if群青×黒子、違う世界の人たち

1つ、新しいことを知ると、今まで見えなかった色々なものが見えてくる。
例えば学校で、見覚えのない用務員の男とスレ違う。
今までなら、新しい人が入ったのか、と思うだけで終わってた。
だが今は、この人はもしかしたら、自分達を守るために学校に潜入している人なのかも、いや、もしかしたら自分達を誘拐するために潜入している敵?
そうやって悶々と考え込むようになってしまった。
幸い、そんなことを考えるようになったのは試合のない日だったのだが、練習中にも同輩達に不思議そうな顔をされた。
曰く、『全然集中出来ていない』と。
それはそうだろう。
だってあんな目に遇って、身近な恐怖を知ってしまって。
普通の状態ではいられない。
後輩達にまで異変を指摘されたとき、日向は呼び出しを受け、空き教室に向かったのだった。

「全っ然、集中出来ません!」
「……まあ、だろうなぁ」
「オレ次の試合負けるかも知れないっすけど……。どうすりゃ良いんですか……?」
「……あ゙~、まあ、気にするなとしか言えねぇなぁ」
「そんなぁ……!」

日向を呼び出したのは、言わずもがな、スクアーロだった。
余りに落ち着かない日向を、見るに見かねて呼んだのだが、頭を抱える彼になんと声を掛ければ良いのかわからず、彼と共に途方に暮れるばかりであった。

「そんなに潜入しているうちの者、気になるかぁ?」
「や、やっぱり潜入されてたのか……!!気になるっちゃ気になるんすけど、特別そういう人達が気になるってよりは、何もかもが得体の知れない物に見えるんですよね……」
「……そりゃ、困ったなぁ」

かなり他人の存在に敏感になってしまっているらしい。
確かにこんな状態では、明日の試合も危ぶまれる。

「オレ達はそう簡単には負けねぇよ。だから気にせず試合に集中しろぉ」
「言われても気になるんです!」
「オレにはどうしようもねぇだろぉ」
「それはそうでしょうけど……!」

頭を抱えて、あーだのうーだの唸り続ける日向に、スクアーロも疲れたようにため息を吐く。

「あんまりごちゃごちゃ言ってると、うちの隊員用の特別訓練メニューやらせるぞぉ」
「え……なんすかそれ」
「精鋭揃いの隊員達に『殺す気』かと言われた鬼畜メニュー」
「絶対嫌です!オレ練習戻ります!!」

慌てて頭を振って教室を出ていった日向に、最初からこうすれば良かったか、と目を細めるスクアーロに、無線からの声が労りの言葉を掛けた。

『なんか……お疲れ様です』
「いや、それよりも、試合会場の方はどうなんだぁ?」
『敵は何人か来てますけど、キメラが来る様子はありませんね。やはり昨日のキメラの襲撃は、実験的な意味が大きかったんでしょうね。日向順平を襲ったのも、そこら辺が理由でしょう』
「まあ、あれで失敗して選手を傷付けたりしたら意味ねぇしなぁ」

昨日、キメラと、敵の男を一人連れ帰ったスクアーロは、彼らから話を聞き出したのだが……。

『向こうも大会終了後を狙ってきているみたいですね……』
「ああ……、試合中に選手が行方不明になると目立つしなぁ」
『でも誠凛ばっかり集中的に狙われる理由が、スクアーロさんを真っ先に潰したいっていう向こうの人間の私情なんて……ちょっとムカつきますよね』
「……まあ、恨み買うことは山程してきたしなぁ。何より、オレはボンゴレが知られたくない後ろ暗い情報を、大量に握っている。そういう意味でも、さっさと片付けたいんだろうぜ」
『使うだけ使っておいて、要らなくなったら殺すなんて……』
「マフィアってのはそういうモノだぁ」
『そう……かもしれませんけど』

不満げな入江の声に、スクアーロは低い声で笑う。
入江はその笑いにも不満そうにしていた。

『笑うところじゃありませんよ!』
「そうかぁ?まあ、そんなことを今更気にしてんな。それよりお前は、今出来ることをしろぉ」
『……はい』
「オレは戻る。会場の奴らの事は頼んだぞ」
『わかりました。スクアーロさんも気を付けてください』
「ああ」

無線を切って、スクアーロは体育館に戻る。
日向はどうやら先程の脅しが効いたらしくて、集中力を多少は取り戻したようだ。
遠くから選手達の練習を眺めながら、スクアーロは束の間の平穏に浸っていた。
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