if群青×黒子、違う世界の人たち

「先生!」

スクアーロは、自分を呼ぶ声に反応して、壁から背を離す。
自分の元に駆け寄ってきた日向と、その後ろの選手達に笑い掛けた。

「お疲れ様です。素晴らしい勝負でしたよ」
「あの、それで……」

何か聞きたそうにする日向の背を叩いて、小声で、後で、と呟く。
恐らく、と言うか間違いなく、敵の事を聞きたかったのだろうが、ここで話すと他の選手達に怪しまれる。
スクアーロは続けて木吉に声を掛けた。

「木吉君もお疲れ様です。足は大丈夫ですか?」
「あ……うす!」
「そうですか。帰ったら、ちゃんと休んでくださいね。それと、火神君もだいぶ無茶をしましたね。お疲れ様です」
「えっ?いやオレは大したことないぜ……です!」
「そうですか。ああ、そこに席がありますから、座りましょうか」

心配する素振りをしながらも、スクアーロは油断なく目を走らせる。
木吉はだいぶ消耗している様子だった。
火神は恐らく、ただのエネルギー切れのようだから問題無さそうだが、もし敵の襲撃を受けたら、木吉は逃げるときキツいかもしれない。
選手全員が座ったのを見ると、スクアーロはにこやかに笑う。

「オレは少し席を外しますね」
「えっ?」
「あ、オレもちょっと便所行ってくる!」
「ちょっ……日向君も!?まったく……早く帰ってこないと試合始まっちゃうわよ!?」
「わぁってるっての、だアホ!」

スクアーロの後を追うように、日向も客席を去る。
そこから少し離れた客席で、古里炎真は紫原敦を前にして、少し困ったように首を傾げていた。

「紫原君……あの、これ……主将さん……これは……?」
「いや……たぶん拗ねとるだけじゃろ。少しの間相手してやってくれんか?」
「はあ……」

炎真は何故か、隣に座る紫原に寄り掛かられて、いつかのときと同じように、頭を大きな手のひらでバスバスと叩かれていた。
紫原の巨体に寄り掛かられて辛い。
そして頭も首も痛い。
だが何よりも、今この場にいない二人の人間の事が気に掛かっていた。
氷室辰也とジュリー。
試合が終わってすぐにチームを離れた氷室を追って、ジュリーは会場の外に行ったのだが、ジュリーからはいまだに連絡がない。
彼の事だから小まめな連絡をしてこないのは予想していたのだが、席を離れてからだいぶ時間も経っていて、流石に不安になってきていた。


 * * *


「敵の事についてお前が考える必要はねぇ。試合に集中しろっつってんだろうがぁ」
「わ、わかってますけど……!にしてはだいぶ会場の中に敵入ってきてますよね!?」
「こっちは人員不足なんだぁ。多目に見ろ」
「そんな無茶な!!」

スクアーロは、自分の隣を歩く日向にイライラと返した。
敵の現在の狙いが誠凛の選手達からは逸れているとは言え、長く彼らから離れることは避けたい。
結果かなりぞんざいに……と言うか脅し気味に、日向に言い聞かせているのだ。

「もう良いだろぉ。さっさと客席に戻れ……、……あ゙?」
「え、どうしたんすか?」
「……報告が入ったぁ。火神と氷室が揉め事に巻き込まれている。お前は戻ってろぉ」
「なっ!!オレも行きます!」
「チッ!カスがぁ……時間がもったいねぇ。さっさと行くぞぉ」
「は、はい!」

突然、無線で入ってきた報告にスクアーロは眉をひそめる。
無線を入れてきたジュリーの様子から切羽詰まっていることを察し、スクアーロは日向を連れて、会場の外に向かったのであった。
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