if群青×黒子、違う世界の人たち

某空港、スクアーロは待ち合いロビーで佇み、ある人物を待っていた。
既に日が沈み、夜の帳が訪れているその時刻の空港は、人が溢れかえり、出口ドアは絶えず人を吐き出し続けている。
その人の流れの中に、目立つ赤い頭と、その後ろ10メートルにピッタリとついているお下げ頭を見付けたスクアーロは、気配を隠してそのお下げ頭の人物に近付いた。

「どうだぁ、風。何も問題はなかったかぁ?」
「ええ、貴女の優秀な部下のお陰でね」

お下げ頭……風の隣に音もなく並んだスクアーロに、風は動揺することなく、平然と返事を返す。
自分の気配に気付かれていたことに少し落ち込みつつも、スクアーロは風に礼を告げた。

「あんたのお陰で助かった。火神大我がアメリカに行くとわかったときは、どうなることかと思ったが、無事やり過ごせたぁ」
「私の力で善良な少年が一人救えるのなら、これくらいの仕事はいくらでもお請けしますよ」

そう、火神がアメリカに行き、師匠である女性に教わっているその間、彼の護衛を風が請け負ってくれていたのだ。
そしてその風の耳にも、日本で見付けられたキメラの存在は届いていた。

「キメラ、というモノについて、一通りの話は聞いていますよ」
「……こちらの予測としては、キメラの成体は少なくとも10体以上はいる」
「大会が終った後に、彼らを保護するとも聞きました」
「ああ、こう色んな場所に散られていたら、ろくに守ることだって出来ねぇ」
「大会の最中は、手伝わなくても大丈夫ですか?」
「……出来ることなら、人手は多い方が良いが、あんたも疲れてるだろう。しばらく休んでろ」
「……貴女ほどは、働いていないと思いますがね」
「……オレはまあ、良いんだよ、気にしないで」

頬を掻きながらそう言ったスクアーロ。
話は終わり、と言わんばかりに、早足に風の前に出る。
そのまま火神大我の隣を通り過ぎ、一人の男と擦れ違った。
そしてぶつかったその直後、男の体がぐらりと揺れて、倒れる。
超高速の手刀。
拳法の達人である風でもなければ、その残像を目で見ることも叶わないほどの速さ。
倒れた男は部下が回収し、火神大我には気付かれることなく敵を退ける。
そのままスクアーロは姿を隠したが、彼女と入れ替わりに、風の元へヴァリアー隊員が現れた。

「ご協力ありがとうございました。ここからは我々が引き継ぎますので、風様はお体を休めてください」
「そうですか……。では、何かあればご連絡を」
「かしこまりました」

風が火神大我から離れていく。
その後ろ姿を目で追いながら隊員は静かにため息を吐く。
本当に休んでほしい人は、これから再び、誠凛の選手達の護衛につく。
明日からは地方の選手も東京の選手も、みな同じ場所に集まるのだから、まだ楽にはなるのだけれども、ここで無理をしてほしくないというのに。

「もう少し、オレ達が強ければよかったのにな……」

隊員は疲れたようにそう言うと、直ぐに気持ちを切り替えて、火神大我の背を追う。
大会は明日から。
不安ばかりの1週間が、幕を開けた。
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