if群青×黒子、違う世界の人たち
どんな手を使ったのか、WC会場の目の前の広場には人が誰もおらず、その広場から少し外れた建物の影では、黒い制服の男達と、異形の人間達が激しい戦闘を繰り広げていた。
ヴァリアーと旧ボンゴレの送り出したキメラ達、彼らは刃物を光らせて、爪を煌めかせて、拳銃を炸裂させて、牙を輝かせて、とにかく目の前の敵を殲滅していく。
キメラ達は、一目で何の動物と掛け合わされたのかわかる者から、何の動物かよくわからない者まで様々だ。
鳥の翼を持つ者、虎の牙を持つ者、獅子の腕を持つ者……そして時おり、二種類以上の動物を掛け合わせたと思わしき者がいる。
スクアーロは誰よりも前線に立って戦いながら、戦場全体の様子も把握するために、視線を動かし続けていた。
「試合が終わるまであと何分だぁ!?」
「あ、あと20分です!」
「チッ!ラストスパートだぁ!!一気に畳み掛けるぞぉ!」
今はまだ、術士や工作員達のお陰で上手く人の出入りを止められているが、試合が終わったら流石に止められない。
目の前の猪と思わしきキメラを斬り倒しながら、戦闘員達に叫び、次の獲物へと走り出す。
襲い掛かってきた梟のキメラの鉤爪を避けて、ナイフを投擲した。
梟のキメラには避けられたが、その攻撃は奥にいた別のキメラに当たった。
再び襲い掛かってくる梟は、ワイヤーで絡め取って地に落とし、翼を剣で穿って縫い付けた。
次のスクアーロの獲物は豹……。
15分後、最後のキメラを倒し、ようやく長い戦闘は、一旦の幕引きを迎えたのであった。
* * *
WC準決勝。
海常高校に辛くも勝利した誠凛高校バスケ部は、疲れた体を引きずりながら帰路に着こうとしていた。
ただ一人、今日の試合は終わったと言うのに、やけにソワソワと落ち着かないのは、やはり日向だった。
「なあ、先生見なかったか?」
「先生……って、アル先生?」
「そう言えば、今日は会場に来てなかったわね」
「昨日までは来てくれてたんだけどな。用事でもあったのかな」
良い試合だったのに、と残念そうな顔をする彼らとは逆に、彼が観戦どころではなかったことを知っている日向だけは複雑な顔色を浮かべていた。
大丈夫だろうか……。
あの化け物達に、まさかとは思うが、殺されたりなんて……。
最悪の結果を想像した日向の顔から、ざあっと音を立てて血の気が引く。
「オレちょっと便所行ってくる!」
チームメイトの返事を待たず、控え室を飛び出した。
確かめよう。
せめて、彼ではなくとも、他の誰か……味方なら誰でも良い。
しかし日向の探し人は、向こうからやって来た。
走っていた日向は、突然目の前に現れた誰かとぶつかる。
「いって!?」
「っ……と、日向、テメーなに勝手に彷徨いてやがんだぁ。死にてぇのかぁ?」
「せ、先生!?」
危なげなく日向を受け止めたのは、いつも通りの仏頂面をしたアルノルドで、日向は一気に脱力する。
「よ、よかったぁ……!」
「ったく、オレ達が殺られたとでも思ったのかぁ」
「だ……だって試合終わっても何も連絡来ないし!オレ何かあったんじゃないのかって……!」
「ケータイが壊れたんだぁ。仕方ねぇだろうがぁ」
人がいない場所まで日向を引っ張って連れていき、スクアーロは疲れたようにため息を吐いた。
人が来たお陰で、もう敵側も派手な動きはしてこないだろうが、明日になればまた、激しい攻撃が始まるだろう。
そう考えると、自然とため息も出てきてしまう。
「日向、丁度良い、明日の事について話しておく」
「え……明日、っすか?」
「明日、表彰式の終了後直ぐに、テメーらを安全な場所に連れていく」
「安全な場所……?」
「……自警団のアジト。しかしそこにつくまでが危険だぁ」
移動中というのは、もっとも狙われやすい時間なのだ。
鋭い目で日向を射抜き、スクアーロは口を開いた。
「明日、表彰式が終わったら直ぐに、試合のレギュラーメンバーと、監督を連れて会場の裏口まで来い」
「へ……、レギュラーって言うと、オレの他に……伊月と木吉と、火神、黒子……それにカントク連れていけば良いってことですか?」
「出来るだけ急げよ」
「は……はい!」
「よし」
素直に返事をした日向の頭を乱暴に撫でて、そのままロッカールームに戻るように促して背中を押す。
少し落ち着いた様子で離れていった、日向の背中を見詰めていたスクアーロの側に、1つの影がにじり寄る。
「しし、なーんか懐かれてね?」
「そうかぁ?」
ベルフェゴールは、壁にもたれ掛かるスクアーロの隣に立って、日向の後ろ姿を眺める。
「まあ、その割りには気付かなかったけどな、アイツ」
「……気付かれないようにしたんだぁ。当たり前だろう」
ベルが指でスクアーロの左腕をつつく。
微かに顔をしかめたスクアーロに、ベルはいつも通りの人を食ったような笑みを浮かべて言った。
「ししし、部下庇って怪我するとか、バッカじゃねーの?」
「こんなもん怪我とは言わねぇ」
「ふーん?ま、どーでも良いけど、ルッスーリアが怪我治すってお待ちかねだぜ?」
「ふん……」
仕方ない、と言うように壁から背を離して、ルッスーリアの元に向かったスクアーロを追って、ベルも駆けていく。
その日、それ以上キメラが襲ってくることも、それどころか雇われのゴロツキ達が現れる事もなかった。
嵐の前の静けさに包まれたまま、時は過ぎ、ついにWC決勝戦の日を迎えた。
ヴァリアーと旧ボンゴレの送り出したキメラ達、彼らは刃物を光らせて、爪を煌めかせて、拳銃を炸裂させて、牙を輝かせて、とにかく目の前の敵を殲滅していく。
キメラ達は、一目で何の動物と掛け合わされたのかわかる者から、何の動物かよくわからない者まで様々だ。
鳥の翼を持つ者、虎の牙を持つ者、獅子の腕を持つ者……そして時おり、二種類以上の動物を掛け合わせたと思わしき者がいる。
スクアーロは誰よりも前線に立って戦いながら、戦場全体の様子も把握するために、視線を動かし続けていた。
「試合が終わるまであと何分だぁ!?」
「あ、あと20分です!」
「チッ!ラストスパートだぁ!!一気に畳み掛けるぞぉ!」
今はまだ、術士や工作員達のお陰で上手く人の出入りを止められているが、試合が終わったら流石に止められない。
目の前の猪と思わしきキメラを斬り倒しながら、戦闘員達に叫び、次の獲物へと走り出す。
襲い掛かってきた梟のキメラの鉤爪を避けて、ナイフを投擲した。
梟のキメラには避けられたが、その攻撃は奥にいた別のキメラに当たった。
再び襲い掛かってくる梟は、ワイヤーで絡め取って地に落とし、翼を剣で穿って縫い付けた。
次のスクアーロの獲物は豹……。
15分後、最後のキメラを倒し、ようやく長い戦闘は、一旦の幕引きを迎えたのであった。
* * *
WC準決勝。
海常高校に辛くも勝利した誠凛高校バスケ部は、疲れた体を引きずりながら帰路に着こうとしていた。
ただ一人、今日の試合は終わったと言うのに、やけにソワソワと落ち着かないのは、やはり日向だった。
「なあ、先生見なかったか?」
「先生……って、アル先生?」
「そう言えば、今日は会場に来てなかったわね」
「昨日までは来てくれてたんだけどな。用事でもあったのかな」
良い試合だったのに、と残念そうな顔をする彼らとは逆に、彼が観戦どころではなかったことを知っている日向だけは複雑な顔色を浮かべていた。
大丈夫だろうか……。
あの化け物達に、まさかとは思うが、殺されたりなんて……。
最悪の結果を想像した日向の顔から、ざあっと音を立てて血の気が引く。
「オレちょっと便所行ってくる!」
チームメイトの返事を待たず、控え室を飛び出した。
確かめよう。
せめて、彼ではなくとも、他の誰か……味方なら誰でも良い。
しかし日向の探し人は、向こうからやって来た。
走っていた日向は、突然目の前に現れた誰かとぶつかる。
「いって!?」
「っ……と、日向、テメーなに勝手に彷徨いてやがんだぁ。死にてぇのかぁ?」
「せ、先生!?」
危なげなく日向を受け止めたのは、いつも通りの仏頂面をしたアルノルドで、日向は一気に脱力する。
「よ、よかったぁ……!」
「ったく、オレ達が殺られたとでも思ったのかぁ」
「だ……だって試合終わっても何も連絡来ないし!オレ何かあったんじゃないのかって……!」
「ケータイが壊れたんだぁ。仕方ねぇだろうがぁ」
人がいない場所まで日向を引っ張って連れていき、スクアーロは疲れたようにため息を吐いた。
人が来たお陰で、もう敵側も派手な動きはしてこないだろうが、明日になればまた、激しい攻撃が始まるだろう。
そう考えると、自然とため息も出てきてしまう。
「日向、丁度良い、明日の事について話しておく」
「え……明日、っすか?」
「明日、表彰式の終了後直ぐに、テメーらを安全な場所に連れていく」
「安全な場所……?」
「……自警団のアジト。しかしそこにつくまでが危険だぁ」
移動中というのは、もっとも狙われやすい時間なのだ。
鋭い目で日向を射抜き、スクアーロは口を開いた。
「明日、表彰式が終わったら直ぐに、試合のレギュラーメンバーと、監督を連れて会場の裏口まで来い」
「へ……、レギュラーって言うと、オレの他に……伊月と木吉と、火神、黒子……それにカントク連れていけば良いってことですか?」
「出来るだけ急げよ」
「は……はい!」
「よし」
素直に返事をした日向の頭を乱暴に撫でて、そのままロッカールームに戻るように促して背中を押す。
少し落ち着いた様子で離れていった、日向の背中を見詰めていたスクアーロの側に、1つの影がにじり寄る。
「しし、なーんか懐かれてね?」
「そうかぁ?」
ベルフェゴールは、壁にもたれ掛かるスクアーロの隣に立って、日向の後ろ姿を眺める。
「まあ、その割りには気付かなかったけどな、アイツ」
「……気付かれないようにしたんだぁ。当たり前だろう」
ベルが指でスクアーロの左腕をつつく。
微かに顔をしかめたスクアーロに、ベルはいつも通りの人を食ったような笑みを浮かべて言った。
「ししし、部下庇って怪我するとか、バッカじゃねーの?」
「こんなもん怪我とは言わねぇ」
「ふーん?ま、どーでも良いけど、ルッスーリアが怪我治すってお待ちかねだぜ?」
「ふん……」
仕方ない、と言うように壁から背を離して、ルッスーリアの元に向かったスクアーロを追って、ベルも駆けていく。
その日、それ以上キメラが襲ってくることも、それどころか雇われのゴロツキ達が現れる事もなかった。
嵐の前の静けさに包まれたまま、時は過ぎ、ついにWC決勝戦の日を迎えた。