっ!思いしったよなぁっ!?自警団はオレ様が全力全霊でなぶり潰すのに足る組織だっ!!あぁあああぁあ!!素晴らしいぞ、自警団の連中はっ!!あの猛攻を、あれだけの犠牲で乗りきることが出来るなんてっ!ああっ!なんてっ!素晴らしいんだっ!!!」

エクスクラメーションマークを1つつける度に、周囲にあるモノを壊し、暴れながら叫ぶイエナ。
彼のこの様子を知っているものは少なく、数少ない内の一人である使用人は、いつものことかとため息を吐き、暴走が収まるのを部屋の外に出て待っている。

「ふふふっ!あははははっ!!!オレの予想通り、上手くやってのけてくれたもんだよっ!」

グシャグシャになって、彼の手に握られている紙の束は、今回の戦いの報告書だった。
向こうの被害はごく少なく、そしてこちらの被害は甚大だった。
本来なら、旧ボンゴレ側の策士である彼が責められるところだったが、彼はそれを自慢の策で逃れたのである。
……と言っても、口八丁で言い逃れただけのことだったが。

「ひゃはは……良いぞ、良いぞっ!欲しかったものも手に入った……。すぐに見付けて、……ぶっ潰してやる」

にったりと笑い、イエナは持っていたグラスから手を離した。
重力に従い、地面へと落ちていくグラス。
耳障りな音を立てて割れたグラスに、彼は更に笑みを深めた。
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