if群青×黒子、違う世界の人たち

「……と、言うわけだから、大変だと思うけど外側からの警護、宜しくね獄寺君!!」
「沢田さんの仰せのままに!」
「そう言う堅苦しいのは要らないからね!!」
「うっす!」

獄寺はにかっと笑うと、自身の持ち場に駆けていく。
ちゃんとわかっているのだろうか……。
返事だけは元気なんだけどなぁ。

「じゃあ、オレ達も行こうか山本」
「おう!」

今日はバスケ部と共に東京へと行く予定の、綱吉と山本(+獄寺)。
明日からは彼らが待ち望んでいた、ウィンターカップの開会式がある。
きっと全員が興奮しているのだろうな、という綱吉の予想は大きく裏切られた。

「……なんか、レギュラーの人以外は結構、……沈んでる?ね?」
「どうしてだろうなー?」
「んー……たぶん、」

たぶん、彼らは希望を無くしているんだ。
綱吉はそう思う。
どれだけ努力しても、どれだけ頭を捻っても、圧倒的な才能の前には敵うことはない。
無冠の五将だけならば、まだここまでではなかったんだろう。
キセキの世代、赤司征十郎。
才能の塊である彼の存在が、彼らから希望を奪っているのだ。
どれだけ努力しても、結果に繋がることはない。
やる気を出すだけ、無駄な話。
嫌になっちゃったんだろう。
やる気を出して努力して、その度に才能の差を見せ付けられて挫折することが。

「オレは、ちょっと気持ちわかるかも」
「なんで?」
「ほら、オレ、ダメツナだからさ。昔はよく、『結局何やったってダメなんだから、努力するだけ無駄』って思っちゃってたから、気持ち、わかる気がする」
「ん~……ツナはダメなんかじゃないと思うけどなぁ」
「あはは……」

そりゃあ今は、リボーンに散々鍛えられて、(逃げ)足は早くなったし、(死にたくないから)成績だって良くなった。
時にはスクアーロにイタリアに拉致られて、強制イタリア語研修に参加させられたりもして、イタリア語英語が話せるようにもなった。
でも、十何年と生きてきて染み付いた負け犬根性は、そう簡単に消えるものではない。

「オレはダメツナだよ。でも、だからこそ今、オレはこの場所に立ててるんだよ」
「ん、……ツナがそう言うなら、そうなのかもな」

ちょっと恥ずかしそうにそう言った綱吉と、それに対して嬉しそうに笑う山本。
周りの人はこう思っている。
お前ら男同士で何をイチャついているんだ、と。

「――……さて、全員乗ったね?」
「えぇ、全員揃ってるわ。運転手さん、お願いします」
「はい」

全員がバスに乗ったのを確認した実渕の声に、運転手が返答し、バスはすぐに動き出した。
運転手は、ボンゴレ自警団の者である。
抜かりはない。
きっと、大丈夫。

「綱吉、武、今回は無理矢理誘い出したりして悪かったね」
「あ、いや……気にしないで。オレもバスケには興味あったし」

そう答えながら、心の中では『無理矢理誘ったって自覚あったんだ』などと、結構酷いことを考えていたりする。
だが自警団の一員としては好都合。
諸手を挙げて歓迎だ。

「ね、赤司君。大会に出るのって、レギュラーの人、だけなんだよね?」
「そうだよ」
「……そっか」
「それがどうかしたのかい?」
「いいや、何でもないよ」

ただちょっと、寂しいな、と思っただけ。
その言葉を飲み込んで、綱吉は前を向いた。
彼らは同じバスケ部員だけど、その心はまるでバラバラで、これではとても、一緒に戦っているとは言えない。
そう思っただけの話だ。
部外者の自分が、口を出して良いことではない……と思う。
それでも口を出してしまうのは、綱吉の綱吉たる所以である。

「……ただもうちょっと、赤司君はゆっくり進んでも良いと思うよ」
「……え?」
「あ……あ!ごめん!今のなしね!気にしないで!!」

オレ何を偉そうに語っちゃってんのー!? なんて心の中で叫びながら、綱吉は思わず頭を抱える。
赤司の不思議そうな視線を感じながら、バスの旅は順調に進んでいったのだった。


 * * *


「里ちーん、東京行ったら、駅で限定まいう棒かおーね」
「うん。キットカップの限定も買おうね」
「敦……あんなに楽しそうにして、オレは嬉しいよ……」
「兄貴分通り越して親みてーになってっけど、お前それで良いんだな?これ、オレちんの反応がおかしいわけじゃねーよな?」

一方秋田、陽泉高校でも、生徒達が出発の準備をしていた。
何故か着いてきている炎真とジュリーだが、余りにも自然に馴染んでいるため、それに疑問を挟む者はいなかった。
潜入メンバーの中で一番然り気無く潜入出来ただろう二人は、陽泉のエース二人とのんびり会話を交わしながら、周囲を警戒し続けていた。
仲間のサポートがあるとはいえ、キメラの話を聞いて平常心でいられるほど、彼らも図太くはない。
バレない程度に視線を走らせていると、乗り込んできたバスの運転手と目が合う。
彼もまたボンゴレ自警団の一員だ。
お互い軽く会釈をして、運転手は全員の乗車を確認するとバスを発車させた。

「ん、あれ?」
「あ、お菓子が……」

発車直後からお菓子の袋を開けていた紫原が眉間にシワを寄せる。
それを見た炎真も、顔を曇らせた。

「ボロボロだね。」
「んー、振ったりはしてないんだけど」

何だか先行き不安だな、なんて考えた炎真と、ボロボロでも味は変わらないとお菓子をそのまま食べ始めた紫原、それを見守る氷室とジュリー、そして陽泉バスケ部員達を乗せ、バスは東京へと向かっていったのだった。


 * * *


「……て、結局敵なんて一人も来なかったじゃない」
『いや、何人か来てただろぉ。……雑魚だったが』
「あんなの敵なんて呼ばないよ。僕は強い奴が来る、って聞いて来たんだけど。もしかして嘘吐いたの?」
『来るかも、とは言ったが、来ると断言はしてねーだろぉがぁ。まあ、気が向いたら、そのまま東京まで着いてこい』
「ワオ、そこで面白い敵と戦れるって?あなたがそう言うのなら、着いていってみようかな」
『……そこまで、オレの言葉を重視されても困るんだがなぁ。まあ、キメラはきっと、東京に来る。それだけは言っておくぜぇ』
「ふぅん、キメラ、ね。良いよ、あなたの思惑に乗ってあげる。楽しみにしてるよ。キメラとの戦いも、君との戦いも」
『……なんでオレがテメーと戦うことになってんだぁ?』
「さあね」

一方的に言うだけ言って、ぶつりと切れた電話に、スクアーロは頭を抱えたくなる。
東京に雲雀が来たら、出来るだけ遭遇しないように努力しよう。
そう固く心に決め、スクアーロは受話器を置いたのであった。
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