if群青×黒子、違う世界の人たち

――まったくもって、不愉快だ。
大量の弱者の群れが、バスに乗せられ逃げていくのを見ながら、雲雀恭弥は心の中で呟いた。
しかし、彼の顔は、そんな呟きとは裏腹に、酷く楽しそうな笑みを浮かべている。
獲物が来た。
彼の群れへのイラつきは、面白そうな獲物へと向ける殺気に抑えられている。
キメラ、と、銀色の彼女はそう言っていた。
キメラとは、混成獣の意である。
強いものと、強いものを掛け合わせたとき、どんな化け物が生まれるのか。
考えただけで、胸が震える。

「それじゃあ、あのキメラって奴らを、咬み殺しに行こうかな」

バスが角を曲がって見えなくなった、その瞬間に、雲雀は飛び出してきた一体のキメラの顔にトンファーを振り下ろす。

「ぐぉ……ぶぁ……!」
「ま、せいぜい僕を、楽しませてよね」

続けて沸き出てきたキメラの群れに、雲雀は口角を吊り上げて微笑んだ。
……そしてその頃、黒子達保護対象者を逃がして、キメラの相手をしていたスクアーロも動き出す。

「……一般人は、もういねぇようだな」
「はいっ!」
「てめぇらぁ!刃物銃火器解禁だぁ!!存分にやれぇ!」

その掛け声に応じた、ヴァリアーや門外顧問の者達、ミルフィオーレのメンバーが手に手に、物騒なモノを取り出す。
銃やナイフ、剣や槍、様々な武器を持った男達によって、数多のキメラの群れはみるみる内に押されていく。
今回の戦闘は、綱吉の指示で、あることが禁止されていた。
『一般人の前での流血沙汰』
確かに、一般人たる黒子達からしてみれば、いくら敵でも、化け物でも、命を絶たれる瞬間を見てしまおうものなら、人生最大のトラウマになることは必至であろう。
しかし、強力なキメラに対して、刃傷沙汰禁止など、無理難題にも程がある。
もちろん、文句を言う者は多かった。
だが、それでも彼らはやってのけたのだ。
自警団側は、怪我人こそいるが、そのどれもが軽傷で、死人も重傷者も、今はまだ、一人として出ていない。
これはもう奇跡に等しい……。
スクアーロは戦場の様子を観察して、ほんの少しだけ安堵をする。
なんとか、一番の難局は乗りきったか。
あとは、バスを上手く基地まで連れていくだけ……。
まあ、その『だけ』がまた、難しいのだが。

「おい、そろそろ雲雀も動き出す。オレ達はバスを追いながら、雑魚を潰していくぞぉ」
「しし、おっけ!」
「ルッス!この場はテメーに任せる!!」
「了解よぉーん!」
「車を出せぇ」
「御意!」
「古里ぉ、テメーは単独でアイツらを追っていけ」
「わかりました!」

裏口を出て、バスを追おうとするキメラを切り伏せながら、倒し損ねたキメラを追って、スクアーロ達は用意しておいた車へと向かう。
炎真は大地の重力を自分の体に掛けることにより、空中を飛んでバスの跡を追うことができるが、ヴァリアーの者達は車か脚で移動する他、方法はない。

「……上手くやれよ、沢田ぁ」

車の助手席に乗り込みながら、先を行く彼らの身を案じ、呟く。
そして、5分ほど掛けてバスに追い付いた時、2台のバスには大量のキメラが群がり、色とりどりの炎が取り囲んでいた。

「行ってくる!」
「お気を付けて、隊長!!」

バスの横に車をつけ、スクアーロはキメラの大群に向けて飛び出したのだった。


 * * *


「おらぁ!テメーらはすっこんでろ!」
「獄寺君?もうちょっと優しく接してあげようね?」
「はいっす!沢田さん!お前らは大人しく引っ込んでろ!怪我するぞ!!」
「すっこんでろ、と引っ込んでろの間に、なんの違いがあるんだろうね獄寺君……」

そんな、なんとも気の抜けるような会話が、車内では交わされていた。
しかし、黒子達はその会話を聞いているどころではない。
右から、左から、上から、果ては下からまで、敵がわんさと沸き出てくる。
バ○オ○ザードだって、もう少し優しいのではないかというレベルで出てくる、強力な敵達。
それでも彼らが無事なのは、綱吉達が体を張って盾となり、拳を振るって敵を倒し続けているからである。
バスの中からでは見えないが、前を行く赤司達のバスも、同じような状況になっているのだろう。
そう考えて、少年達は背筋を震わせた。
こんな恐ろしい者共と、現実に相対することになるなんて。
命の危機を、こんなに明確に感じることになるなんて。
周りの者達よりも一足先に、この危機を知ってしまった日向でさえも、顔を真っ青にして、ガタガタと肩を震わせている。
早く、早くいなくなってくれ。
彼らの思いとは真逆に、キメラは続々と増えてゆき、バスの中には夕日の明かりすらも届かなくなり始める。
暗い車内を照らすのは、橙、赤、青、緑、黄、紫、藍の七色の炎だ。
時折、緑の炎……いや、電撃だろうか?……謎の光を発する小学生らしき少年までが、戦いに参加しているのも見える。
男達の野太い怒鳴り声の中に、時折混じる少年らしさを残した高めの声だけが、固まって震える彼らを励ます。

「基地までは後もう少しだ!みんな、もう少しだけ、我慢してくれ!!」
「沢田、さん……!後ろだ!」

その声に、顔を上げた日向は、すぐにそう叫んだ。
綱吉の後ろには、狼のような顔のキメラが間近まで迫っている。
ハッと振り向く綱吉の顔を掠めるように、人間の脚が飛び込んできて、狼キメラの後頭部を蹴り飛ばす。

「ゔお゙ぉい!苦戦してるみてぇじゃねぇかぁ……!!」
「ス、スクアーロ……!無事だったんだな!?」
「お前らの方が、よっぽど無事じゃねぇだろうがぁ。すぐにキメラどもを引き剥がすぞぉ」
「ああ!わかった!!ここにいる人達の事を頼む……!!」
「任せておけぇ」

車外から窓を越えて乗り込んで来た、黒服の男達に、綱吉は少し肩を落として、息を吐く。
そして彼が、両手を前に突き出す構えを取った直後、凄まじい爆音と熱気が、窓に群がっていたキメラの一部を弾き飛ばして、空間が開く。

「外の奴らは、オレに任せろ」

綱吉が、外へと飛び出していくのを、黒子達はただ、呆然と見詰める事しかできなかった……。
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