if群青×黒子、違う世界の人たち

その気配を感じたのは、その日の試合が終わり、選手達が帰路に着こうとした時だった。
ほんの僅か、割合にすれば1%にも満たない程の殺気を感じて、スクアーロは微かに眉をひそめる。

「アル先生?どうかしましたか?」
「……いえ、何でもありません」

その変化を黒子に気付かれ、内心驚きつつも、平然とした顔で返した。
今、スクアーロは誠凛バスケ部のメンバーと合流して、それぞれを送ろうとしていたところだった。
途中までは全員同じ電車を使う為、出来る限り送って帰ろうとしていたのだが、どうやら予定通りにはいかないようである。
スクアーロは彼らと少し距離をとった位置に下がると、無線に小声で話し掛けた。

「……入江、敵だ」
『むごっ!!え!?敵ですか!?でも反応はありませんけど……』
「良いからさっさと連絡回せぇ」
『わ、わかりました!!』

微かな殺気は先程感じたきり消えてしまったが、かなり近かったと思う。
どこにいるのか、上だろうか、下だろうか、右だろうか、左だろうか……。
スクアーロは油断なく周囲に目を配りながら、ベルを近くまで呼び寄せる。
同時に、極々細い糸を周囲に張り巡らせる。
殺傷能力は零である。
だが代わりに、糸に触れる人の様子がよくわかる……いわゆるセンサーの役割を果たす。
炎より気付かれにくく、……炎よりもだいぶ神経を磨り減らす代物である。

『しし、どーだよスクアーロ。見っけた?』
「……いないな……」

糸の届かない所にいるのか、敵らしき人物が糸に掛かることはなく、そうこうしている内に、バスケ部が動き出そうとしていた。

「先生?そろそろ行きますけど……」
「ああ、すみません。ちょっと急用を思い出して……。申し訳ありませんが、皆さんだけで帰ってもらえますか?」
「え?でも……」
「申し訳ありません。どうしても外せない用事で……」
「あっちょ、先生!?」

このまま彼らと共にいては、自由には動けない。
そう判断し、スクアーロは生徒達に突っ込まれない内にその場を去った。
直ぐにベルと合流して、影から彼らの動きを見守り、敵を探して視線を走らせる。

「チッ……マジでどこにいやがる」
「しし、オレ達に見付からねぇレベルとかマジで何者?……まさかだけど、キメラとかねーよな?」
「あり得なくはねぇだろぉ。もし仮に、ベースの人間がプロの暗殺者で、それに隠れるのが得意な動物が掛け合わされたりしたら、オレ達だって簡単には見付けられねぇ」
「マジかよ」

薄闇に包まれ始めた道を歩いていく彼らを追って、二人も移動を始める。
途中まで揃って歩いていたのだが、突然、主将である日向が立ち止まった。

「やっべぇ!ロッカールームにケータイ忘れた!!」
「はあ!?何やってんのよもう。先行って駅で待ってるから、さっさと取ってきなさい!」
「おー、じゃすぐ追っかけるから」

引き返してくる日向。
その動きを見た瞬間、僅かに怪しい気配を感じ、スクアーロはベルに指示を出した。

「ベル、お前はこのままアイツらに着いていけ」
「スクアーロは?」
「日向に敵が行くかもしれねぇ。日向を追う」
「敵独り占めする気かよ?」
「んなわけねぇだろうがぁ。さっさと行け!」
「へーい」

日向の後を追うスクアーロと、そのままバスケ部の団体に着いていくベル。
そして姿を隠し続けている敵は……


 * * *


「ひひ、獲物、一人になったのう」

厭らしい笑い声をあげ、舌舐めずりをして群れの中から離れていく人影を追う。
自分同様、隠れてその獲物の背中を追っている人間の存在をしっかりと感じ取りながら、『彼』は音もなく移動していく。
ああ、あの人影を追っていけば、遂に待ちに待った、あの暖かく生臭い、真っ赤な血を浴びることが出来るのだ。
人影は殺してはならないと言われているが、『彼』の他に人影を追っている人物については殺せと確かに命令されている。

「殺し、殺しじゃ……いひひ」

不気味に大きな口を歪めて笑い、『彼』は再び体育館へと向かって言ったのである。
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