if群青×黒子、違う世界の人たち

オレに勝てるのはオレだけだ、とか、オマエのバスケじゃ勝てねーよ、とか。
何を言ったところで負けたことには変わりない。
故に、『でも負けたじゃん?』という言葉は、ある意味当たり前の言葉であるのだが、青峰を切れさせるには十分な、配慮が余りにも足りない言葉であった。

「しかしまあ、なんと短慮な……」
「青峰君を呼び出した人って……あの、たぶん……」
「ええ、その通りですよクローム。あの男、マフィアだ」

どうやら、桐皇高校に旧ボンゴレの手の者が紛れ込んでいたらしい。
というより、元から桐皇にいた人間が、幻術か何らかの方法でボンゴレの道具にさせられている、と言った方が正しそうだ。
骸とクロームは幻術で姿を隠しながら、青峰とその男子を追って校舎裏の中庭を窺っていた。

「で、バスケ部貶すようなこと言っておいて、話し合おうって呼び出しか?そんなんですむわけねぇよな」
「まあな。つーか実はさ、さっきオマエのこと怒らせたの、ちょっと内密な話がしたかったからなんだよね」
「はあ?ナイミツ?何だよそれ」

二人の会話を聞きながら、骸は呆れた顔でため息を吐く。

「青峰大輝……思っていたよりも馬鹿のようですね。沢田綱吉よりも頭が悪いのではないですか?クフフ、ですがこれなら、途中相手が幻術と入れ替わっても気付かないでしょうね。クローム」
「はい」

クロームと骸は何もないところから槍を出し、青峰とその目の前に立つ男子に幻術を掛ける。
クロームは男子に攻撃を与える。
それがわからないよう、骸は青峰に対して目の前の攻防を隠す幻術を掛けた。

「っ!?チッ!裏切り者の10代目一味か!!」
「逃がさない……!」
「クソっ!」

男子生徒が地面から生えてきた幻術の蔦に捕まったところを、更に有幻覚の拘束具が襲い、身動き1つ出来ないほどにまで縛り上げる。
そして骸の幻術は、青峰の目の前に何もない光景と、ヘラヘラとした笑みを浮かべる男子生徒を作り出す。

「あ……ごめん、やっぱり今のなしな!オレ用事思い出したからもう行くわ!!」
「はあ!?」
「じゃーな!」

幻術の男はさっさと校舎に戻っていく。
骸は、青峰ももちろん、それを追って行くと考えていた。
だが予想に反して、青峰はその場に留まると、そわそわと辺りを見回す。

「なんか……変な感じが……」

まさか、幻術に気が付いている?
骸の頬を、たらりと冷や汗が伝う。
そんなはずがないと思う一方で、事前に見た資料の一節を思い出す。
『野性的な勘が鋭く、監視に当たっていた匣アニマルの存在も察していた』
沢田綱吉のような超直感ではなく、XANXUSや雲雀恭弥のようなタイプの勘。

「気のせいか……?」

だが幸いなことに、流石に幻術には気が付かなかったのか、青峰は踵を返して立ち去っていく。
……かに思われた。
彼が幻術で隠れた骸の前を通り過ぎた時である、彼の視線と骸の視線がかち合った……ような気がする。
骸がハッと息を飲む。

「……やっぱり何か、あるような……」
「っ!」

そんな馬鹿な!
骸はそう叫びたい気持ちを堪えて、息を殺した。
まさか敵はここにいたなんて……!!
ずかずかと歩いてくる青峰が、目と鼻の先にまで接近し、骸の肩の上の壁を手で触って、何かを確かめている。
こんなにドキドキする壁ドンはない。
骸は今すぐ青峰を殴り倒したい気持ちを抑えて、彼が立ち去るのをじっと待つ。

「……ま、良いか」

やがて、青峰が歩き去っていき、骸は大きく息を吐き出した。

「あ、危なかった……!何なんですかアイツは……!!」
「骸様……!大丈夫ですか?」
「散々な目に遭いましたが、大丈夫ですよクローム」

クロームにそう言いながらも、骸は顔色が悪い。
まさかこんなくだらないところで、術士としてのプライドを砕かれそうになるとは。

「まあ良いでしょう。とにかく、あの男子生徒から事情を聞き出しましょうか」
「この人、洗脳されている……」
「クフフ、その通りです。彼に掛けられた術の痕跡から、上手く術士まで辿り着ければ良いのですが」

二人は拘束された男を連れて、周辺に待機していたヴァリアーの男に引き渡した。
さて、今ごろ勝ち進んでいる彼らは、どうしているのだろうか。
今日は2回戦。
そしてそこで、残りの彼らが勝ち上がれば、明日の準々決勝では護衛対象同士である、誠凛と陽泉の試合がある。

「何事もなく……と言うことにはならないでしょうね。はてさて、次は何が来るのでしょうか」

そして翌日、誠凛と陽泉の試合が行われた。
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