if群青×黒子、違う世界の人たち

人っ子一人いない田舎道を、一台のバスが猛スピードで走っていく。
巧みにカモフラージュされているが、見る人が見れば、バスの至る所に大量のキメラが張り付いている事が分かる。
しかし一閃、オレンジ色の炎が輝く。
その炎に吹っ飛ばされて、7割ほどのキメラが脱落した。
さらに青い炎、赤い炎が柱になって立ち上る。
残った数体のキメラも落とされ、バスはさらにスピードを上げた。
幻術を使っているのだろう、同じ形のバスが何台にも増殖して、四方八方へと散っていく。
その内の一台のバスは、しばらく走った後、錆びれた工場の跡地に入っていった。
工場の中には何もなく、バスが動きを止めた途端、ゴゴン、と大きな音を立てて、地面がゆっくりと沈み始める。
工場の床全体が、エレベーターのようになっているのだ。
しばらく沈黙が続き、エレベーターが止まったその後、綱吉が先程までの勇ましさはどこへ行ったのか、おどおどとした声で呟く。

「……う、上手く、いったみたい、だね?って、ぃいったぁ!!?」
「みたい、じゃねぇ、上手くいったんだぁ。ボケッとしてないで、さっさと全員中に入れるぞぉ」
「んじゃ!皆オレ達に着いてきてほしいのな!」
「怪我してる奴ぁいねーな?」
「スクアーロさーん、ミー頑張りましたー。ご褒美くださいー」
「るせぇぞフラン、んなもん後だ後。全員バスから降りたなぁ?解体班!頼んだぞぉ」
「は!」
「ふあ~ぁあ、つっかりた~」
「何を甘っちょろいことを言っておるのだ加藤!!まだまだ極限戦い足りぬぞ!」
「それでこそ我が終生のライバルだ笹川了平!結局このまま、スパークリングに付き合え!!」
「皆さん、怪我がないようで安心ですね沢田殿!」
「一部脳みその中身が重傷な人がいるけどね……」

呆然と、言われるがままにバスを降りた黒子達は、言葉を失ったまま、バスが見る間に解体されていくのを眺める。
追い立てられるようにして、部屋の奥に現れたドアを潜り抜けながら、初めに口を開いたのは、やはり日向だった。

「……あの、ここは?って言うか……、すくあーろ?って、誰ですか?」
「オレ達をこんな変な場所に連れてきてさぁ、あんたらこれから、どーする気なの?」
「あの、前を走っていたバスはどうなったんですか?」
「そ、そーっス!青峰っち達は、どこいっちゃったんスか!?」
「あなた達のことや化け物達のことも聞きたいわ!」
「つーかあんた達人間……?ハッ!人間にインゲン!キタコレ!!」
「全然来てませんよ!て言うかオレ達は正真正銘の人間です!」

日向に続くように、続々と出てくる質問の1つに、綱吉はツッコミついでに答えておく。
例え体から炎が出ようと、例え空を飛ぼうと、自分達は人間なのだ。
ここだけは譲れない。

「えーっと、とりあえず1つずつ質問に答えると……。ここはさっき話した自警団地下基地の第二搬入口。もう1つのバスはさっき、第一搬入口から中に入ったって連絡がありました」
「全員怪我1つなく、ピンピンしてるとよ。安心しろ」

綱吉と獄寺の言葉に、とりあえずは胸を撫で下ろす。
無事ならば、またすぐにでも会えるだろう。
続けて獄寺が質問に答える。

「これからあんたらには、しばらくここで生活してもらうことになる。迷惑を掛けるが、あんたらの命の為だ。悪いが、我慢してもらう」
「あ!家族の人とか、学校とか、友達とかには、オレらがうまく誤魔化しておくから、安心してくれよな!」
「あの化け物は、あんたらを狙っている敵が作った兵器だぁ。説明が面倒だから気にするな。あとスクアーロってのはオレの本名だぁ。アルノルド・パルマーラは偽名だ」
「え、えーと……つまり、どーゆーことなんスか……?」
「うん、つまり、君達にはこの基地内で、冬休みを過ごしてもらおうってこと!」
「何言ってるんだ?基地内って言うかキチガイだろ!?家族とかに上手く言っとくって何だよ!?」
「伊月のわりに上手いこと言いやがった!」
「伊月君の言う通りよ!偽名まで使って、私達に近付いてきた人達のこと信頼して、ここで隠れてろって言うの!?」
「なあ黒子、アイツらの言葉何語だ?」
「紛う事なき日本語ですよ、火神君」

一部理解してない者達がいるものの、ほとんどの者達は、自分達が要求されている事を理解し、当たり前だが、それに反抗していた。
ただ、三人を除いては。

「そんなに皆、嫌なワケ?オレ、その人達の言うこと、聞いていいと思うけどー」
「なっ……紫原、お前……!」
「僕も、彼らの話に乗るのもアリなんじゃないかと思うよ」
「た、タツヤ!?」
「オレも信じていいと思うぞ?」
「木吉もか!?」

陽泉高校の二人、そして木吉が、綱吉達の話に乗ると言い出した。
三人に集まる視線に対して、紫原は超然とした態度で口を開く。

「ソイツらの言葉がどこまで本当かはわかんないし、信じる理由があるわけでもないけど、皆バスの中でオレ達のこと守ってくれたし」
「それで信じるんですか?」
「別にー?ただ、オレ達にどんな価値があって狙われてんのか知らないけど、こいつらが敵なら、自分達の命危険に晒してまで、守ることないでしょ?もし敵みたいに、オレ達の事を狙ってんなら、今までいくらでも拐う機会はあったしー、もしオレ達が敵に捕まると不都合だって言うなら、わざわざ守らないで、殺せばいいだけの話だもん」
「そ……れは、確かに、そうですね……」
「僕がああ言った理由は、アツシとだいたい同じかな。強いて、もう1つ挙げるとするなら、そこの……日向君が、彼の事を信じているようだったから、という理由もある」
「オレは、単純にアル先生……じゃなくて、スクアーロさん、か?スクアーロさんの行動を思い出して、かな?思い返してみれば、この間カントクを襲った暴漢……あれも敵だったんだろうなって思ってさ。あの時も今回も助けてくれたし、偽名にも理由があるんだろ?それなら、信じた方がいいかなーってな。それに、氷室の言う通り、日向は信じてるっぽいしな」
「オ、オレ……か?まあ、オレはこの人達の言うこと、信じてるつもりだけど……」
「うーん……言われてみれば、そうかもだけど……」

迷う彼らに、綱吉はスクアーロへと目配せをする。
すぐに信じてもらうのは難しいだろう。
それは初めからわかっていた。
スクアーロが頷いたのを見て、綱吉はもう一度、彼らへと視線を戻す。

「すぐに信じろとは言いません。それに、今日は疲れたでしょう?一晩、ゆっくりと休んでください。もう一台のバスに乗った方達には、この基地のロビーで会えるハズです。彼らと合流した後に、それぞれの部屋へと案内しますね」

にこ、と笑い、そう言った綱吉に、黒子達は渋々と、紫原達はこれといって変わった様子もなく、頷いたのだった。


 * * *


「彼らを信じてみよう、良いね?」
「で、でも征ちゃん……」
「信じちゃいなよ♪そしたら楽になれるよ♪」
「こんな怪しい奴信じられ……」
「オレの言うこと、聞けるな?皆」
「大丈夫だよ。なーんにも怖いことはないからね♪」

二大魔王の圧力に屈し、先行バスに乗っていたメンバーはガクガクと震えながら頷いていたのであった。
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