if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「スクアーロ、オレのリング、ツナに返しといてくれねーか?」
「……良いのか?」
「うん、こんなんじゃ、ツナの守護者なんてできっこねーし」

そう言われて、オレは雨のボンゴレリングを預かり、沢田家に向かった。
家にいるようではあったが、沢田は出てこず、現れた毒蠍・ビアンキにリングを渡した。
疑問符を浮かべながらも、何も聞かずにリングを受け取ってくれた毒サソリに、心の中で感謝する。
リボーンと沢田に何があったのか聞くかも知らねぇが、リボーンが裏世界について知っていると言うのなら、二人が不用意に喋ることも、きっとないと思う。
そこからまた引き返したオレは、山本親子と、翌日のことについて話し合った。

「明日の朝に、オレと山本の二人でこの家を出る」
「オレは着いていっちゃいけねーのか?」
「情報をくれるっつー奴もまた、裏世界の人間だぁ。出来る限り関わらない方が良いだろう。何より、ずっと戦場から遠のいていたあんたが、裏世界と接触して無事でいられる保証はない。悪いが、あんたは連れては行けねぇ」
「そうかい……」

スゴスゴと引き下がった剛は、飲み物でも取りに行くのか、部屋を出ていった。

「スクアーロ、ゴメンな。オレきっと、一番、スクアーロに迷惑かけてるよな……」
「何しょぼくれてんだぁ、らしくねぇ。面倒事には慣れてる。気にすんなぁ」
「あはは、ホント、並みの男より男前だよなー」

最後に一言、余計なことを言う山本をボカリと殴って、話を切り替える。

「いいかぁ?お前の拘束は絶対に解かねぇ。零崎に預けてからやっと、解いてやる。オレだってまだ死にたくはねぇからなぁ」
「オレも、スクアーロのことは殺したくねーなー」
「……明日ここを出た後、出来るだけ人のいないところに向かう。並盛には確か、深い山があったなぁ。あそこに行く」
「わかった」
「その間お前は眠らせとくから、とりあえず何も考えずに寝てろ」
「……眠らせられるのな?」
「移動中に不意打たれるのも、御免だからなぁ」
「なんか自分の誘拐計画聞かされてるみたいなのなー……」

微妙な顔で笑った山本の顔にあった、先程までの暗さは薄れてきている。
いや、きっと無理矢理明るく振る舞っているだけだ。
殺人鬼であることより何より、友人に受け入れてもらえなかったことの方が、彼にとってはずっとずっと、ショックだったのだろう。
少しでもそのショックが紛れるように、明日のことで頭を一杯にするか。
昔誰だかが、辛いことがあったときには他のことに夢中になれば良いとか言っていたしな。

「零崎の所まではオレが連れていってやる。その先は自分で何とかしろぉ」
「えー……、なんかその作戦テキトー過ぎなのな」
「るせぇ。元々零崎なんて、わからんことばかりの連中なんだよ。作戦も何も立てられねぇに決まってんだろぉがぁ!!」

そのまま、だらだらと話ながら夜は更けていく。
少しの間、山本親子を二人きりにして、話をさせた。
その後ぐっすりと眠り込んだ山本を寝ずに見張りながら、幾つかメールや電話をやり取りし、オレは夜明けを待った。



 * * *



そして翌朝、まだ日も開けきらぬ薄暗い時間帯、スクアーロは、ぐるぐるに拘束したままの山本を引きずりながら店を出た。

「じゃあ行ってくるな、親父」
「ああ……、また、帰ってこいよ」
「うん……!」
「じゃあ、お願いします」
「任せろ」

そんな会話を交わしてから、山本を車に押し込もうとする。
そんなスクアーロを止めたのは、沢田綱吉の声だった。

「待って山本!!」
「……ツナ?なんで……」

息急ききって駆けてきた沢田綱吉を、不思議そうに見た山本を、スクアーロはこっそり押さえ付ける。
暴れられたら堪らないからだ。
そんな細やかな気遣いには気付かないまま、綱吉はゼェゼェと荒い息を整えて、話始めた。

「か、帰ってから、考えてたんだ……。やっぱり、無差別に人を殺すなんて、オレには許せないよ……」
「……」
「で、でも!殺人鬼だって言うことが、今までオレ達の側にいた山本を、否定することにはならないんじゃないかって!!オレ達と一緒に黒曜に戦いに行ってくれた山本も、このリングを巡って一緒にヴァリアーに立ち向かった時の山本も、未来で一緒にたくさん辛い思いして、ミルフィオーレと戦った時の山本も、オレは、ちゃんと覚えてる」
「ツナ……」
「人を殺すなんて許せない。でも、オレはオレの知ってる、……オレの親友の山本を信じるよ。山本、お願い。山本は、人を無闇に殺さない殺人鬼になって……!!」
「……ああ、ああ!ツナにお願いされたら断れねーのな!オレ、きっとなるぜ!約束なのな!!」
「絶対だよ!!」
「ああ。代わりにツナ、もしオレが約束守れなくって、誰かを殺しそうになっちまった時は、オレのことぶん殴って目、醒まさせてくれよな!!」
「ええ!?……わ、わかった、頑張るよ!!そ、そういうわけだからこれ、リング持っていってね!!」
「お、助かるのなー!!やっぱこれがないと落ち着かなくてさー」

それを見た剛は安心したように笑っていたが、スクアーロはイラついた顔をしている。
青臭い理想論だし、何をダチ同士でイチャついてんだ、こっちは時間ねぇんだからさっさとしろ……って思ってるんだろ?」
「なんで人の思考読んでんだお前は……」

思考を読まれた上に、肩の上にいけ好かないリボーンが乗ってるのだから、その不機嫌顔も当たり前である。

「ツナはあんなこと言ってるが、山本にとって……いや、零崎にとって不殺(コロサズ)なんてのは茨の道どころか、生きたまま死んでるようなものだぞ」
「それでもすんだろぉ、山本武は」
「だろうな」
「で、テメーはオレに何の用だぁ?」
「察しが良いな。……スクアーロ、お前には山本のこと頼みてーんだ」
「あ゙あ?それなら今から……」
「今からもそうだが、山本を零崎の奴らに引き渡した後もだぞ」
「……はあ!?」
「零崎になってもまだ、ツナは山本の事を仲間だと思ってるらしいからな。山本の雨の守護者は続行だぞ」
「んな無茶苦茶な……!!」

零崎を見張っておけと、リボーンはつまり、そう言っているのだ。
そんなのあんまりだと言いたい気持ちは最もだろう。
リボーンはそんなスクアーロの顔を楽しむように眺め、さっさと飛び降りると、綱吉を引き連れて去っていく。
大きくため息を吐いたスクアーロを、山本が不思議そうに見つめる。

「どーかしたのな?」
「……いや。それより、お別れは済んだのかぁ?」
「ああ!ツナにだけでもサヨナラが言えて良かったのな」
「そうか」

嬉しそうに言った山本の肩をポンと叩き、車に乗るように促す。
と言っても、足までカッチリ拘束されている山本はスクアーロに手伝ってもらわなければ車に乗るのも一苦労なのだが。
何とか乗り込み、すぐにスクアーロも運転席に乗り込んだ。
それを見て、山本は一つ疑問を浮かべる。

「なあスクアーロ。オレって確か、移動中は眠らせられてるんじゃなかったのな?」
「あ?まだ眠くならねーのか?」
「へ?」

スクアーロの声に首を傾げた時だった。
クラっと激しく目眩を感じて、車の座席に倒れ込む。
瞼が意思に反して下がってきて、やっと山本は自分がいつの間にか睡眠薬を盛られていたらしいことに気付いた。

「い、いつの間に?」
「押し込んだ時に決まってんだろぉ。ついでに雨の炎も特別サービスしておいたぜぇ」
「そ、んな、サービス……いらな、の……な……」

モゴモゴと反論しながら眠ってしまった山本を確認したスクアーロは、剛に会釈をしてから車を発進させた。

「ったく……、ただでさえ忙しいってのによぉ……」

自分の荷物の中にある手紙をチラリと見て呟かれたその言葉は、誰にも聞かれることなく、車内のラジオに掻き消されてなくなった。
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