if群青×黒子、違う世界の人たち

日向順平を追ってロッカールームまで移動している最中、スクアーロは謎の殺気が日向ではなく、自分に向かってきていることにようやく気付く。
やはり第一に、ボンゴレ自警団の人間を殺すのが目的か。
そうすれば後は、モルモットが収穫し放題になるわけであるし、その事もスクアーロはもちろんわかっていたのだが、それでも、その殺気の気味の悪さに身震いしそうになっていた。
まるでぬたぬたと纏わり付いてくるかのような、その殺気。
依然正体不明のままであるその気の持ち主。
更に気味が悪いことに、その謎の人物は、こうして日向が一人きりになった今でも姿を見せず、微かに殺気を放ちながら追ってきているだけであるのだ。
機をうかがっているのか?
それとも、何か他の理由が?
と言うか、奴は一体どこから追ってきているのか。
こんなに長い間探しているのに、その人物は一向に姿を見せず、ただ殺気だけがその存在を感じさせている。

「チッ……」

思わず口をついて出た舌打ち。
だが日向がロッカールームに着き、中に入って行くのを視界に捉えたスクアーロは、苛立ちを収めて扉の隙間から彼の様子を伺った。
殺気は未だに続いている。

「ケータイケータイっとー……。お、あったあった」

日向は直ぐに忘れ物を見付けたらしい。
だが彼がケータイを手に取ったその瞬間、スクアーロの耳は異様な音を捉えていた。
ザラ、ゴリ、ゴギギギ、ザリ……。
微かな音は次第に大きくなっていく。
ついに日向にまで聞こえるほどになったその音は、どうやら下から聞こえてきているようだった。

「あ?なんだこの音?どっかで工事でもしてるのか?」

呑気なことを言いながら、ケータイをカバンに仕舞う日向に素早く近付き、スクアーロはその腕を引いた。
音を聞いて、敵の居場所がようやくわかったのだ。
ガリゴリという音、それは部屋に備え付けられた、小さな洗面台の下から響いてきている事に。
奴はずっと下にいたのだ。
配水管、地下にあるその中から、虎視眈々と機会をうかがい続けてきて、今、やっと姿を現そうとしている。
こんな逃げ場のない狭いところで襲われたら、堪ったものじゃない。
最早、姿を見られることを気にしている余裕はなかった。

「って……アル先生!?用事があるんじゃ……て言うかなんでオレは引っ張られてるんですか!?」
「良いから早く来い!ここは危ない……!」

日向を引き摺るようにロッカールームの外に押し出し、スクアーロもそこを出ようとした、その瞬間、バゴンっとでかい音を立てて、ロッカールームの一部が崩壊した。
そこから噴き出す赤い炎を見て、あの音がコンクリートを削っていた音だと言うことに気が付く。
今さらそんなこと、どうだって良いのだが。

「うわっ!?なんだアレ!?」
「くそっ……!おい、オレの側から離れるなぁ!!」
「は、はあ!?」

炎の柱が立ち上る。
そしてその中から現れたのは深い灰色の髪をした、一人の小柄な男だった。
獣のような縦に開いた瞳孔。
雰囲気だけでも良くわかる。
間違いない、キメラだ。

「いひひ、ひひひひっ!わしの獲物じゃあ、返さんと、おんしを食ろうちゃるぞ」
「……チッ、最悪だなぁ。悪いがテメーにこのガキは渡せねぇ。さっさと帰んなぁ」
「ひっ、ひぃひひっ!帰る?帰るとな?わしは帰らんぞ?おんし達を帰す気もないしのぉ!!」
「チッ!カス野郎がぁ!!」

そのキメラの男は、1度地面に手をつき、クラウチングスタートのような構えを取ると、弾丸のように飛び出してきた。

「ヒッ!?」

日向の小さな悲鳴が聞こえると同時に、スクアーロは雨の炎を展開させ、突進してくる男の牙を剣で防いだ。
ガギッという固い音、重たい攻撃に筋肉が悲鳴を上げる。
内心で口汚く罵りながら、全力を込めて剣を振り抜く。

「ぎひっ、ひひひ」

剣を思いっきり噛んでいた男は、怪我の1つもなく数歩分下がり、再び脚に力を込める。

「ゔお゙ぉい!!逃げろぉ!」
「にっ、逃げろったって……!」
「良いから走れぇ!!」
「ぐっ……くそ!」

敵がもう一度踏み込んでくるよりも早く、日向を急かして逃がしたスクアーロは、男に向けて剣を投擲した。
そのお陰で男の狙いが逸れて、壁に勢いよく衝突する。

「がふぁっ!?」
「っ……ラッキー」

剣を投げたせいで丸腰同然になっていた為、本当にラッキーだった訳なのだが、とにかくそれ以上、時間を無駄にする訳にはいかず、スクアーロは日向の後を追い掛け始めた。
先程放った剣は、男の噛んだ部分がボロボロに欠けてしまっていた。
とんでもない顎の力。
そして配水管を使い移動していたこと。

「鼠のキメラかぁ……!」
「な、なんなんすかアレぇ!?」
「良いから走れ!!」

直ぐに追い付いた日向をせっつきながら、スクアーロは考える。
柔軟な動きの出来そうなあの体。
このような狭いところでは、ただでさえこちらが不利になると言うのに、その上一般人を守りながらだなんて。
自身の装備を思い出しながら、スクアーロは敵を倒すための策を必死に考え始めていた。
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