if群青×黒子、違う世界の人たち
準決勝、初めの試合は洛山vs秀徳。
ロッカールームで待機している誠凛の元にも、その試合に向けられた歓声が届いていた。
「日向君、少しは落ち着いたらどうなの?」
「え?あ、ああ……そうだな」
相田リコの呆れたような声に、日向は歩き回るのをやめてベンチに座る。
つい数分前、彼の携帯電話にはとある人物からのメールが来ていた。
『準決勝と決勝、オレ達に見に行く余裕はないが、ベストを尽くせ』
簡潔に書かれた、素っ気ないそれは、教師として誠凛高校に潜入しているスクアーロからのモノだ。
見に行く余裕がないほどに、戦況は切羽詰まっていると言うことか……。
ほんの数日前に見た、化け物のような男の事を思い出し、日向は身震いする。
あんな得体の知れないものが、自分達の見えないところで、自分達を狙って爪を研いでいると考えると、胃が鷲掴みにされているような気持ち悪さを覚える。
「日向、大丈夫か?」
「!伊月……ああ、大丈夫だ」
話し掛けてきたのは、日向の中学時代からの友人であるダジャレやろ……もとい、伊月俊で、彼はいつもとは違う日向の様子に首を傾げながらも『そう?』と1つ頷いた。
「まあ緊張するよな、準決勝だもん。でもま、全力でがんばろーぜ!」
「っ!」
『ベストを尽くせ』だとか、『全力でがんばろーぜ!』だとか、それは何て事のない、在り来たりな言葉であったが、それを友が言ったのならば、とても頼もしく感じられた。
日向は大きく頷くと、伊月に向かって拳を付きだす。
「ったりめーだろ、だアホ!」
「おう!」
ごつ、とぶつかる2人の拳。
心配したところで、どうなることではない。
自分にできるのは、ただひたすらに全力を尽くすだけだ。
「ハッ!ベスト尽くしてベスト作る!キタコレ!」
「キテねーよだアホ!」
直後、寒いダジャレを言い出した伊月の頭に、日向の拳が降り下ろされた。
* * *
会場から轟く、歓声とも怒号とも言える声の群れは、外に身を潜める自警団員の者達にも届いていた。
バスケだか何だか知らないが、自分達も呑気にスポーツ観戦が出来たら……と明後日の方向に目を向ける者が2割。
自分達の苦労も知らずにいい気なものだと、ため息を吐く者が5割。
今日の晩御飯を考える者が2割。
そしてそんな声など歯牙にも掛けず、敵の気配にだけ意識を向けている者が1割……。
その1割の内の一人、スペルビ・スクアーロは、会場の周囲に満ちる陰鬱とした気配に神経を傾け、小さく息を吐き出していた。
「向こうも簡単には動かねぇかぁ」
「ええ、この膠着状態……いつまで続くのでしょうか……」
「いい加減、スッキリ何も考えねぇで暴れてぇなぁ……」
スクアーロの言葉に、部下の男が苦笑する。
普段は頼りになる常識人のようだが、彼も長く続く焦れったい状態にイラついているようだった。
「今が大事ですよ、隊長。もう少し、堪えましょう」
「……わかってるよ」
建物の屋上に潜んで小さくなり、唇を尖らせているその様子が、こんな状況だというのに微笑ましく思えて、思わず頬が緩む。
目の上に手を翳し、会場を見詰めるスクアーロの背後で、用意した武器を整理しながら、部下は気を紛らわせるように話を続ける。
「敵も慎重になっているようですね。キメラ擬きが上手く頭を働かせているのか……、無駄な動きが少なくなっているようです」
「そうだなぁ……。下らねぇ知恵ばかりつけやがって、カスどもがぁ」
チッと短く舌打ちをして、スクアーロは更に遠くを見ようと双眼鏡を手に取る。
「おい、後ろもしっかり見ておけよぉ」
「はい」
スクアーロの指示にしっかりと頷き、男はナイフを構えて屋上をぐるりと見渡す。
誰もいない、ただ哀しげに木枯らしが鳴いているだけの、寂しい屋上。
「隊長、敵、いますか?」
「いや、何も見えねぇなぁ」
「そうですか?でも……」
構えたナイフを、振り上げ、そして、銀の髪が掛かる背中に向けて、降り下ろした。
「後ろに、いるんですけどねぇぇえ!?」
ぐじゅり、と水っぽい音が聞こえた。
目の前ではなく、男の背中から。
降り下ろしたナイフの先には何もない。
焼けるように熱い背中を手で確かめようとしながら、必死の形相で振り向いた男の視線の先には、自分の前にいたはずの白銀色があった。
「後ろじゃねぇ、目の前だぁ。ったく、この程度の幻術も見破れねぇで、オレの部下気取ってんじゃねぇぞドカス」
「がっ!あ、がぁっ!?」
ぐらぐらと不安定に揺れた後、男の体はゆっくりと倒れていった。
握っていたナイフは、男の手を飛び出して高い屋上から、遥か下の地面へと落ちていく。
カラァンとなった涼しげな金属音に、スクアーロと、彼女の後に続くヴァリアーの猛者達は獰猛な笑みを浮かべた。
「戦いの始まりだぁ。行くぜぇ、野郎共ぉ!」
スクアーロの号令に従い、遂にヴァリアーが動き始めた。
ロッカールームで待機している誠凛の元にも、その試合に向けられた歓声が届いていた。
「日向君、少しは落ち着いたらどうなの?」
「え?あ、ああ……そうだな」
相田リコの呆れたような声に、日向は歩き回るのをやめてベンチに座る。
つい数分前、彼の携帯電話にはとある人物からのメールが来ていた。
『準決勝と決勝、オレ達に見に行く余裕はないが、ベストを尽くせ』
簡潔に書かれた、素っ気ないそれは、教師として誠凛高校に潜入しているスクアーロからのモノだ。
見に行く余裕がないほどに、戦況は切羽詰まっていると言うことか……。
ほんの数日前に見た、化け物のような男の事を思い出し、日向は身震いする。
あんな得体の知れないものが、自分達の見えないところで、自分達を狙って爪を研いでいると考えると、胃が鷲掴みにされているような気持ち悪さを覚える。
「日向、大丈夫か?」
「!伊月……ああ、大丈夫だ」
話し掛けてきたのは、日向の中学時代からの友人であるダジャレやろ……もとい、伊月俊で、彼はいつもとは違う日向の様子に首を傾げながらも『そう?』と1つ頷いた。
「まあ緊張するよな、準決勝だもん。でもま、全力でがんばろーぜ!」
「っ!」
『ベストを尽くせ』だとか、『全力でがんばろーぜ!』だとか、それは何て事のない、在り来たりな言葉であったが、それを友が言ったのならば、とても頼もしく感じられた。
日向は大きく頷くと、伊月に向かって拳を付きだす。
「ったりめーだろ、だアホ!」
「おう!」
ごつ、とぶつかる2人の拳。
心配したところで、どうなることではない。
自分にできるのは、ただひたすらに全力を尽くすだけだ。
「ハッ!ベスト尽くしてベスト作る!キタコレ!」
「キテねーよだアホ!」
直後、寒いダジャレを言い出した伊月の頭に、日向の拳が降り下ろされた。
* * *
会場から轟く、歓声とも怒号とも言える声の群れは、外に身を潜める自警団員の者達にも届いていた。
バスケだか何だか知らないが、自分達も呑気にスポーツ観戦が出来たら……と明後日の方向に目を向ける者が2割。
自分達の苦労も知らずにいい気なものだと、ため息を吐く者が5割。
今日の晩御飯を考える者が2割。
そしてそんな声など歯牙にも掛けず、敵の気配にだけ意識を向けている者が1割……。
その1割の内の一人、スペルビ・スクアーロは、会場の周囲に満ちる陰鬱とした気配に神経を傾け、小さく息を吐き出していた。
「向こうも簡単には動かねぇかぁ」
「ええ、この膠着状態……いつまで続くのでしょうか……」
「いい加減、スッキリ何も考えねぇで暴れてぇなぁ……」
スクアーロの言葉に、部下の男が苦笑する。
普段は頼りになる常識人のようだが、彼も長く続く焦れったい状態にイラついているようだった。
「今が大事ですよ、隊長。もう少し、堪えましょう」
「……わかってるよ」
建物の屋上に潜んで小さくなり、唇を尖らせているその様子が、こんな状況だというのに微笑ましく思えて、思わず頬が緩む。
目の上に手を翳し、会場を見詰めるスクアーロの背後で、用意した武器を整理しながら、部下は気を紛らわせるように話を続ける。
「敵も慎重になっているようですね。キメラ擬きが上手く頭を働かせているのか……、無駄な動きが少なくなっているようです」
「そうだなぁ……。下らねぇ知恵ばかりつけやがって、カスどもがぁ」
チッと短く舌打ちをして、スクアーロは更に遠くを見ようと双眼鏡を手に取る。
「おい、後ろもしっかり見ておけよぉ」
「はい」
スクアーロの指示にしっかりと頷き、男はナイフを構えて屋上をぐるりと見渡す。
誰もいない、ただ哀しげに木枯らしが鳴いているだけの、寂しい屋上。
「隊長、敵、いますか?」
「いや、何も見えねぇなぁ」
「そうですか?でも……」
構えたナイフを、振り上げ、そして、銀の髪が掛かる背中に向けて、降り下ろした。
「後ろに、いるんですけどねぇぇえ!?」
ぐじゅり、と水っぽい音が聞こえた。
目の前ではなく、男の背中から。
降り下ろしたナイフの先には何もない。
焼けるように熱い背中を手で確かめようとしながら、必死の形相で振り向いた男の視線の先には、自分の前にいたはずの白銀色があった。
「後ろじゃねぇ、目の前だぁ。ったく、この程度の幻術も見破れねぇで、オレの部下気取ってんじゃねぇぞドカス」
「がっ!あ、がぁっ!?」
ぐらぐらと不安定に揺れた後、男の体はゆっくりと倒れていった。
握っていたナイフは、男の手を飛び出して高い屋上から、遥か下の地面へと落ちていく。
カラァンとなった涼しげな金属音に、スクアーロと、彼女の後に続くヴァリアーの猛者達は獰猛な笑みを浮かべた。
「戦いの始まりだぁ。行くぜぇ、野郎共ぉ!」
スクアーロの号令に従い、遂にヴァリアーが動き始めた。