if群青×黒子、違う世界の人たち

WC決勝戦当日。
スクアーロは今日も、忙しそうに走り回っていた。
会場には思っていたよりも人が溢れていて、警備の人員の配置やら何やらの調整で忙しいらしい。
くるくると走り回るその姿を眺めながら、骸は疲れたようにため息を吐いていた。

「全く……ヴァリアーと言うのはとんだブラック企業ですね……」
「ム、ブラックなのはスクアーロだけさ。他はわりと厚待遇なんだよ」

それに答えたのは、ベンチの上に腰掛けて、好物のレモネードを飲んでいるマーモン。
その隣で麦チョコを食べているのは、クローム髑髏だった。

「誰も手伝わないの?」
「手伝おうにも、手伝う隙がないんだよ。彼女がこんな風に僕に頼ってくることって、凄く珍しいんだよ?」

口ではそう言いながらも、そもそもマーモンには手伝う気がないらしく、自分の保護対象も既に会場内に入っているため、暇そうに足をぶらつかせている。

「それにしても、大会最終日なのに、随分と敵の数が少ないんだね」
「クフ、襲ってくるのは大半が、会場内にすら辿り着けない雑魚……。恐らく敵も、余計な戦力の消費をしたくないのでしょう。昨日、随分と戦力を削りましたからね」
「ムム、それはそうだけど……、あまりにも静かすぎる。ここで油断させといて、大会が終わって人が引いた瞬間に、全戦力けしかけてきたり……とか、ないよね?」
「あり得ますねぇ……」
「面倒くさいなぁ……」
「ですね……」

大嫌いなマフィアと喧嘩をするでもなく、ただ愚痴を吐き合うだけという骸の様子を見るだけで、彼らがどれだけ疲弊しているのかが伺える。
忙しそうに走り回るスクアーロを、見ているだけでも疲れる……。
そんな様子の彼らに、背後から地を這うような重たい声が掛けられた。

「ちょっと……何サボってんの……?」
「!?さ……沢田綱吉……!い、いえ別に我々はサボっていたわけではなく……!」
「ちょっと休憩させてもらってただけだよ!スクアーロにOKもらったよ!!」
「ご、ごめんなさいボス……」

慌てて言い訳を並べて駆け出した(逃げ出したとも言える)彼らの背中を、据わった目で睨み、綱吉は重たい重たいため息を吐いたのであった。

「……よし、オレも頑張らなくちゃね」

気合いを入れる言葉とは裏腹に、綱吉の目は死んでいた。
相次ぐ戦闘、見付からない敵、精神力がガリガリと削られているようだ。
綱吉が話し合いのために、スクアーロへと駆け寄ったその時、会場から歓声が響いてきた。
どうやら最後の試合が始まったようである。


 * * *


「……綱吉と武はいないのか?」
「あら、そう言えば来てないみたいね」

試合開始直前、客席を見上げた赤司がぼそりと呟く。
実渕は特に気にした様子もなく返していたが、二人の会話を聞いた黛は二人の後輩の姿を探して視線を走らせる。
黛千尋は新型の『幻の6人目』だ。
人の隙をつき、意識の外に自分を置く術に長けた選手である彼は、普段から人の動きをよく観察するようにしている。
もちろん、黛はその二人の後輩のこともよく見ていた。
彼らは少し、周りと様子が違っていた。
視線の動かし方、見るもの、足の運び方、何に興味を示しているのか、彼らは他の人間とはまるで違っていた。
時折、二人が小声で会話しているのも見掛けたが、その度に沢田綱吉という男は、自分を見付けて目を合わせてくる。
赤司とは違う、気味の悪さ。
何か、隠しているように見える。
その何かの内容には、見当も付かないが。

「……ま、オレには関係ない、か」

冷たく割り切って、黛はウォーミングアップに戻る。
集合の合図が掛かった。
監督の元へ戻りながら、余計なことを忘れようと、頭を振る。
最後の大会、最後の試合が、始まった。


 * * *


日向順平は思い出す。
今日の早朝、彼の携帯に1通のメールが届いていた。
簡潔な文章で書かれた、試合後の行動の指示、そして送り主らしい素っ気ない応援のメッセージ。
『勝て』
寝る前には、試合への緊張と、自分の命が狙われている恐怖に、なかなか寝付くことも出来なかった。
だがそのメールを見ると、心をざわめかせていた恐怖が薄らいでいく気がした。

「勝つぜ」

誰にともなく言った言葉に、チームメイト達が力強い声で応えた。
WC、最後の試合。
ついに、始まったのだった。
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