if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯
間抜け面を晒す、というのはこういうことを言うのだろうか。
山本の寝顔を見ながら、スクアーロはそんなことを考えていた。
大口を開けて気持ち良さそうに眠るその顔は、確かに間が抜けている。
木の根元に放り投げても目覚めない山本に、気付け薬を嗅がせると、何度か目をシパシパとさせた後に、大きな欠伸をした。
「ふぁ~……あ、よく寝たのなー」
「強い薬だったからな」
「なんか頭がガンガンする……」
「強い薬だったからな」
面倒臭そうに答えるスクアーロに唇を尖らせながら、自分の周囲を見た山本はハッとした。
「お、ちゃんと並盛山についてるのなー」
「ああ、もう何時間かすれば、知り合いが来る。そうしたらまた移動だぁ」
「わかったのなー」
そこは、大きな木々が軒を連ねて立ち並ぶ場所だった。
すっかり日も昇った朝だと言うのに、辺りは涼しく仄暗い。
山のかなり奥の方にいるのだろうと辺りをつけた山本は、次に自分の体を見る。
「あり?オレ、服着替えたっけ?」
「……元からその服だっただろ」
「んー……そうだったか?」
目線を逸らして少し不自然な間を開けて答えたスクアーロには、疑いの目を向けることなく、山本は納得してしまう。
実は気付け薬を嗅がせる前に、1度拘束を解いて服を着替えさせて、ざっと体も拭いてやったりしたわけだが、やっている間中、何か犯罪的な匂いを感じて居たたまれない気持ちで一杯になっていたスクアーロは、その事を喋るつもりはないらしい。
山本だって思春期の男子なのだ。
それを知ったら嫌がるかもしれないし、彼のプライドにも関わる問題だろう。
そう自身に言い訳して立ち直ったスクアーロは、昨日の内に揃えておいた荷物の中身をまさぐる。
「ゔお゙ぉい、腹へっただろぉ。これ食え」
「ん?……むごっ」
振り向き様に山本の口に突っ込んだのは、某バランス栄養食のブロックタイプである。
モゴモゴと口を動かして食べ終えた山本は眉間にシワを寄せてボソリと呟いた。
「ボソボソするのな……」
「お゙ら、水」
「サンキューなのなー」
丁寧にストローを差して渡されたペットボトルの水を飲み、一息吐いた山本は、早速おかわりを要求する。
無言で、ただし少し不機嫌そうに、それに応じたスクアーロは、また山本の口にカロリー○イトを突っ込む。
彼らは気付いていないようだが、これは所謂『あーんして♡』というあれである。
山本が満足するまでそうしてイチャつい……ではなく朝食を与えた後、二人はある程度の距離を保ったまま、だらだらと世間話をして過ごした。
* * *
――その頃、並盛中学校では
「……皆さんに、悲しいお知らせがあります」
担任教諭の言葉に、生徒達がざわめいている。
しかしそのざわめきも、次に続いた言葉に、完全に消え失せた。
「今朝、山本武君が亡くなられたと、親御さんからご連絡がありました」
沈黙の教室に、教師が耐えきれなくなったように一粒涙をこぼす。
それを切っ掛けに、ポツリポツリと、生徒達の声が漏れ出す。
「え……え?誰?誰が……?」
「山本君が……、え、なに?」
「う、ウソ、……だってこの前まで、元気で……!」
「いやっ!いやいや、冗談でしょ先生!?」
「ヤダ!!武が死んだなんてっ!!そんなわけないじゃない!!」
徐々に徐々に、生徒達の声は疑問から悲鳴へと変わり、あっという間に教室中が絶叫とも泣き声とも言えるような声に満たされた。
そんな中で、何人かの生徒の不在を特別気にするものはいない。
何人かの生徒……クラス一の不良児獄寺隼人、学校のアイドル笹川京子、そしてダメツナとアダ名されるほどの劣等生沢田綱吉。
彼らは、常に騒動の中心に立つ謎の赤ん坊、リボーンに呼び出されて、学校の屋上に来ていた。
いや、彼らだけではない。
笹川京子の兄、笹川了平、並盛の秩序雲雀恭弥、ボヴィーノファミリーの一員で現在沢田家に居候中のランボ、そして他校の生徒である三浦ハルに、霧の守護者代理のクローム髑髏、他にも、毒サソリビアンキや、ランキングフゥ太、香港から来た幼い暗殺者イーピン……と、ボンゴレ10代目に関係する多くの人々が集められている。
そのせいで雲雀がピリピリしているようだが、それ以上に彼には気になることがあった。
「これだけの人数を集めて、この場面で言うことなんて1つだよね。赤ん坊、山本武が死んだって言うのは嘘だろう?」
並盛中の風紀を取り締まる雲雀は、山本武死亡の報告をいち早く受け取っていたのだ。
だが他のメンバーは誰も知らなかったらしく、雲雀の言葉に動揺が走る。
ざわつく彼らに渇を入れるような、リボーンの鋭い声が響いた。
「静かにしねーか。……まずは表向きに公表される予定の情報を教えてやるぞ。山本は昨日、夜中に散歩に出掛けた先で車にハネられて死んだ。……ということになってる」
「極限どういうことなのだ!?山本は車程度にハネられて死ぬほど軟弱ではないぞ!!」
普段ならここで、沢田綱吉のツッコミが入るはずだった。
『いやいや、車にハネられたら流石の山本でも死んじゃいますから!!』といった具合に。
だがこの時ばかりは違った。
困ったような、言葉に表し難い表情で俯き沈黙を保つ彼を、周りの者達も不安げに見つめる。
綱吉に向けられた注意を自分に引き戻すように、リボーンが了平の問いに答えた。
「その通りだぞ、今の情報は真っ赤な嘘だ。山本はちゃんと生きている」
「じ、じゃあなんで野球バカが死んだなんてデマを……!」
「山本は、今は言えねぇ深い事情で並盛を離れなくちゃならなくなったんだぞ。スクアーロが着いてるから心配はしなくて平気だ」
「なっ!ヴァリアーがですか!?」
獄寺はヴァリアーであるスクアーロの存在に不満を抱いたらしかったが、他の者達は、『今は言えねぇ深い事情』とやらの方が気になったらしい。
「赤ん坊、なぜ事情が言えないんだい?それを聞かなければ、退けないな」
「簡単なことだぞヒバリ。下手に事情を話せばお前らに危険が及ぶからだ」
「そ、そんな……!山本さんはそんなデンジャーなところにいるんですか!?」
「山本はそこまで危なくねーぞ。どっちかというと、今危険なのはスクアーロだな」
「?どういうことだ?」
「山本は危険に巻き込まれたって言うより、山本が危険な存在になったんだぞ。……悪いがこれ以上は言えねーな。お前らに言いたいことは、この事は一切他言無用、そして山本のことについて詮索するのもダメだってことだぞ」
「みんな、お願い……」
綱吉が深々と頭を下げると、それ以上聞き出すことは誰もせず、ただ納得のいかない顔で、屋上から去っていった。
「10代目……」
「ごめんね、獄寺君。でも、待っていてほしいんだ」
「……はい、10代目がそうおっしゃるのなら、オレは信じて待ちます!」
教室に戻りながら、そんな会話を交わす主従二人。
「赤ん坊、他言無用は守ってあげる。でも悪いけど、詮索禁止は、守ってあげられないな」
「ヒバリ」
「うちの学校の生徒が、なにがしかの事件に巻き込まれたのに、僕が事態の把握もできず、ただ流されるだけなんて、許せないからね」
「……」
「ワオ、君もそんな顔をするんだね。山本武が何に巻き込まれたのか、ますます興味が沸いてきたよ」
渋面の赤ん坊と鋭い笑みを浮かべる少年。
「大丈夫かな……山本君」
「スクアーロさんも、危険だって言ってましたよね、リボーンちゃん……」
「心配するな京子、三浦ハル!!アイツらは並大抵の危険ではへこたれぬ、極限強い精神力の持ち主なのだからな!!」
「お兄ちゃん……」
心から心配する優しい者達。
「骸様……私、どうすれば……。……はい、…………はい」
一人呟き交信するもの。
その他の者達も、それぞれに不安そうに顔を曇らせていた。
彼らの間には、幾ばくかの不安と緊張がもたらされたが、それでも時間は平等に進む。
学校は休みになり、生徒達はそれぞれの家に帰っていく。
正午を知らせるチャイムが、誰もいない校内に響いていた。
山本の寝顔を見ながら、スクアーロはそんなことを考えていた。
大口を開けて気持ち良さそうに眠るその顔は、確かに間が抜けている。
木の根元に放り投げても目覚めない山本に、気付け薬を嗅がせると、何度か目をシパシパとさせた後に、大きな欠伸をした。
「ふぁ~……あ、よく寝たのなー」
「強い薬だったからな」
「なんか頭がガンガンする……」
「強い薬だったからな」
面倒臭そうに答えるスクアーロに唇を尖らせながら、自分の周囲を見た山本はハッとした。
「お、ちゃんと並盛山についてるのなー」
「ああ、もう何時間かすれば、知り合いが来る。そうしたらまた移動だぁ」
「わかったのなー」
そこは、大きな木々が軒を連ねて立ち並ぶ場所だった。
すっかり日も昇った朝だと言うのに、辺りは涼しく仄暗い。
山のかなり奥の方にいるのだろうと辺りをつけた山本は、次に自分の体を見る。
「あり?オレ、服着替えたっけ?」
「……元からその服だっただろ」
「んー……そうだったか?」
目線を逸らして少し不自然な間を開けて答えたスクアーロには、疑いの目を向けることなく、山本は納得してしまう。
実は気付け薬を嗅がせる前に、1度拘束を解いて服を着替えさせて、ざっと体も拭いてやったりしたわけだが、やっている間中、何か犯罪的な匂いを感じて居たたまれない気持ちで一杯になっていたスクアーロは、その事を喋るつもりはないらしい。
山本だって思春期の男子なのだ。
それを知ったら嫌がるかもしれないし、彼のプライドにも関わる問題だろう。
そう自身に言い訳して立ち直ったスクアーロは、昨日の内に揃えておいた荷物の中身をまさぐる。
「ゔお゙ぉい、腹へっただろぉ。これ食え」
「ん?……むごっ」
振り向き様に山本の口に突っ込んだのは、某バランス栄養食のブロックタイプである。
モゴモゴと口を動かして食べ終えた山本は眉間にシワを寄せてボソリと呟いた。
「ボソボソするのな……」
「お゙ら、水」
「サンキューなのなー」
丁寧にストローを差して渡されたペットボトルの水を飲み、一息吐いた山本は、早速おかわりを要求する。
無言で、ただし少し不機嫌そうに、それに応じたスクアーロは、また山本の口にカロリー○イトを突っ込む。
彼らは気付いていないようだが、これは所謂『あーんして♡』というあれである。
山本が満足するまでそうしてイチャつい……ではなく朝食を与えた後、二人はある程度の距離を保ったまま、だらだらと世間話をして過ごした。
* * *
――その頃、並盛中学校では
「……皆さんに、悲しいお知らせがあります」
担任教諭の言葉に、生徒達がざわめいている。
しかしそのざわめきも、次に続いた言葉に、完全に消え失せた。
「今朝、山本武君が亡くなられたと、親御さんからご連絡がありました」
沈黙の教室に、教師が耐えきれなくなったように一粒涙をこぼす。
それを切っ掛けに、ポツリポツリと、生徒達の声が漏れ出す。
「え……え?誰?誰が……?」
「山本君が……、え、なに?」
「う、ウソ、……だってこの前まで、元気で……!」
「いやっ!いやいや、冗談でしょ先生!?」
「ヤダ!!武が死んだなんてっ!!そんなわけないじゃない!!」
徐々に徐々に、生徒達の声は疑問から悲鳴へと変わり、あっという間に教室中が絶叫とも泣き声とも言えるような声に満たされた。
そんな中で、何人かの生徒の不在を特別気にするものはいない。
何人かの生徒……クラス一の不良児獄寺隼人、学校のアイドル笹川京子、そしてダメツナとアダ名されるほどの劣等生沢田綱吉。
彼らは、常に騒動の中心に立つ謎の赤ん坊、リボーンに呼び出されて、学校の屋上に来ていた。
いや、彼らだけではない。
笹川京子の兄、笹川了平、並盛の秩序雲雀恭弥、ボヴィーノファミリーの一員で現在沢田家に居候中のランボ、そして他校の生徒である三浦ハルに、霧の守護者代理のクローム髑髏、他にも、毒サソリビアンキや、ランキングフゥ太、香港から来た幼い暗殺者イーピン……と、ボンゴレ10代目に関係する多くの人々が集められている。
そのせいで雲雀がピリピリしているようだが、それ以上に彼には気になることがあった。
「これだけの人数を集めて、この場面で言うことなんて1つだよね。赤ん坊、山本武が死んだって言うのは嘘だろう?」
並盛中の風紀を取り締まる雲雀は、山本武死亡の報告をいち早く受け取っていたのだ。
だが他のメンバーは誰も知らなかったらしく、雲雀の言葉に動揺が走る。
ざわつく彼らに渇を入れるような、リボーンの鋭い声が響いた。
「静かにしねーか。……まずは表向きに公表される予定の情報を教えてやるぞ。山本は昨日、夜中に散歩に出掛けた先で車にハネられて死んだ。……ということになってる」
「極限どういうことなのだ!?山本は車程度にハネられて死ぬほど軟弱ではないぞ!!」
普段ならここで、沢田綱吉のツッコミが入るはずだった。
『いやいや、車にハネられたら流石の山本でも死んじゃいますから!!』といった具合に。
だがこの時ばかりは違った。
困ったような、言葉に表し難い表情で俯き沈黙を保つ彼を、周りの者達も不安げに見つめる。
綱吉に向けられた注意を自分に引き戻すように、リボーンが了平の問いに答えた。
「その通りだぞ、今の情報は真っ赤な嘘だ。山本はちゃんと生きている」
「じ、じゃあなんで野球バカが死んだなんてデマを……!」
「山本は、今は言えねぇ深い事情で並盛を離れなくちゃならなくなったんだぞ。スクアーロが着いてるから心配はしなくて平気だ」
「なっ!ヴァリアーがですか!?」
獄寺はヴァリアーであるスクアーロの存在に不満を抱いたらしかったが、他の者達は、『今は言えねぇ深い事情』とやらの方が気になったらしい。
「赤ん坊、なぜ事情が言えないんだい?それを聞かなければ、退けないな」
「簡単なことだぞヒバリ。下手に事情を話せばお前らに危険が及ぶからだ」
「そ、そんな……!山本さんはそんなデンジャーなところにいるんですか!?」
「山本はそこまで危なくねーぞ。どっちかというと、今危険なのはスクアーロだな」
「?どういうことだ?」
「山本は危険に巻き込まれたって言うより、山本が危険な存在になったんだぞ。……悪いがこれ以上は言えねーな。お前らに言いたいことは、この事は一切他言無用、そして山本のことについて詮索するのもダメだってことだぞ」
「みんな、お願い……」
綱吉が深々と頭を下げると、それ以上聞き出すことは誰もせず、ただ納得のいかない顔で、屋上から去っていった。
「10代目……」
「ごめんね、獄寺君。でも、待っていてほしいんだ」
「……はい、10代目がそうおっしゃるのなら、オレは信じて待ちます!」
教室に戻りながら、そんな会話を交わす主従二人。
「赤ん坊、他言無用は守ってあげる。でも悪いけど、詮索禁止は、守ってあげられないな」
「ヒバリ」
「うちの学校の生徒が、なにがしかの事件に巻き込まれたのに、僕が事態の把握もできず、ただ流されるだけなんて、許せないからね」
「……」
「ワオ、君もそんな顔をするんだね。山本武が何に巻き込まれたのか、ますます興味が沸いてきたよ」
渋面の赤ん坊と鋭い笑みを浮かべる少年。
「大丈夫かな……山本君」
「スクアーロさんも、危険だって言ってましたよね、リボーンちゃん……」
「心配するな京子、三浦ハル!!アイツらは並大抵の危険ではへこたれぬ、極限強い精神力の持ち主なのだからな!!」
「お兄ちゃん……」
心から心配する優しい者達。
「骸様……私、どうすれば……。……はい、…………はい」
一人呟き交信するもの。
その他の者達も、それぞれに不安そうに顔を曇らせていた。
彼らの間には、幾ばくかの不安と緊張がもたらされたが、それでも時間は平等に進む。
学校は休みになり、生徒達はそれぞれの家に帰っていく。
正午を知らせるチャイムが、誰もいない校内に響いていた。