if群青×黒子、違う世界の人たち
ああ、最悪だ。
目の前に現れた男を見て、スクアーロは苛立ち紛れの舌打ちをする。
それを聞き付けた日向が、びくりと肩を揺らした。
それに気が付かない振りをして、スクアーロは男に高速の手刀を打ち込む。
男が倒れるよりも早くに、近くに潜んでいた隊員がその体を抱えて回収した。
これでもう6回目だ。
しかも、今日だけで。
幸いなのは、敵がまだ彼らバスケ部の部員達を拐う気がなく、スクアーロ達自警団員を殺す気でここに来ている事か。
だが青峰と桃井は既に試合が終わり、敵も彼らを拐うつもりで来ている。
今はまだ、骸とクロームが防いでいるが、それもいつまで保つことか。
一応、一番警備は厚くしてあるが、スクアーロの懸念は尽きることがなく、思わず吐いたため息を、部員達に気付かれてしまった。
「先生、どうかなさったんですか?」
「黒子君……いえ、大したことではありませんよ」
「そうですか?」
スクアーロは、黒子の心配そうな視線を、笑顔を作って躱す。
そして代わりに、相田リコに視線を送った。
「相田さん、オレはここまでにしておきます。皆さん、試合、頑張ってくださいね。客席で応援してますから」
「はい!ありがとうございました先生!みんな!礼!」
リコの掛け声で、選手達が揃って頭を下げて『ありがとうございました』と合唱する。
それを聞き届けたスクアーロは、去り際に日向の肩を叩く。
そして彼にだけ聞こえるよう、声を潜めて囁いた。
「敵に手出しはさせねぇ」
「っ!!」
「だから、思い残しのないように、精一杯戦ってこい」
「……うすっ」
彼らに背を向け、客席に向かう。
しかし客席に辿り着くより早く、無線に入ってきた報告を聞き、スクアーロの足が止まった。
『――報告です。青峰桃井の近くにキメラらしき男を確認。現場にはチェデフが向かっています』
「……そろそろ、敵さんも本腰入れて狙ってきてるってわけかぁ」
『はい、スクアーロさんも十分気を付けてくださいね!』
「ああ。引き続き、警戒を頼む」
『はい!』
その後も続々と入ってくる報告を聞きながら、スクアーロは再び舌打ちをした。
完全に、防戦一方。
ここでこうして観戦している時間を、敵の探索に割り当てられたならどれだけ良いか。
そうして焦る一方で、冷静に考える。
自分の知っている『イエナ・ファットーリ』という人間なら、迷いなくスクアーロばかりを集中的に狙ってくる。
そう考えられるくらいには、自分が嫌われ、恨まれ、妬まれていると知っている。
いや、理由はわからないのだが……。
まあとにかく、実際今まではスクアーロの守る誠凛への攻撃が多く、他の高校への攻撃は申し訳程度と言っても良いほどだった。
それが最近は、だいぶ合理的な攻め方をしてきている。
流石にイエナも、旧ボンゴレの身勝手な老害……もとい、幹部達相手に、自分の我が儘を貫き通すのは難しいか。
まあ、それは想定内だし、スクアーロはむしろ、合理的な攻め方の方が先が読めて楽だとさえ思っているのであるが。
だがしかし思うのだ。
『イエナの野郎、どういうつもりなのだ』
……と。
* * *
「ああ、くそっ……オレは一体どういうつもりなんだっ!オレほどの実力があれば、腐りきった旧ボンゴレなど使わずとも、自警団ボンゴレの奴らと戦えるというのにっ!ああ、いやしかしっ!ボンゴレでなくてはならないっ!だからあの老害どもの言うことも少しは聞いてやらねばなるまいそうだそうなのだ落ち着けイエナ・ファットーリっ!!例え今アイツを討てなくても、必ずっ、近い内にっ、その機会は訪れるっ!今までに放ったキメラは全てただの実験っ!試験っ!奴は必ず天才どもを守りきるし、いつか必ずオレの前に立ちはだかってくれるっ!!」
ある建物の室内で、一人の男が小声で何かを捲し立てていた。
どうやら自分を落ち着かせようと試みているようだ。
しかし男の発する言葉とは対称に、彼の顔は喜色満面、これ以上ないほどの笑顔だ。
彼は力任せに花瓶を叩き割ると、ふぅっと息を吐く。
「あぁ……落ち着いたっ」
どうやら頭が冷めたらしい。
にやけ面を引き締めて、乱れたスーツの襟を正す。
「あの老害どものご機嫌取りは、オレがボンゴレとして戦う以上絶対的に必要な事だ。考えろよ、考えろオレ。あの老害どものご機嫌を取りつつ、アイツをこれ以上ないほどに無惨に残酷に愉快に殺す方法をっ!最もベストなエンディングをっ!!とてつもなくドラマティックな演出をっ!」
いや、落ち着いたのは一瞬だった。
途中から興奮したように叫びだした彼は、両手を広げて天井を見上げる。
カッと見開かれた目の中で、瞳がキョロキョロと忙しなく動いていた。
「………………あっ、そうだ。最終日に総攻撃をして、それをアイツが防ぎきれば良い。そうすりゃあの馬鹿どもにも奴の強さが理解できるはずさっ!うんうん、オレ冴えてるなっ。そうすりゃ奴をしつこく狙う言い訳も立つ!ああ……そして……うんうん、考えは尽きないが……ああ……そろそろ時間か……」
男は、振り乱していた髪をすっと後ろに撫で付ける。
撫で付けた次の瞬間、男の雰囲気はガラリと変わった。
先程までの狂ったような雰囲気は微塵もなく、理知的で冷静な瞳で目前を見据えている。
「さあ、行きましょうか」
言葉遣いまで変わった男は、平然と部屋を出ていった。
目の前に現れた男を見て、スクアーロは苛立ち紛れの舌打ちをする。
それを聞き付けた日向が、びくりと肩を揺らした。
それに気が付かない振りをして、スクアーロは男に高速の手刀を打ち込む。
男が倒れるよりも早くに、近くに潜んでいた隊員がその体を抱えて回収した。
これでもう6回目だ。
しかも、今日だけで。
幸いなのは、敵がまだ彼らバスケ部の部員達を拐う気がなく、スクアーロ達自警団員を殺す気でここに来ている事か。
だが青峰と桃井は既に試合が終わり、敵も彼らを拐うつもりで来ている。
今はまだ、骸とクロームが防いでいるが、それもいつまで保つことか。
一応、一番警備は厚くしてあるが、スクアーロの懸念は尽きることがなく、思わず吐いたため息を、部員達に気付かれてしまった。
「先生、どうかなさったんですか?」
「黒子君……いえ、大したことではありませんよ」
「そうですか?」
スクアーロは、黒子の心配そうな視線を、笑顔を作って躱す。
そして代わりに、相田リコに視線を送った。
「相田さん、オレはここまでにしておきます。皆さん、試合、頑張ってくださいね。客席で応援してますから」
「はい!ありがとうございました先生!みんな!礼!」
リコの掛け声で、選手達が揃って頭を下げて『ありがとうございました』と合唱する。
それを聞き届けたスクアーロは、去り際に日向の肩を叩く。
そして彼にだけ聞こえるよう、声を潜めて囁いた。
「敵に手出しはさせねぇ」
「っ!!」
「だから、思い残しのないように、精一杯戦ってこい」
「……うすっ」
彼らに背を向け、客席に向かう。
しかし客席に辿り着くより早く、無線に入ってきた報告を聞き、スクアーロの足が止まった。
『――報告です。青峰桃井の近くにキメラらしき男を確認。現場にはチェデフが向かっています』
「……そろそろ、敵さんも本腰入れて狙ってきてるってわけかぁ」
『はい、スクアーロさんも十分気を付けてくださいね!』
「ああ。引き続き、警戒を頼む」
『はい!』
その後も続々と入ってくる報告を聞きながら、スクアーロは再び舌打ちをした。
完全に、防戦一方。
ここでこうして観戦している時間を、敵の探索に割り当てられたならどれだけ良いか。
そうして焦る一方で、冷静に考える。
自分の知っている『イエナ・ファットーリ』という人間なら、迷いなくスクアーロばかりを集中的に狙ってくる。
そう考えられるくらいには、自分が嫌われ、恨まれ、妬まれていると知っている。
いや、理由はわからないのだが……。
まあとにかく、実際今まではスクアーロの守る誠凛への攻撃が多く、他の高校への攻撃は申し訳程度と言っても良いほどだった。
それが最近は、だいぶ合理的な攻め方をしてきている。
流石にイエナも、旧ボンゴレの身勝手な老害……もとい、幹部達相手に、自分の我が儘を貫き通すのは難しいか。
まあ、それは想定内だし、スクアーロはむしろ、合理的な攻め方の方が先が読めて楽だとさえ思っているのであるが。
だがしかし思うのだ。
『イエナの野郎、どういうつもりなのだ』
……と。
* * *
「ああ、くそっ……オレは一体どういうつもりなんだっ!オレほどの実力があれば、腐りきった旧ボンゴレなど使わずとも、自警団ボンゴレの奴らと戦えるというのにっ!ああ、いやしかしっ!ボンゴレでなくてはならないっ!だからあの老害どもの言うことも少しは聞いてやらねばなるまいそうだそうなのだ落ち着けイエナ・ファットーリっ!!例え今アイツを討てなくても、必ずっ、近い内にっ、その機会は訪れるっ!今までに放ったキメラは全てただの実験っ!試験っ!奴は必ず天才どもを守りきるし、いつか必ずオレの前に立ちはだかってくれるっ!!」
ある建物の室内で、一人の男が小声で何かを捲し立てていた。
どうやら自分を落ち着かせようと試みているようだ。
しかし男の発する言葉とは対称に、彼の顔は喜色満面、これ以上ないほどの笑顔だ。
彼は力任せに花瓶を叩き割ると、ふぅっと息を吐く。
「あぁ……落ち着いたっ」
どうやら頭が冷めたらしい。
にやけ面を引き締めて、乱れたスーツの襟を正す。
「あの老害どものご機嫌取りは、オレがボンゴレとして戦う以上絶対的に必要な事だ。考えろよ、考えろオレ。あの老害どものご機嫌を取りつつ、アイツをこれ以上ないほどに無惨に残酷に愉快に殺す方法をっ!最もベストなエンディングをっ!!とてつもなくドラマティックな演出をっ!」
いや、落ち着いたのは一瞬だった。
途中から興奮したように叫びだした彼は、両手を広げて天井を見上げる。
カッと見開かれた目の中で、瞳がキョロキョロと忙しなく動いていた。
「………………あっ、そうだ。最終日に総攻撃をして、それをアイツが防ぎきれば良い。そうすりゃあの馬鹿どもにも奴の強さが理解できるはずさっ!うんうん、オレ冴えてるなっ。そうすりゃ奴をしつこく狙う言い訳も立つ!ああ……そして……うんうん、考えは尽きないが……ああ……そろそろ時間か……」
男は、振り乱していた髪をすっと後ろに撫で付ける。
撫で付けた次の瞬間、男の雰囲気はガラリと変わった。
先程までの狂ったような雰囲気は微塵もなく、理知的で冷静な瞳で目前を見据えている。
「さあ、行きましょうか」
言葉遣いまで変わった男は、平然と部屋を出ていった。