if群青×黒子、違う世界の人たち

『――……スクアーロ』
「ああ゙、どうしたぁ?」
『キメラの事はオレが話すよ……』
「……そうかぁ」

夜、誠凛高校の連中への襲撃に警戒しながら、仮設アジトで待機していたスクアーロの元に、綱吉から連絡があった。
いや、綱吉だけでなく、手の空いている潜入メンバー達がモニターを介して集結していた。
今夜は比較的余裕があるようだ。
炎真達、陽泉潜入メンバーだけがこの場にいない。
綱吉の話だと、紫原に気に入られた炎真と、氷室に絡むジュリー、二人の歓迎パーティーをしているらしく、この場には来られないそうだ。
綱吉達も寮に入っているのだが、歓迎パーティーは昼間の内に終わらせたらしい。

「……沢田綱吉、キメラとは何です?」
「……うん、父さんとスクアーロには黙っててもらったんだけど、今日は色々あって……」
「クフフ……つまり、何か我々にとって良くないことがあった、と言うことですね?」
「……そう、なんだ」

モニターの向こうの綱吉の顔は固く、酷く緊張している事が窺えた。
なかなか話し出せない綱吉を、骸だけでなく、クロームや他のメンバーもじっと待ち続けていた。

「……父さん達門外顧問とレヴィ・ア・タン率いるヴァリアー雷撃隊が今日、敵のアジトの1つを襲撃したんだ。報告によるとそこで……、人体実験の形跡を、確認したらしい……」
「な……!」
「実験場には、キメラ……つまり合成獣の死体が一つあったって……」
「詳しくその場を調べた奴の報告では、恐らく何体ものキメラが作られており、その力は並みの人間とは比べ物にならない、らしい。詳しい資料は後から送らせる」

唇を噛んで苦しげな様子の綱吉の言葉を、最後は結局、スクアーロが引き継いだ。
その顔はいつも通りの無表情で、それを見た骸は皮肉っぽい顔で笑って責めた。

「クフ……、天下のボンゴレファミリーが、人体実験に手を出し、尚且つ身内がそれを止められないとは」
「骸……!」
「……言う通りだぁ。あのカスどもを捕らえられず、その上数多の一般人が、現在までに犠牲になっている。弁解のしようがねぇよ」
「んま、骸君の言いようもわかるけど、アジトの1つも突き止められなかった僕達に言えることじゃないよ」
「……ふん」

スクアーロは素直に骸の言葉を受け入れ、それに続いて白蘭が言った言葉に、骸は苦々しく顔を歪めてそっぽを向く。
いつものようなふてぶてしさや余裕が感じられないその表情に、初めてスクアーロは表情を変えた。
眉間に僅かにシワを寄せ、目を伏せる。

「……とにかく、起きた事は変えられねぇ。一刻も早く、実験体を調達したルートを探り出し、奴らの息の根を止める」
「……クフ、実験体の『調達』ですか。まるで物のような扱いですねぇ」
「……そうだな。そして実験体にされた奴らは、物以上に酷い扱いを受けている事だろう」
「ならばさっさと見付けてやれば良い!」
「今、オレよりも優秀な隊員達が、休む間も無く探している!」
「二人ともやめてよ!!」

全員が、やりきれない思いを抱え、ぶつける宛のない怒りをもて余していた。
グシャグシャと髪を掻き乱したスクアーロは、再び『とにかく』と強く言うと、話を元に戻した。

「キメラっつう不確定要素が出てきた以上、このままキセキや無冠の奴らを影から守りながらじゃあ、オレ達はじり貧だぁ。……もうこれ以上隠していたら、守りきれねぇんじゃねぇのかぁ?」
「……それは、」
「僕も賛成かな♪今すぐに、かどうかは別として、彼らがどんな状況に置かれてるのか、バラす方向で行くべきじゃない?」
「だが、バラしたところで、奴らが素直に守られてくれると思うか?」
「うーん……ちょっとどころか、かなり難しい気がするのな。守られるどころか、自分達で何とかするって言い出しそうだし、オレ達が敵だって言い出すかもしんねーよな」
「確かに、拙者達を信用してもらうには、判断材料も少ないですからね。彼らも混乱すると思いますし、バラすとしてもタイミングは考えねばなりませんね」
「……うむ、極限わけがわからんが、バラす方が奴らの為になる、のか?」

了平の問い掛けに、全員の視線はスクアーロに向く。
一際難しい顔をして、スクアーロはゆっくりと口を開いた。

「……結論を言えば、わからねぇ」
「そりゃそうだ♪」
「だがぁ……、バラせば堂々と奴らの前で動けるし、奴らを纏めて匿える事が出来れば、旧ボンゴレの探索に今よりも多く、人員と時間が割ける」
「確かに一所に纏まってもらっていた方が、拙者達にとっては守りやすいですが、そうすれば彼らを、裏社会の抗争に本格的に巻き込むことになってしまいます」
「確かに、それで旧ボンゴレ以外のマフィアに狙われたりしたら元も子もねぇな。だがそりゃ命あってこその話だぁ。ここで守りきれずに死んじまったら、それこそ……」
「元も子もない、って訳だね♪」

次に全員の視線を受けたのは綱吉で、たっぷりと時間を使って悩んだ彼は、悩ましげな表情のまま、話し出した。

「……彼らと一緒にいてね、スゴくバスケが好きなんだって分かったんだ。これから、大きな大会がある。赤司君達はその戦いの為に今まで厳しい練習を積んできた。それを、こんな事で邪魔したくないんだ」
「……バラさない、と言うことかぁ」
「せめて、大会が終わるまでは、彼らには何も知らせずにいたいんだ!……ダメ、かな?」

こんな事、なんて言葉で済まされるのは、直接関わった人々からすれば冗談ではないだろうが、だが今守っている彼らからすれば、全く関係のない事なのだ。
そんな事で、自分達の魂を懸けた勝負を邪魔されたくない。
その言い分は納得できる、その通りだと思う。

「大会の終了は今日から半月以上後かぁ……」
「クフフ、その程度、ボンゴレの掃除屋と呼ばれた貴女なら、容易いことでしょう?」
「……チッ、大会が終わると共に全員纏めて回収し、ボンゴレアジトで厳重な監視下に置く。それまでは今まで通り、バレないように充分注意しろぉ」
「ありがとう、スクアーロ!」

舌打ちをして、ヤケクソ気味に言ったスクアーロに、綱吉が顔を輝かせた。
一体洛山バスケ部で何があったのか、綱吉は彼らの事を応援しているらしい。
まあ確かに、彼らの直向きな様子には、応援したくなるのかもしれないけど……、なんて思うのはスクアーロの横で話を聞いている隊員である。
結局負担が増えるのは、隊長なんじゃないのだろうか。
知られずに守りながら色々と調べなくちゃならないんだから。

「……それで、沢田ぁ。テメーらちゃんと東京に来られるのかぁ?」
「それは大丈夫だよ!何か『君達なら優秀なバスケ選手になれる、良ければ僕達と東京に行って大会を見てみないかい?』って言われて、赤司君達と一緒に行く事になったんだ」
「……そうかぁ」
「後……黛さん、……って黒子さんの新型?って人なんだけど、あの人もちゃんと見ておいた方が良いんじゃないかな?」
「それだけ優秀な選手として仕上がってると言うわけですか?」
「オレなんか全然見付けらんなくてなー」
「あの影の薄さなら旧ボンゴレの奴らも見付けられないかもしれないけど、でもオレ達が見失って、その隙に襲われるとか有りそうで怖いし、最終的にボンゴレアジトに皆を匿うなら、そのメンバーに黛さんも入れてほしいんだ」
「そこまで言うのなら構わねぇ。しかし、だいぶ人数が多いなぁ……」

キセキの5人に無冠の4人、幻の6人目と火神、イーグルアイの伊月、監督の相田リコ、マネージャーの桃井さつき、ホークアイ高尾和成、火神の兄貴分に当たる氷室辰也、そして新しい影、黛千尋。
総勢17人。
うぅん、確かにかなりの大人数である。

「ま、うちのアジトなら、充分その人数を受け入れられる広さあるでしょ?何とかなるなる♪」
「……そうだな。とにかくこの先、全員死ぬ気で奴らを守れ。例の大会が終わったとき、対象全員を回収し、アジトに戻る。後処理と移動方法などは後程連絡。お前らはとにかく、バレずに対象を守り続けろぉ」

スクアーロの言葉に全員が頷いて、通話を終える。
誰ともなくため息を吐く。
スクアーロが見上げた先の壁に掛かった時計は、そろそろ深夜零時を指そうとしていた。
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