if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「……じゃあオレはこれから、零崎って人達に会いに行くのな?」

3人に、先程剛にしたのと同じ説明をすると、まず始めに山本が事も無げにそう言った。
殺人鬼だと言われたことも、親元を離れなければならないことも、彼に深いショックを与えはしなかったようだ。
反面、綱吉はかなりのショックを受けていた。
友達が殺人鬼だと言われたのだから、それが普通の反応だろう。

「ほ、本当に、どうにもならないの?山本は……人を殺しても何にも感じないような、酷い奴じゃ、ないでしょ!?治らないの?元に、戻らないの!?」

山本の問いは置いておき、血の気の引いた顔で言う綱吉に、スクアーロは言い聞かせるようにゆっくりと話した。

「もう、戻らねぇ。いや、本当は元から山本はこんな中身を持っていたんだぁ。オレたちはそれに気付けなかった。それだけだぁ」
「でも……!」
「しつこいぞツナ。スクアーロの言うことは本当だ」
「リボーン!!」

食い下がる綱吉に、思わぬところから声が飛び込んできた。
今までボルサリーノを深く被り、何か考え込んでいたリボーンが、綱吉の眼前に立ち、普段とは違う、真剣な目で言った。

「オレも裏世界の話は聞いたことがある。零崎って奴らについてもな。もう、後戻りは出来ねーんだ」
「そんな……!」

その様子を見て、スクアーロもまた深く思案する。
ただの中学生には、この事実は辛いだけだ。
認めたくないだろうし、人殺しと友達でいることだって嫌がるだろう。
もし、沢田綱吉が山本の存在を拒否したのなら、その時山本はどうなるだろうか。
零崎に覚醒したばかりで、不安定な精神が更に乱れて、暴れだしたりとか、逆に、山本自身の心が死んでしまったり。

「……なんで、なんでこんな話、オレにしてくれたの……してくれたんですか?」
「あ?」

綱吉に突然話を振られたスクアーロは、間抜けな声を出してしまう。
綱吉の言葉を脳内で反芻し、ようやっと意味を飲み込んでから、スクアーロは答えた。

「お前が、こいつのボスだからに決まってんだろぉがぁ」
「え?」
「テメーが嫌がってようが拒否ってようが、今のところテメーが10代目候補で、こいつがその守護者であることは間違いねぇんだぁ。テメーに継ぐかどうかの選択肢がなかったとしても、話を聞かせることは筋だろう」
「……」
「それに、この事で雨のボンゴレリングをどうするかっつー問題も出てくる。山本から取り上げるか、預けておくか、だなぁ」
「そんなこと、オレに言われても……」

綱吉は俯いて黙り込んでしまった。
そんな選択易々と出来ない、というのが本音だろうし、何より、そんなこと言ってる場合じゃないと、そう叫びたくて堪らないのではないだろうか。
時間はある。
壁に背を預けて、スクアーロは待ちの姿勢に入った。
綱吉の顔は今や真っ青で、リボーンだって、いつもより顔色が悪いように見えた。
そんな彼らを見かねたように、沈黙を破って話し出したのは、山本武であった。

「ツナ、あの……ゴメンな?こんなことに巻き込んだりして……」

だが口火を切ったは良いものの、何を話せば良いものかわからず、尻切れトンボに言葉は消え失せる。

「やっぱり、このリング返さねーとダメ、なのな?」
「そんな、そんなこと、今はどうだって良いだろ!?」

眉を下げて、困ったような顔をした山本に、綱吉は怒鳴った。
悲痛で、苦しそうで、それでいて酷く怒ったような声だった。

「嘘だって言ってよ!!オレは人を殺してないし、殺人鬼なんかじゃないって、そう言ってよ!!山本は……野球大好きで、ちょっと天然だけど、優しくて、強くて、カッコいい、オレの、友達でしょう?人殺したり、しないよね?ねえ、山本……!!」
「ツナ……」

縋るように叫ばれた望みの声に、山本はただ、悲しそうに眉を下げることしか出来なかった。

「ツナ、オレさ、さっき人を殺した」
「嘘だよ……!」
「嘘じゃねーんだ。スクアーロと親父にも斬りかかったんだ。その時のことは、ボンヤリとだけど記憶に残ってる。オレはあの時、人を殺して笑ってた」
「そんな訳ない……!」
「オレ、罪悪感も何もなくて、ただ、やっと息が出来たって感じがしたのな。今までずぅっと止めてた息を、ようやく吸って吐き出したって感じ。オレにとって殺しって、息をしたり、眠ったり、歩いたり、瞬きしたりするのとおんなじくらい、自然な行動なんだって、そう思えたのな……」
「違うよ……。殺すってことは……、人一人の命が……永遠に無くなっちゃうってことで……!!」
「うん」
「ユニとγが死んだとき、あんなに悲しそうにしてたのに……。スクアーロが心配で、引き返そうとしてリボーンに怒られてたのに……!」
「うん」
「なんで、なんでなの、山本……!!」
「……ユニ達のこと、死んで悲しかったのも、スクアーロが死ぬんじゃないかって心配したのも、本当に本当だったのな。それは、きっとみんなのことが大切だったからだし、今まで殺しを我慢してこれたのは、親父や、ツナ達友達が大切だったからだって、オレはそう思ってるのな。でも、もうだめなんだ。もう、自分でも止められなくなっちまったのな。オレ、完璧に裏世界ってとこに入っちまったんだ」
「……っ!!」

綱吉の瞳から、ボロ、と滴が落ちる。
我慢できなかったのだろう。
受け止めきれなかったのだろう。
立ち上がった綱吉は、出口に走っていった。

「ツナ!!」

だが山本の言葉に動きが止まる、振り向いて、涙で一杯の瞳を見張る。
もしかしたら、嘘だと言ってくれるのかもしれない。
きっとそんな思いを抱いて振り向いたのだろう。

「今までずっと隠してて、ゴメンな」

だが山本から掛けられたのは、望んでいた言葉とは正反対なものだった。
襖を開けて駆け出した綱吉を追って、リボーンも出ていく。
残った3人の間には、先程よりもずっと重くて苦しい沈黙が降りていた。
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