if群青×黒子、違う世界の人たち

「ところで、さっきからボンゴレ?以外の名前もちょくちょく出てきてますけど、あれって何なんですか?」

基地の一番下の階、食料庫などが並ぶ場所を案内されながら、黒子は前を行く背中にそう問いかけた。

「そう言えば、さっきも言ってたわよね。えーっと……」
「ミルフィーユとかレモンとかチェストとかのことか?」
「違うわよ~!ミルフィオーレにシモンにチェデフよん♪」

木吉のベタな間違いを、ルッスーリアが几帳面に正す。
確かに、イタリア語は彼らに馴染みもなく、覚えづらいのだろうが、チェストは少し酷くないだろうか。

「全部別々の組織の名前だぁ。ミルフィオーレは既に解散した組織の呼称だが、シモンと併せて、どちらもマフィアの組織の名前だ」
「……えっ!?アイツらもマフィアなのか!?」
「ちょ……あのおどおどした感じの子も!?」

確かに、始終ふざけている白蘭や、気弱そうな炎真は、マフィアと言われてもピンと来ないだろう。
それに何より、全員若い。
納得できないという顔をしながら、全員が首を傾げる。

「そもそも、自警団って言うのは、マフィアの前身となる組織だと言われている。ここに関わっている人間の大半は、マフィアの人間だぜ」
「そう、なんですか……」
「えっと……スクアーロさん、達もそうなんですよね……?」
「……呼びづらけりゃ、この間までと同じ呼び方で良い。ちなみに、オレ達の組織の名はヴァリアー。かつてはボンゴレのボス直属組織だった」

かなり詳細は省いた言い方をする。
まあ、独立暗殺部隊だった、なんて言えば、ドン引きされることは間違いないだろう。
スクアーロは、他の二人にも目配せをして、発言に気を付けるようにと合図を送る。

「直属ってなんか凄そうっスね!!」
「そんなことないのよぉ~!うちは直属って言っても、扱いづらかったせいで厄介者扱いされることも多かったし」
「便利屋という感じだったなぁ」
「チェデフと仲が悪かったせいもあって、扱いが悪かった……」
「大変だったんですね……」

面倒ごとを押し付けられるのは、今も変わらないが……。
スクアーロ達は遠い目をして、あらぬ方向を見ている。

「チェデフってのはなんなんスか?」
「チェデフはボンゴレの門外顧問機関だぁ。……まあ、簡単に言えば、組織のストッパー、ってところだなぁ」
「ストッパー?」
「ボンゴレ本体が、間違った方向へと進もうとしたときに、外側から止める役割だ。監視役、と言えば分かりやすいかぁ?」
「監視役……すか?」

首を傾げる少年達に、詳しく説明してやりながら、スクアーロは目の前の扉を開けた。

「お゙ら、ここは車庫だぁ」
「おお……!」
「すげぇ!こっちじゃあんまり見ない外車もある!」
「スクアーロ殿!皆さん!お待ちしておりました!」
「あ……えーっと、バジル、さん?」
「それとスパナさん、でしたよね」
「バジル、と呼び捨てにしていただいて構いません!」
「ウチも、スパナで良い」

車庫と紹介された場所で待っていたのは、バジルとスパナの二人だった。
遠慮気味に彼らを呼んだ日向と伊月は、戸惑ったように、眉を下げたり、頭を掻いたりしている。
車の群れを見て、テンションが上がりかけた火神も、戸惑ったように眉をひそめる。

「ラボへの立ち入りの許可が下りました!拙者達に着いてきてください」
「ラボにいる奴ら、変わっているけど、良い奴らばかりだ」

そう言った二人は、さっそく踵を返して奥の扉へと向かっていく。
どうやらそこがラボへの入口らしい。
黄瀬は、そういえば入江に会ったのもここだったな、などと考えて納得している。

「ラボ……ってなんだ?です?」
「ラボはそっくりそのまま名前の通り、研究する場所のことよぉ。うちは機械工学専門の人間が多いから、この車庫と繋がった場所に研究室があって、そこからさらに、上二階分が研究室として使われてるの♪一つ上の階には、通信室もあるのよ」
「研究って……何をしてるんですか?」

食いついたのは、やはりというか、黒子だった。
スクアーロは彼に向き直ると、研究の内容について説明する。

「まず、ここの階のラボには、メカニックが多く働いている。移動や戦闘に使う装置、またはこの基地を守るための装置の開発が、主な目的だぁ」
「上の階は確か、情報室を兼任していたな。かなり色々な分野の研究者が集まっていたはずだ」
「あ゙あ、あそこは総合的に研究を行っているからなぁ。情報通信から、薬剤開発まで、多岐に渡る分野の研究をしている」
「ここから二つ上のラボは、主に生態研究だったかしらん?あなた達を襲ったキメラの研究だったり、死ぬ気の炎が人体にもたらす影響を調べたり、一部では、人体再生技術の研究もしてたはずね」

スクアーロ、レヴィ、ルッスーリアによる説明で、火神や黄瀬は目を回しているようだったが、何とかその説明についていくことの出来たリコが、不思議そうに手を上げて質問する。

「あの、人体再生技術って?」
「……あ゙ー、オレ達は戦闘を行うから、怪我をすることも多い。そんなわけだからまあ、体の一部が欠損している人間もよくいるんだぁ」
「欠けたその一部を、元通りに戻そうっていう研究よぉ。なかなか難しいらしいけどねぇ」

リコや黒子は、頭の中でその説明を反芻する。
人体再生、なくなった箇所を元通りに……。
ならば、『壊れた箇所を元通りに』することも、可能なのでは……?
そして、次に口を開いたのは、意外にも、リコや黒子が頭の中に思い浮かべていたその人だった。

「じゃあ、もしかしてオレの膝を治すことも、出来たりしますか?」

木吉が期待に満ちた顔で、そう訊ねる。
もしかしたら、もうバスケはできないかもしれない。
そう思っていた彼の心に、一筋の光明が射していたのだ。

「そう、か……なるほど、そうだなぁ。詳しいことは聞いてみねぇとわからねぇがぁ、確かに、可能性はある。後で医者と研究員を呼んでみてもらおう」
「!ありがとう、ございます!!」

ぱあっと顔を輝かせて、木吉が頭を下げる。
ヴァリアーの三人は、少し戸惑ったような顔をしていた。

「これくらい大したことじゃぁねぇ。……ゔお゙ぉい、さっさとラボの見学行くぞぉ。バジルとスパナが待ってる」

そそくさと歩いて行った三人の後を、少しばかり明るい表情になった少年達が追いかけて行ったのであった。
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