if群青×黒子、違う世界の人たち
そして訪れたウィンターカップ初日。
「すべてに勝つ僕はすべて正しい」
このざまである。
「僕に逆らう奴は親でも殺す」
もう一度言おう、このざまである。
WC会場の正面階段、そこで緑間の鋏を使って火神大我を攻撃した後、伸びた前髪を切り落とした赤司を見て、スクアーロはため息を吐き、ベルはゲラゲラと腹を抱えて笑い、綱吉や山本は遠い目をする。
「何て言うか……スゴく傷口がえぐられる感じ……」
「今回ばかりは同意します……」
白蘭と骸の両名は白く燃え尽きたようになっている。
中2病という言葉が彼らの脳内を過る。
「ったく、カスがぁ。護衛対象どうしで何揉めてやがる」
「まあ、赤司君だし……」
「赤司だしなー」
「この数日間、京都で何があったのツナ君」
彼らの数日間の苦労が忍ばれるが、今はそんなことを言っている場合ではなかった。
彼らキセキの世代の周りに、息を殺して潜む者がいる。
炎で彼らを牽制しながら、その場から人がいなくなるのを待つ。
新旧ボンゴレ、どちらにとっても、一般人に見られることは損でしかない。
ここには、まだ無関係の一般人がたくさんいる。
試合が始まり、全員が去った後に、ボンゴレ同士の戦いは始まるのだ。
キセキの世代達が去り、そして人がいなくなったところで、事態は動いた。
「ベル」
「しし、おっけー」
スクアーロが片手をあげて合図を送る。
ベルはその合図に合わせて、大量のナイフを投げた。
次の瞬間、壁の向こう側や曲がり角、植え込みの影、様々な死角から、人の呻き声が聞こえてきた。
「めーいちゅうっ!」
「バカ、まだ残ってる。油断すんなよぉ」
一般人のいなくなった広場に、濃密な殺気が広がる。
どこからともなく、ゾロゾロと沸いて出てくる黒服の男達を見て、真っ先に飛び出したのはスクアーロだった。
続いてベル、骸が飛び出し、男達を片っ端から倒していく。
綱吉達は彼らとは逆の方向へと飛び出した。
「はっ!雑魚ばっかじゃねぇかぁ!?」
「もしかしたら裏口とかに大きな獲物が来てるかもよ♪」
「しし、ま、王子は遊べるなら誰でもいーけどな」
白蘭も追い付き、敵を手際よく制圧していきながら、軽い調子で会話を交わす。
その最中も、彼らは手を止めていないが、技の精度が落ちることはなかった。
「そっちにゃそっちで、仲間が待ち構えている」
「クフ、そう簡単に、中には入れません」
だが、キメラが現れたら、話は変わる。
その言葉を飲み込み、スクアーロは黙々と敵を切ることに専念する。
幸い、仲間達からキメラ出現の連絡はなく、敵を一人残らず倒した彼らは、急いで会場の中へと向かったのであった。
* * *
「ゔお゙ぉい、家光、調子はどうだぁ?」
「うるせーぞ鮫野郎。まだ敵は誰も来てねぇぞ」
「でけー声で喚いてんじゃねぇぞ。それなら引き続き警戒してろぉ、ゴリラ」
「ストレートな悪口だな!」
険悪な様子で会話を交わすのは、スクアーロと家光であった。
暇そうにコートを見回す家光は、彼らが会場の外で敵と戦っている間、中でずっと待っていたのだが、自分だけ戦えなかったせいで機嫌が悪いらしい。
いつも以上にスクアーロに突っ掛かる家光に、彼女も苛立ちを露に返事を返す。
だがコート上にいる誠凛の選手達が、自分の姿を見付けて手を振るのを見ると、直ぐにその顔に笑顔を張り付ける。
手を振り返すスクアーロを見て、家光はケッと吐き捨て顔を険しくする。
「猫被っちゃってまあ!」
「猫被りするだけで、疑われずに済むなら安いもんだろぉ?」
「そーゆースカしたところが更に気に食わねぇ!!」
家光は荒々しく立ち上がり、コートに背を向けて歩き出す。
「おい!どこに行く?」
「テメーのいないところだ、ぶわぁか!」
去っていく家光をため息を吐きながら見送り、スクアーロはコートを見下ろす。
誠凛対桐皇戦が、始まろうとしていた。
* * *
「……まるで狼の前の羊だな」
「判官贔屓をする気も失せるよね♪」
秀徳高校の1回戦を見ながら、白蘭とγはかなり引いた顔をしていた。
秀徳と1回戦で当たった高校も必死に食い下がってはいるものの、緑間の超長距離3Pシュート、高尾の鷹の目、そして上級生達の怒涛の攻撃を前に、為す術もない様子だ。
「才能があるって、残酷だよねぇ♪」
「残酷とともに、災難でもあるぜ。奴らぁ、その才能のせいで、悪ぅいマフィアに狙われてんだからな」
少しの哀れみを含んだ瞳で彼らを見るγに、ドリンクを飲む高尾が気付いて手を振った。
手を振り返し、γは小さくため息を吐く。
「せめてこの大会の間は、奴らに全力でバスケをさせてやりてぇな」
* * *
「うおお!極限スゴいぞ黄瀬!このまま一網打尽だ!」
「黄瀬殿とも、1度手合わせをしてみたいですね」
海常高校の応援をする了平とバジルの二人。
彼らの声に手を振り返しながら、『人間やめてるような人にスゴいって言われても嬉しくないっす……』と黄瀬が笠松に溢していることを、二人は知らない。
「結局、キメラとやらは襲っては来なかったが……、今日はもう来ないのか?」
「拙者にもわかりません。ただ、油断させておいて突然襲ってくるかもしれませんしね。注意は怠らずにいきましょう!」
「極限了解だ!」
力強く頷く了平にバジルもにこやかに笑って、「頑張りましょう!」と言う。
第3Qに入った海常の試合は、順調に勝利へと進んでいた。
* * *
「オレ達は今日は開会式だけでー、試合は明日からなんだよねー」
「そうなんだ……。じゃあ明日から、頑張ってね」
「んー、オレどうせ勝てる試合だしー、あんまり頑張りたくない」
「え?でも紫原君、スタメンなんでしょう?バスケ部の中でも、選ばれた精鋭メンバーの一人だし、やる気とか、出ないの?」
「だってオレ、バスケそんなに好きじゃねーし」
次の対戦校の試合を見ながら、紫原と炎真が話していた。
相変わらず脱力していてやる気のない紫原に、珍しく炎真が眉をひそめる。
「それは……良くないと思うな……」
「……里ちん、オレに本気でやれとか言うわけ?それ、すげー冷めるんだけど」
「……本気でやれ、とは、言わないかな」
「はあ?じゃあ、なに」
「……戦うからには、責任を感じてなくちゃいけないと思うよ」
「責任?」
「君の背中には、レギュラーに入れなかった人達の気持ちが乗っているんだ。予選で負けた人達の想いも乗ってる。紫原君の意思に、関係なく。戦いの場に出る人間は、その人達の心の上に自分があることを、しっかりと感じていなければならないと、僕は思うかな」
「……ふぅん」
「半端な気持ちじゃ、いつかきっと後悔するよ……なんて、僕が偉そうに言うことじゃないよね」
「べっつにー、里ちんは里ちんで、勝手にそう思ってれば良いんじゃない?オレはそんなの、気にしないけどね」
緩い調子で話しながら、紫原はコートを見下ろす。
「どんな奴でも、オレが捻り潰すだけだし」
冷めた瞳で吐き捨てた紫原に、炎真は何か言いたげな視線を送るだけであった。
* * *
「……赤司君、前髪切ったの?」
「ああ、だいぶ伸びてたからね」
実は彼が前髪を切るところを見ていた綱吉だったが、流石に指摘しなければ怪しまれるだろうと、その変化を問う。
「征ちゃんったら自分で前髪切っちゃったのよ?もう、呆れちゃうわ……」
「あ、はは……まあ赤司君ですし」
実渕の愚痴っぽい呟きに、綱吉は苦笑を浮かべる。
洛山はやっぱり、安定しているな……。
そう思った綱吉は周りを見回す。
洛山の近くにいる他校の人々は、ピリピリとして落ち着かないが、当の洛山は誰一人として動じていない様子だった。
今のところは敵もおらず、綱吉は気の抜けた表情で試合を見る。
そろそろ、試合終了のブザーが鳴る……。
* * *
「……あ」
「クフフ、負けてしまいましたね」
試合終了のブザーとともに、火神大我のダンクが決まった。
試合の様子を見ていたクロームと骸は、特に驚いた様子も見せずに、誠凛チームやその応援団の歓声を聞いていた。
「彼らを護衛しているだけの僕達には関係のないことですが……クローム、気になるのなら、行っても良いのですよ」
「……今、私が行っても、かける言葉はありません……」
「クフ、そうですか」
コートを背に、外に去っていく彼らを目を細めて見詰めながら、クロームは唇を噛み締める。
青峰は練習をサボったり怠けたりしていたが、今吉を始めとする彼らが、どれだけ本気で挑んでいたのか、ほんの少ししか練習を見ていないクロームにもよくわかっていた。
悔しいだろう、悲しいだろう。
だが彼らの気持ちの、ほんの一端しか知らない彼女に、かける言葉はなかった。
「……大会はもう終わりですが、護衛はまだまだ続きます」
「はい……」
控え室に捌けた彼らを追って、二人は足早に階段を降りていった。
* * *
「シュゥー……」
静かに息を吐き出し、『彼』は会場の様子を見下ろす。
バスケットボールの試合に集中する選手と観客達の中に、常に緊張した空気を纏っている人々を見付けて、吐く息を止める。
一般人に紛れ込もうとしているようだが、油断のない足運びも、常に筋肉に緊張を走らせている様子も隠しきれていない。
耳まで避けている口を歪めてにったりと笑い、コートを後にする選手の群れの1つを追った。
選手達は餌だ。
『彼』はそれに食いつく獲物だが……。
「いひ、ひひ、餌ごと食い付くしちゃる」
妖しい笑いを1つ残し、その場を去った。
「すべてに勝つ僕はすべて正しい」
このざまである。
「僕に逆らう奴は親でも殺す」
もう一度言おう、このざまである。
WC会場の正面階段、そこで緑間の鋏を使って火神大我を攻撃した後、伸びた前髪を切り落とした赤司を見て、スクアーロはため息を吐き、ベルはゲラゲラと腹を抱えて笑い、綱吉や山本は遠い目をする。
「何て言うか……スゴく傷口がえぐられる感じ……」
「今回ばかりは同意します……」
白蘭と骸の両名は白く燃え尽きたようになっている。
中2病という言葉が彼らの脳内を過る。
「ったく、カスがぁ。護衛対象どうしで何揉めてやがる」
「まあ、赤司君だし……」
「赤司だしなー」
「この数日間、京都で何があったのツナ君」
彼らの数日間の苦労が忍ばれるが、今はそんなことを言っている場合ではなかった。
彼らキセキの世代の周りに、息を殺して潜む者がいる。
炎で彼らを牽制しながら、その場から人がいなくなるのを待つ。
新旧ボンゴレ、どちらにとっても、一般人に見られることは損でしかない。
ここには、まだ無関係の一般人がたくさんいる。
試合が始まり、全員が去った後に、ボンゴレ同士の戦いは始まるのだ。
キセキの世代達が去り、そして人がいなくなったところで、事態は動いた。
「ベル」
「しし、おっけー」
スクアーロが片手をあげて合図を送る。
ベルはその合図に合わせて、大量のナイフを投げた。
次の瞬間、壁の向こう側や曲がり角、植え込みの影、様々な死角から、人の呻き声が聞こえてきた。
「めーいちゅうっ!」
「バカ、まだ残ってる。油断すんなよぉ」
一般人のいなくなった広場に、濃密な殺気が広がる。
どこからともなく、ゾロゾロと沸いて出てくる黒服の男達を見て、真っ先に飛び出したのはスクアーロだった。
続いてベル、骸が飛び出し、男達を片っ端から倒していく。
綱吉達は彼らとは逆の方向へと飛び出した。
「はっ!雑魚ばっかじゃねぇかぁ!?」
「もしかしたら裏口とかに大きな獲物が来てるかもよ♪」
「しし、ま、王子は遊べるなら誰でもいーけどな」
白蘭も追い付き、敵を手際よく制圧していきながら、軽い調子で会話を交わす。
その最中も、彼らは手を止めていないが、技の精度が落ちることはなかった。
「そっちにゃそっちで、仲間が待ち構えている」
「クフ、そう簡単に、中には入れません」
だが、キメラが現れたら、話は変わる。
その言葉を飲み込み、スクアーロは黙々と敵を切ることに専念する。
幸い、仲間達からキメラ出現の連絡はなく、敵を一人残らず倒した彼らは、急いで会場の中へと向かったのであった。
* * *
「ゔお゙ぉい、家光、調子はどうだぁ?」
「うるせーぞ鮫野郎。まだ敵は誰も来てねぇぞ」
「でけー声で喚いてんじゃねぇぞ。それなら引き続き警戒してろぉ、ゴリラ」
「ストレートな悪口だな!」
険悪な様子で会話を交わすのは、スクアーロと家光であった。
暇そうにコートを見回す家光は、彼らが会場の外で敵と戦っている間、中でずっと待っていたのだが、自分だけ戦えなかったせいで機嫌が悪いらしい。
いつも以上にスクアーロに突っ掛かる家光に、彼女も苛立ちを露に返事を返す。
だがコート上にいる誠凛の選手達が、自分の姿を見付けて手を振るのを見ると、直ぐにその顔に笑顔を張り付ける。
手を振り返すスクアーロを見て、家光はケッと吐き捨て顔を険しくする。
「猫被っちゃってまあ!」
「猫被りするだけで、疑われずに済むなら安いもんだろぉ?」
「そーゆースカしたところが更に気に食わねぇ!!」
家光は荒々しく立ち上がり、コートに背を向けて歩き出す。
「おい!どこに行く?」
「テメーのいないところだ、ぶわぁか!」
去っていく家光をため息を吐きながら見送り、スクアーロはコートを見下ろす。
誠凛対桐皇戦が、始まろうとしていた。
* * *
「……まるで狼の前の羊だな」
「判官贔屓をする気も失せるよね♪」
秀徳高校の1回戦を見ながら、白蘭とγはかなり引いた顔をしていた。
秀徳と1回戦で当たった高校も必死に食い下がってはいるものの、緑間の超長距離3Pシュート、高尾の鷹の目、そして上級生達の怒涛の攻撃を前に、為す術もない様子だ。
「才能があるって、残酷だよねぇ♪」
「残酷とともに、災難でもあるぜ。奴らぁ、その才能のせいで、悪ぅいマフィアに狙われてんだからな」
少しの哀れみを含んだ瞳で彼らを見るγに、ドリンクを飲む高尾が気付いて手を振った。
手を振り返し、γは小さくため息を吐く。
「せめてこの大会の間は、奴らに全力でバスケをさせてやりてぇな」
* * *
「うおお!極限スゴいぞ黄瀬!このまま一網打尽だ!」
「黄瀬殿とも、1度手合わせをしてみたいですね」
海常高校の応援をする了平とバジルの二人。
彼らの声に手を振り返しながら、『人間やめてるような人にスゴいって言われても嬉しくないっす……』と黄瀬が笠松に溢していることを、二人は知らない。
「結局、キメラとやらは襲っては来なかったが……、今日はもう来ないのか?」
「拙者にもわかりません。ただ、油断させておいて突然襲ってくるかもしれませんしね。注意は怠らずにいきましょう!」
「極限了解だ!」
力強く頷く了平にバジルもにこやかに笑って、「頑張りましょう!」と言う。
第3Qに入った海常の試合は、順調に勝利へと進んでいた。
* * *
「オレ達は今日は開会式だけでー、試合は明日からなんだよねー」
「そうなんだ……。じゃあ明日から、頑張ってね」
「んー、オレどうせ勝てる試合だしー、あんまり頑張りたくない」
「え?でも紫原君、スタメンなんでしょう?バスケ部の中でも、選ばれた精鋭メンバーの一人だし、やる気とか、出ないの?」
「だってオレ、バスケそんなに好きじゃねーし」
次の対戦校の試合を見ながら、紫原と炎真が話していた。
相変わらず脱力していてやる気のない紫原に、珍しく炎真が眉をひそめる。
「それは……良くないと思うな……」
「……里ちん、オレに本気でやれとか言うわけ?それ、すげー冷めるんだけど」
「……本気でやれ、とは、言わないかな」
「はあ?じゃあ、なに」
「……戦うからには、責任を感じてなくちゃいけないと思うよ」
「責任?」
「君の背中には、レギュラーに入れなかった人達の気持ちが乗っているんだ。予選で負けた人達の想いも乗ってる。紫原君の意思に、関係なく。戦いの場に出る人間は、その人達の心の上に自分があることを、しっかりと感じていなければならないと、僕は思うかな」
「……ふぅん」
「半端な気持ちじゃ、いつかきっと後悔するよ……なんて、僕が偉そうに言うことじゃないよね」
「べっつにー、里ちんは里ちんで、勝手にそう思ってれば良いんじゃない?オレはそんなの、気にしないけどね」
緩い調子で話しながら、紫原はコートを見下ろす。
「どんな奴でも、オレが捻り潰すだけだし」
冷めた瞳で吐き捨てた紫原に、炎真は何か言いたげな視線を送るだけであった。
* * *
「……赤司君、前髪切ったの?」
「ああ、だいぶ伸びてたからね」
実は彼が前髪を切るところを見ていた綱吉だったが、流石に指摘しなければ怪しまれるだろうと、その変化を問う。
「征ちゃんったら自分で前髪切っちゃったのよ?もう、呆れちゃうわ……」
「あ、はは……まあ赤司君ですし」
実渕の愚痴っぽい呟きに、綱吉は苦笑を浮かべる。
洛山はやっぱり、安定しているな……。
そう思った綱吉は周りを見回す。
洛山の近くにいる他校の人々は、ピリピリとして落ち着かないが、当の洛山は誰一人として動じていない様子だった。
今のところは敵もおらず、綱吉は気の抜けた表情で試合を見る。
そろそろ、試合終了のブザーが鳴る……。
* * *
「……あ」
「クフフ、負けてしまいましたね」
試合終了のブザーとともに、火神大我のダンクが決まった。
試合の様子を見ていたクロームと骸は、特に驚いた様子も見せずに、誠凛チームやその応援団の歓声を聞いていた。
「彼らを護衛しているだけの僕達には関係のないことですが……クローム、気になるのなら、行っても良いのですよ」
「……今、私が行っても、かける言葉はありません……」
「クフ、そうですか」
コートを背に、外に去っていく彼らを目を細めて見詰めながら、クロームは唇を噛み締める。
青峰は練習をサボったり怠けたりしていたが、今吉を始めとする彼らが、どれだけ本気で挑んでいたのか、ほんの少ししか練習を見ていないクロームにもよくわかっていた。
悔しいだろう、悲しいだろう。
だが彼らの気持ちの、ほんの一端しか知らない彼女に、かける言葉はなかった。
「……大会はもう終わりですが、護衛はまだまだ続きます」
「はい……」
控え室に捌けた彼らを追って、二人は足早に階段を降りていった。
* * *
「シュゥー……」
静かに息を吐き出し、『彼』は会場の様子を見下ろす。
バスケットボールの試合に集中する選手と観客達の中に、常に緊張した空気を纏っている人々を見付けて、吐く息を止める。
一般人に紛れ込もうとしているようだが、油断のない足運びも、常に筋肉に緊張を走らせている様子も隠しきれていない。
耳まで避けている口を歪めてにったりと笑い、コートを後にする選手の群れの1つを追った。
選手達は餌だ。
『彼』はそれに食いつく獲物だが……。
「いひ、ひひ、餌ごと食い付くしちゃる」
妖しい笑いを1つ残し、その場を去った。