if群青×黒子、違う世界の人たち

「あ、おはよう赤司君!」
「……おはよう、綱吉」
「ご飯あるから、食堂で待っててね」

僕……いや、オレの名前は、赤司征十郎。
キセキの世代と呼ばれた仲間達の、かつての主将だった者だ。
……今はもう、彼らとは対等な関係だと思っているけどね。

「あらーん?早いのねぇ、今の子って!」
「……おはようございます」
「うふぅん、すぐに朝御飯の用意してあげたいところだけどぉ、その前にお友達のこと、起こしてきてもらえるかしらぁ」
「わかりました」

食堂に行くと、室内なのにサングラスを掛け、カラフルなモヒカンを揺らす男……いや、オカマの人にそう言われた。
確か、ルッスーリア、とか呼ばれていたか。
食堂を見回すと、どうやらほとんどの仲間達はまだ寝ているらしくて、起きているのはほんの数人だけだった。
誠凛の木吉さん、真太郎、敦の3人だけ。
木吉さんはともかく、あの二人は起こしてきてと頼まれて、素直に起こしにいく玉じゃないだろうな。
食堂を見回していたオレと、木吉さんの視線がたまたまかち合う。

「えーと、オレさっき何人かに声掛けたけど、起きなかったんだよな」
「そうですか。ちなみに何分くらい前ですか?」
「ん?一時間前かな」
「一時間?」

現在時刻は6時30分。
一時間前だと、5時半……。
だいぶ早く起きてたんだな、彼は。
こほん、と一度咳払いをして、気持ちを切り替える。
それなら既に何人かは、起き出しているかもしれない。
オレは木吉さんと連れ立って、仲間達の部屋へと向かった。


 * * *


「まずは誠凛の人達の部屋ですね」
「カントクと伊月は起きてそうだな」

まず向かったのは、一番食堂から近い位置に部屋のある、誠凛の人達の元だった。
まず扉を叩いたのは、相田さんの部屋。
だが、オレ達が起こすまでもなかったらしい。

「今行くー!」

部屋の中から声が聞こえてきた。
既に身支度も整えているらしい。
オレは彼女の部屋から離れて、伊月さんの元へと向かう。

「伊月さん、起きていますか」
「おー、起きてる起きてる。今出るよ」

すぐに出てきた伊月さんと、相田さんと合流して、日向さんの元へと向かった。
その合間に、ちょっとした会話。

「しかし……、まさか赤司と合宿することになるとは、思わなかったなー」
「合宿とは違うと思いますけど。確かにオレも、予想外でした」
「って言うか、私達がマフィア?とか、そんなのに巻き込まれるって言うのが予想外だわ……」
「まったくだよな……」
「先生がまさか、マフィアだったなんてな」
「……そう言えば、日向はオレ達より早く、この事知ってたんだよな?」
「……そう言えば」

目の前の扉を見詰める先輩達。
なんというか、疎外感を感じるな。
まあ、当然のことなんだろうけれど。

「……日向さんの事、お願いしても良いですか?オレはテツヤと大我を起こしてきます」
「え、ああ!ありがとな!助かるぜ、赤司」
「おー、ありがとな。日向って寝起き悪いから、少し遅くなると思う。オレ達が来なかったら、先に他の奴起こして待っててくれよな」
「ごめんね赤司君、気を利かせてくれて」
「いえ、オレは何も」

気を利かせたなんて、そんなつもりはない。
ただ、彼らの邪魔をしたくなかっただけだ。
信じていた相手に、隠し事をされていた、というのは、きっとショックを受ける事だ。
彼らだけで話したいこともあるだろう。
そう思って、他の奴らを起こすために歩き出した。


 * * *


「……と、言うことがあったんだ」
「えーっと、それを聞いて、オレはどうすれば良いのかな?」
「皆、不安がっている」
「そう言われても……、うーん……オレ達には事情を説明するくらいしか出来ないしなぁ……」

と、そんな早朝の出来事を話してみた。
相談相手である綱吉は、頭を掻いて気難しげに唸っている。

「テツヤと大我は寝不足で機嫌が悪かったし、黄瀬は本当にモデルかと疑いたくなるような柄の悪いオーラを醸し出してたし」
「うわぁ……」
「大輝は確実に人ひとり位殺っちゃってそうな顔してたから、さつきが泣きそうだったし、氷室さんは何を考えているのかわからなかったけれど、高尾は空元気を振り撒いてていっそ痛々しかった」
「それは、まずいね……」
「オレのチームメイト達は朝っぱらから喧嘩をしていた」
「それは朝食でソーセージの取り合いしてただけだよね?」

まあ、チームメイトに関しては、特に不安がる必要はないだろうが、だが他の人々に関しては、何かしら対処が必要だと思う。

「それで、ここの責任者に君から話を通してもらって、何かしら対処をしてもらいたいと思ったんだ」
「え?……あ、言ってなかったっけ」
「何をだい?」
「ここの責任者、一応、オレ、なんだよね~……あはは」
「え」

ちょっと情けない顔をして、と言うか、疲れたような顔をして言った綱吉に、オレは絶句する。
昨日だけで、色んな人を見た。
確かに綱吉が中心になって動いていたような気がするけれど、他にも大人が何人かいたはずなのに、責任者が自分達と同い年の綱吉?
どういう事だろう。

「いや、オレ実は旧ボンゴレ……マフィアボンゴレの10代目の後継者……だったんだよね。オレがマフィアのボスなんて継がない、って公言しちゃったからこその、この抗争なんだけど……。まあとにかく、そんな立場だから、オレがここの責任者になっちゃってるって訳。と言っても色んな人にサポートしてもらって、何とか成り立ってるんだけどね……」
「……それは、皆には説明しないのか?」
「するつもりだったんだけど、忘れてた」
「……」
「ご、ごめんなさい……」

まあ、この際、彼がだいぶ大事なことを話し忘れていたことについて、責めることは止めよう。
今、大事なのは、仲間達の心の問題である。

「綱吉が責任者なら……ふむ、どうするかな……」
「頼りなくて本当、ごめんね。とりあえず、……そうだなぁ、周りに相談してみて、後は個人個人と話をしてみるとか……それくらいしか出来ないかも」
「いや……、それだけでも十分だよ。ありがとう、綱吉」

オレも、それ以外の方法は思い当たらない。
立ち上がった綱吉に、オレは頭を下げる。

「よろしく頼む」
「わ!わわっ!頭上げてよ!オレ達の勝手で巻き込んじゃったんだもん!大丈夫、安心して!オレ達に出来ること、何でもするから!」

力強く笑った綱吉に、オレはようやく、肩の力を抜くことができた。
ああ、オレらしくもなく、少し緊張しすぎていたのかもしれない。

「……って言っても、オレに出来ることなんてたかが知れてるんだけどね……」
「そんなことはない。ありがとう、綱吉」

少なくとも、オレの心は彼の言葉で、重荷を降ろすことが出来たのだから。
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