if群青×黒子、違う世界の人たち

バスケの試合が終わるまで、大体二時間程度の時間が掛かる。
そしてそれにプラスして、表彰式の時間が一時間、彼らが帰路に着くまでには、さらに一時間は見積もっておいた方がいいだろう。
つまり試合開始から合計四時間、スクアーロ達は彼らを狙ってくる敵を警戒し続ける訳である。
そして彼らを、自警団アジトに連れていくまでには30分は掛かる。
試合の様子を、会場内に仕掛けたマイクから聞こえる声で確かめながら、スクアーロは神経を研ぎ澄ませて、敵の気配を探していた。
昨日の襲撃が嘘のように、今日は敵がほとんど来ていない。
来るのはボンゴレ10代目に恨みを持っていたり、下らない功績を狙ってくるような、旧ボンゴレとは関係のないチンピラばかり。
それもそうか、とスクアーロは腰を下ろす。
人を拐うのも、自分達を殺すのも、移動中が一番都合が良い。
そんな考えの裏を突いて、試合中に襲ってくる可能性もあるから、油断は出来ないが。
今はヴァリアーと元門外顧問チームが精鋭チームを出して、敵が潜めそうな場所を手当たり次第に探している。

「……試合が終わるまで、来ない気なのか……?」

だが表彰式が始まった頃、事態は突然動き始めた。


 * * *


始まりは一本の電話だった。
突然、広場の隅にあった公衆電話がけたたましく鳴り始める。
自警団の者達にざわりと緊張が走る中、スクアーロは警戒しつつも受話器を手に取る。

「た、隊長……!」
「大丈夫だ」

罠がないかどうかを確かめた後、止める部下を宥めて受話器を耳に当てたスクアーロ。
掛けられたのは、聞き覚えのある声だった。

「やあ、勘で誰だか当てて見せましょうか。スペルビ・スクアーロでしょう?久し振りですね」
「その声、イエナ・ファットーリだなぁ」
「はは……大正解。それに、私も正解だったようですね。これで人違いだったら恥ずかしかった」

イエナの声を確認したスクアーロは、ざわめきたった仲間達に向けて人差し指を唇に当てて、黙るように指示する。
不快さを顔の全面に押し出しながら、電話の向こうに質問を投げ掛けた。

「どういうつもりだぁ?停戦協定を結びたいとでも言う気かぁ?」
「悪いが我々は君達に負ける気はない。まあ今回は、君に特別、教えてあげようと思いましてね」
「……何をだぁ」
「今日の襲撃の予定」
「はあ゙!?」

襲撃の予定と言うのはつまり、旧ボンゴレの者達がいつ自分達を襲いに来るか、と言うことだろう。
しかしそれを教えるとは、有り得ない事のはずだ。
驚いて叫んだスクアーロが、飛び上がって電話ボックスのガラス戸に頭をぶつける。
その様子が電話の向こうにも伝わったのか、クツクツとイエナは喉を鳴らして笑う。

「落ち着きなさい、スペルビ・スクアーロ。部下が見ている前でみっともない」
「テメーどういう風の吹き回しだぁ!?」
「うん……言うなればここまで無事、標的達を守り抜いた君達への敬意、でしょうか」

噛み付くように受話器に叫んだスクアーロに、飄々とした態度でそう言ったイエナは、のんびりとした様子で続ける。

「閉会宣言の後、30分後にボンゴレのキメラが全て、会場を襲う。と言っても、我々も復讐者は恐いですから、関係のない一般人は襲いませんし、その点は安心してください」
「……」
「信用できないでしょうね。まあ、信用してもらおうなどとは考えていないから、構わないけれど」

スクアーロは、手を忙しく動かしながらも、イエナの言葉に皮肉っぽい笑みを浮かべた。

「もちろん信用できねぇなぁ。……その襲撃予定も、お前がこんなことしている動機も」
「ほう……、何故そう思うのです?」
「勘だぁ」
「へえ、勘。あはは、良いねぇ。まあ襲撃予定については、本当ですよ。それじゃあ、私の言いたい事はそれだけですから。また会いましょうね、スペルビ・スクアーロ」
「!待てぇ!!」

叫びも虚しく、電話は切られる。
舌打ちをしながら、スクアーロは後ろの部下達に指示を出す。

「もう探し始めているなぁ?」
「はっ、雨部隊が出ています」
「他の奴らは全員、会場の警備を続けろぉ。イエナは閉会宣言の30分後に襲撃と言った。その時間帯は特に警戒しろぉ。」

電話をしている最中から、ハンドサインで指示を出していたため、既に数人が動き出していた。
イエナの物言いはまるで近くで自分達の事を見ているようだった。
もしかしたら、この周囲にいるかもしれない……、ただのハッタリの可能性の方が高いが。
イエナが何を企んでいるのか、分からない。
スクアーロは眉間に深くシワを刻み、苛立たしげに舌打ちをした。
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